世界的大手アパレルの末路は「株価4円」…上場企業を襲った初の事態【6月16日はどんな日?】
Finasee / 2023年6月16日 12時0分
Finasee(フィナシー)
・「世界トップ」の有名化粧品会社が破産の衝撃…“桁違い”の巨額負債
コロナ禍で最初に破綻した上場企業は「レナウン」です。破綻は2020年5月15日、第1回目の緊急事態宣言が東京都などを除く39県で解除された翌日のことでした。取引所はその日のうちにレナウンの上場廃止を決定します。
同年6月16日にレナウンは上場廃止となり、最後の株価はたった4円でした。今日はコロナ破綻第1号のレナウンを例に、上場廃止まで株式を売らずに保有し続けたらどうなるのかチェックしましょう。
100年企業がまさかの破産レナウンは1902年に大阪で創業した大手アパレル企業でした。1972年に販売のライセンスを取得した「アーノルドパーマー」がヒットし大躍進を遂げます。1990年12月期には売上高2300億円を超える世界的なアパレル企業に育ちました。
しかし、バブル崩壊やファストファッションの台頭を受け業績が低迷。2010年から2013年にかけて中国資本を受け入れ一時回復しますが、その後再び業績は悪化し始めます。
そして2020年2月以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い売り上げは大幅に減少し、資金繰りに窮するようになりました。同年5月15日に子会社のレナウンエージェンシーが民事再生を申し立て、実質的な破綻を迎えます。
なお民事再生は企業再建を目指す手続きですが、レナウンは同年10月に民事再生を断念し、翌月から会社を清算する破産手続きに切り替えました。現在も破産手続きは進められており、今年9月に第4回目の債権者集会が開催される予定です。
保有株が上場廃止になったらどうする?ところで、保有している株式が上場廃止となったらどうなるのでしょうか? レナウンのように上場廃止後に破綻した場合、せめて損失を申告し利益と相殺したいと考えるかもしれません。
しかし残念ながら上場廃止後の損失は申告できないケースがあり、レナウンもそうでした。ポイントは株式の価値が失われるまで保管振替機構(通称:ほふり)が継続して管理しているかどうかです。
少しややこしいので整理しましょう。まず前提として、株式を上場廃止まで保有していたということは売っていないわけですから、そもそも譲渡損が発生していません。
売っていなくても株式が無価値化したのなら実質的に損失といえそうですが、上場廃止というだけでは株式の価値はゼロになりません。上場していないだけで企業そのものは存続しているといったような場合、株式には一定の価値が認められるためです。
つまり単に上場廃止となっただけでは損失が発生したとは認められず、損失を申告できないのです。仮に相対取引(※)などで損失が確定したとしても、非上場株式と上場株式の損益通算は2016年以降廃止されたため、やはり基本的に損益通算できません(他の非上場株式などの譲渡益とは損益通算可能)。
※相対取引(あいたいとりひき):取引所を通さず当事者同士で行う取引
出所:国税庁 タックスアンサー No.1465 株式等の譲渡損失(赤字)の取扱い
その例外的な処置が「破産等により株式の価値が失われたときの特例(みなし譲渡損失の特例)」です。以下(ア)~(ウ)の条件を全て満たすと、上場廃止銘柄を購入した証券会社で「価値喪失株式に係る証明書」を発行でき、株価がゼロになったと見なして損失を申告することができます。
(ア)上場廃止銘柄を特定口座で保有していた
(イ)上場廃止時に「特定管理口座」を開設し、上場廃止銘柄を受け入れる
(ウ)「無価値化の事実」の発生まで保管振替機構が管理を継続している
この条件のうち、障害となりやすいのは(ウ)です。「無価値化の事実」とは破産手続きの開始など、その株式発行企業の価値が客観的に失われたと見なされる出来事を指します。
そして保管振替機構は株券電子化に伴い、株主の権利を一元的に管理している機関です。保管振替機構による管理がない場合、証券会社でもその株式を管理することはできません。
(ウ)の条件を難しくしているのは、保管振替機構は一定の条件に当てはまらない限り、上場廃止後すぐに管理をやめてしまうためです。上場廃止から無価値化の事実が確認できるまで期間が空くことは珍しくなく、レナウンにおいても同様でした。このためレナウンは「価値喪失株式に係る証明書」を発行する条件を満たせず、上場廃止まで保有していた株主は損失を申告することもできなかったのです。
このように上場廃止後の損失は申告できないケースが少なくありません。一般に上場廃止が決まると、取引所はその銘柄を「整理銘柄」に指定して注意喚起します。保有株が整理銘柄に指定された場合、取引所で売買できるうちに売ってしまうほうがいいかもしれません。
進化したアパレル企業「SPA」とは?レナウンは競争に敗れてしまいましたが、日本には成功しているアパレル企業もあります。ユニクロやGU(ジーユー)などを展開する「ファーストリテイリング」が代表的ですね。
ファーストリテイリングは単に衣料品の販売を行うだけではありません。自社で製造も行っており、このように自社で製造も行うアパレル企業を「SPA(Speciality store retailer of Private label Apparel=製造小売業)」といいます。
SPAは販売と製造を一手に行うことから顧客のニーズに応える商品をタイムリーに生産できる点が強みです。自社製造のため在庫リスクが大きいですが利益も大きくなりやすく、ファーストリテイリングはこれを武器に大きく成長できたと考えられます。
【ファーストリテイリングの業績】
出所:ファーストリテイリング 決算短信
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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