持ち主不明の記録5095万件、社会保険庁は解体…衝撃の「年金記録問題」の“その後”とは
Finasee / 2022年5月31日 17時0分
Finasee(フィナシー)
年金不信の元凶の1つ、「年金記録問題」はなぜ起きたのか
個々人の年金の受給額は、過去にどれだけ被保険者として加入し、保険料を払ってきたかで決まってきます。その加入や納付の記録こそが年金記録で、年金記録に基づいて受給額が計算されることになっています。
25年前の1997年1月に基礎年金番号制度が導入されました。それまでは国民年金、厚生年金それぞれの別々の記号(4桁)・番号(6桁)で管理されていたり、転職によって記号・番号が変わったりしていたところ、基礎年金番号という1人1つの10桁(4桁+6桁)の年金番号で年金記録を管理することになりました。
ところが、基礎年金番号でもって個々人の全ての年金記録が管理されているはずのところ、2007年5月に、基礎年金番号に統合されていない年金記録(持ち主不明の年金記録)が約5095万件もあることが発覚しました。
紙の台帳で管理された記録のコンピュータへの転記でのミス(氏名、生年月日の誤入力、入力漏れ)が残ったままであったこと、記録の誤りや漏れを減らす取り組みがされていなかったことなどが原因となっており、これまで年金制度への加入や保険料納付についてしっかりした管理がされていなかったことが明らかになりました。年金行政を担当する当時の社会保険庁に対しては、それまでにもすでに不祥事などによって批判がされていましたが、この5000万件以上の宙に浮いた年金記録の発覚がさらに年金不信を生み出すこととなりました。
自分の年金記録が管理されていないとなると、年金が受けられなくなるのではないかと不安になるのも当然のことでしょう。
年金記録の解明に向けて結婚で名字が変わったり、氏名の読み方が複数あったり、転職が多かったりする人に記録の誤り、漏れが多かったのですが、こうした年金記録問題の解決に向けて国は動き出すことになります。
2007年12月から2008年10月にかけて、記録漏れの可能性が高い人から順次、「ねんきん特別便」を送り、記録の確認を進めることになりました。そして、その後、毎年誕生月(1日生まれの場合はその前月)に「ねんきん定期便」を被保険者に送付し、被保険者は加入記録や将来の年金給付についての情報提供を受けつつ、記録の誤りや漏れがないかを確認することができるようになりました。
もし誤り・漏れがあれば、「年金加入記録回答票」を記入して送る、社会保険事務所(2010年以降は年金事務所)に行って記録調査をしてもらうなどの対策が用意されました。基礎年金番号へ未統合であった自身の記録が見つかった場合は基礎年金番号への統合がされ、自身の記録として追加されることになります。こうした取り組みを続けた結果、これまでに約5095万件のうち約3301万件の記録が解明されています(日本年金機構「アニュアルレポート2020」より)。
また2007年6月に、年金記録の訂正について国民の立場に立って公正な判断を行うため、総務省に年金記録確認第三者委員会が設置されました。第三者委員会は、弁護士、社会保険労務士などで構成され、厚生労働省に年金記録がなく、記録についての物的な証拠がなくても、本人の申立てや関連する資料を基に公正に記録訂正の判断を行うこととなっていました。8年間活動した第三者委員会は2015年6月末で廃止され、その後の訂正請求に関する業務については厚生労働省に移管されていますが、第三者委員会への記録訂正の申立て約30万件のうち、約27万件が処理され、約15万件の記録を回復することができました(年金記録確認第三者委員会「年金記録確認第三者委員会実績報告書(概要)」より)。
以上のように、年金記録問題以降、ここ15年間の間に「受け取れるはずの年金を受け取れるようにする」ための取り組みが行われてきました。
それでも永久に解明できない記録もある様々な不祥事や年金記録問題などから社会保険庁は解体され、2010年1月からは非公務員型の日本年金機構が年金の運営業務を行うことになり、現在に至っています。年金記録問題が明らかになって以降、引き続き年金記録の確認、調査、統合は進められていますが、それでも宙に浮いたままの記録が残ってしまっている状況です。
先述のとおり、約3301万件の記録は解明されていますが、約1794万件の記録が「解明作業中またはなお解明が必要な記録」となっており、前年度(2019年度)と比べ約29万件減少しているとはいえ、依然として多くが残っています(日本年金機構「アニュアルレポート2020」より)。年金記録問題発覚からしばらくの間は記録の解明が進んでいましたが、時とともにその件数は減りつつある状況で、解明されていないまま残り続けている記録があると言えます。
本人の死後に、その遺族によって本人の記録が判明した場合は、その記録の分の年金、つまり「もらい忘れの年金」は代わりに遺族が受け取ることになりますし、遺族を対象とした遺族年金の額が増えることもあります。しかし、自身の記録かどうか判明しないまま、あるいは確認しないまま本人が亡くなってしまうと、その遺族には分からないことも多いでしょう。まして、何十年前の加入記録や、短期間の勤務による厚生年金加入記録などはなおさらとなります。そういった記録は永久に宙に浮いたままとなることもあり、全ての記録を解明させることは現実的には難しいと言えます。
自身で年金記録を確認し、将来へ備える姿勢が大事このような年金記録問題や、その解決に向けての取り組みがあったことを踏まえ、これからどのように自身の将来の年金収入を見込むかが重要となってきます。年金制度で誤解されている部分については次回以降取り上げますが、現状の公的年金制度がどのようなものか、今後どのような制度改正が行われるかなどを理解し、自身の年金記録もしっかり確認し、不明な点は年金事務所などで相談をすることが現実的な対策です。
多くの人にとって、年金は高齢期・リタイア後の主な収入源となります。公的年金制度の老齢年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)は終身で受け取れる年金となり、長生きリスクに備える柱となります。また、公的年金制度には高齢期に受ける老齢年金だけでなく、障害年金や遺族年金など様々な給付があります。年金についての不信はあるかもしれませんが、多くの人がいずれは年金を受給する立場になりますし、障害年金や遺族年金ならば自分が全く予期しないタイミングで受給することもありえます。
受けられるはずの年金はしっかり受けられるよう、「ねんきん定期便」をはじめ、確認すべきものは確認する、その姿勢が非常に重要です。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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