同性愛の高齢男性「もういい年だから…」悩んだパートナーとの“最期”
Finasee / 2022年5月6日 11時0分
![同性愛の高齢男性「もういい年だから…」悩んだパートナーとの“最期”](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_10733_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
「ついのすみか」をどうするか
千里さん(仮名、70歳男性)は3つの店舗を経営する飲食店のオーナー。東北地方で生まれ育ち、高校卒業と同時に上京しました。千里さんにはもう20年共に生活している同性のパートナー(60歳)がいます。パートナーがフリーランスのライターで、それなりに仕事はあるものの千里さんほどの経済的基盤がないことが心配です。時折、事業を誰に引き継ごうか、どのようにしたらパートナーに財産を分与できるのか、と考えています。
千里さんのお店の常連に、近隣の不動産を手広く扱っている会社の社長がいます。千里さんが夢物語のように、いつか自分で好きなように設計した家に住みたいと話していたところ、ある日、リノベーションができる広いマンションの部屋が売りに出そうだと教えてくれました。相場より少し安くしてくれるとのことで、千里さんの資産からすると買えない額ではありません。しかし、パートナーにも少しお金を出してもらった方がお互い気兼ねなく暮らせるような気もします。
家でパートナーに話してみたところ、「すごく素敵だと思うけど、もういい年だから、介護が必要になることもあるだろうし、ずっと住めるとは限らないよね。そのときに応じて家を住み替えられるほうがいいんじゃない? どちらか先に死ぬんだし、そのときも同性パートナーが相続できずに追い出されたりして大変だって聞いているよ」と後ろ向きでした。もういい年だからこそ“ついのすみか”を作りたいのに……と千里さんは悲しくなり、自分だけでお金を出して買ってしまおうかなと思案しています。
高齢者の住宅事情2000年に介護保険制度が導入される前は、家で生活することが難しくなった高齢者の多くは医療機関に入院し、そこで寝たきりとなって最期を迎えることが多くなっていました。介護保険制度では、できるだけ住み慣れた地域で最期まで過ごせることや、リハビリテーションや自立支援に重点が置かれています。
国土交通省の資料(※)によると、自宅で最期まで過ごしたいという希望を持つ高齢者が多い一方で、昔から住んでいる自宅は老朽化やバリアフリーでないなどの課題を抱えていると指摘されています。
身体機能が低下して車いすや介助が必要になっても、自宅にとどまりたい人65.1%のうち、自宅を改修する意向がある人は15.8%にとどまっており、問題があると分かっていても自宅の改修のような大きな決断はしにくいことがうかがえます。実際に、何らかの疾患で入院し、治療が終わっても、家の環境が生活に適さないために退院が難しくなってしまうような例はよくあります。
「住み慣れた自宅」という言葉の響きは美しいですが、自分の状態が変わってしまうと、自宅は必ずしも(そのままの状態では)住みやすくないというのが現実です。
※高齢期の居住の場とサービス付き高齢者向け住宅の現状に関する調査報告
そこで最近増えているのが、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅、高齢者向けの賃貸住宅などの選択肢です。特別養護老人(特養)ホームや介護老人保健施設(老健)といった「介護保険施設」は、要介護度が重くなってから「入所」して、施設スタッフの介護を受けながら生活しますが、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅、高齢者向け賃貸住宅はあくまで住居ですので、そちらに「住み替える」ことになります。
住み替える際には、費用面や権利面はもちろん、介護が必要になった場合にどのような形式でサービスを受けることができるのか、“みとり”まで対応しているのか、等を確認する必要があります。住み替えの目的はさまざまで、末長く安心して暮らしたいばかりではなく、元気な間にできるだけ楽しい生活を送ることを目的とする場合もあるでしょう。
自分がどのように暮らしたいのか、何に重点を置くのかをよく考えることが必要になりますが、いずれにしても、いつか必ず起こること、つまり心身機能が弱ったときの対応については、その時点になって自分で検討し判断することはかなり難しくなります。おひとりさまや身近にこのような検討を手助けする人がいない場合は、例えば任意後見契約を活用するなどして、信頼のおける人に適切な療養環境を整えてもらう手はずをとっておくことが重要です。
●千里さんの下した「最期の決断」とは… 後半へ続く>>
沢村 香苗/日本総合研究所 スペシャリスト
東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。
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