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「彼に全てを遺したい」同性カップルの財産分与…切願を阻む日本の現状

Finasee / 2022年6月3日 11時0分

「彼に全てを遺したい」同性カップルの財産分与…切願を阻む日本の現状

Finasee(フィナシー)

身じまいの悩み

千里さん(仮名、70歳男性)は3つの店舗を経営する飲食店のオーナー。東北地方で生まれ育ち、高校卒業と同時に上京しました。千里さんにはもう20年共に生活している同性のパートナー(60歳)がいます。パートナーがフリーランスのライターで、それなりに仕事はあるものの千里さんほどの経済的基盤がないことが心配です。最近は専ら、事業を誰に引き継ごうか、どのようにしたらパートナーに財産を分与できるのか、と思案しています。

●パートナーと“ついのすみか”で最期まで…千里さんが下した重大決断

家を買うことを決めた千里さんは、自分の死後に財産をきちんとパートナーに遺す方法を調べ始めました。できれば、事業が好調なときも苦しいときもそばにいてくれた彼に全てを遺したいけれど、姉と弟にも渡さなければならないのだろうか、相続税を払えるようにしておかないといけないのでは――など、考えてみると知らないことばかりです。もし急に自分の体調が変化したときには、店じまいをきちんとしないと従業員に迷惑をかけてしまうのも心配です。パートナーにそんな話題を持ちかけると、縁起でもないと言われてしまいます。

まずは、自分とパートナーの関係を法律上はっきり形にしておきたいのですが、パートナーシップ制度だけでは不十分だそうです。周りでは養子縁組をするカップルもちらほらいるようですが、パートナーは両親や兄と妹、甥(おい)、姪(めい)ととても仲が良く、その縁を断つことは千里さんも望んでいません。元気なうちに何とかしなければという焦りが募っています。

成年後見制度

亡くなることを考える前に、まず、千里さんがもし認知症などのために十分な判断力が持てなくなったときに、不動産や預貯金を管理したり、必要なサービスを受けて生活ができるように契約をしたり、また不利な契約などをしてしまわないようにしなければなりません。

その際に利用できるのが「成年後見制度」です。成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な人を対象として、成年後見人が支援や保護を行う制度です。

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」があり、法定後見制度は本人の判断能力が不十分になった後に家庭裁判所に対して申し立てを行い、成年後見人を選任します。判断能力が不十分であれば「補助」、著しく不十分であれば「保佐」、判断能力が全くなければ「後見」という3つの類型があります。

ただし、制度を利用する前には誰かが居住地を管轄する家庭裁判所に手続きの開始を申し立てなければなりません。今のところ、同性パートナーが法定後見制度の開始の申し立てをすることはできず、千里さんの場合は四親等内の親族が行うか、住んでいる自治体の長が行うことになります。

また、同性パートナーが後見人として裁判所に認められることも難しいため、千里さんが望むような、パートナーが家や財産の管理をすることは実現できない可能性が高くなります。後見人はあくまで千里さんの権利を擁護することがミッションになるので、場合によってはパートナーに対してこれまでのように経済的な支援ができなくなるかもしれません。

任意後見制度は判断能力があるうちに自ら任意後見人を選び、何を委任するかを定めておくことができるものです。この場合は、千里さんが任意後見人としてパートナーを選んで任意後見契約を結んでおけば、千里さんの判断力が弱ってしまったときにパートナーが任意後見監督人(任意後見人が適正に後見を行っているか監督する人)選任の申し立てを家庭裁判所に行って、制度の利用を開始できます。

信託

任意後見制度と並んで近年注目を集めているのが「信託」の仕組みです。信託契約は、自分の財産(お金、不動産、株式等)を信頼できる人に預け、自分が決めた方針(何のために使うか、誰のために使うか)に沿って運用・管理してもらう仕組みです。

信託は、委託者(財産を預ける人)、受託者(財産を管理・運用する人)、受益者(財産から生じる利益を得る人)の三者の関係から成っています。委託者と受益者が同じ人の場合もありますし、異なる場合もあります。委託者の財産の所有権は受託者に移転しますが、受託者はその財産を信託の目的以外には使えません。元々は信託銀行が信託報酬を得るためのサービスとして行っていました(商事信託)が、現在は個人間でも信託契約を結ぶことが可能(民事信託)です。特に、家族をはじめとした密接な関係を持つ人との間での民事信託は、家族信託と呼ばれ最近注目を集めています。

成年後見制度では本人の財産を保全するという目的上、柔軟に財産を使うことは難しい一方で、信託制度の場合は信託目的に応じて柔軟に財産を使うことが可能です。ただし受託者は本人に代わって介護施設入所のような契約を結ぶことはできません。それぞれの制度の目的の違いを知り、一部の財産のみ信託の範囲とするなど、自分の目的に即して組み合わせていくことも必要になります。

千里さんの場合は、委託者と受益者を千里さん、受託者をパートナーにしておくことで、千里さんが弱ったときにも、パートナーが千里さんの財産を2人のために使い、今までのような生活を送ることができるかもしれません。一方で、パートナーの心身機能が先に低下した場合は、やはりそれがかなわないことになります。例えばパートナーの甥や姪も含めて検討をしていく方がよいかもしれません。

●パートナーを我が子に!? 悩んだ末の「死後計画」とは… 後半へ続く>>

沢村 香苗/日本総合研究所 スペシャリスト

東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。

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