「一家の大黒柱が早世」「けがで働けない」をもカバー! 実はスゴい「年金の機能」
Finasee / 2022年6月29日 11時0分
Finasee(フィナシー)
毎月のように年金の保険料を払ってはいるものの、「将来年金をいくら受給できるか」「将来年金は本当に受け取れるのか」と気になっている人も多いことでしょう。しかし、公的年金の受給をある種の“損得”でとらえることは「公的年金は保険」であるという本質に照らし合わせれば誤解であると言えます。公的年金を本質からとらえるためにも、なぜ保険なのかということを解説していきます。
「年金=保険」とはどういうことか公的年金は社会“保険”制度となっており、その名のとおり「保険」です。多くの人が出し合った保険料を元にして、不測の保険事故が起きた人に対して金銭給付をする仕組みが保険ですが、公的年金制度の年金給付については被保険者・加入者などから集めた保険料を主な財源としています。
現役時代、働いて収入を得られる時に年金の保険料(国民年金保険料や厚生年金保険料)を払い続け、保険事故が生じて働きたくても働けず収入を得ることが出来なくなった際に、掛けた保険料に応じ、給付としての年金を受けることになります。つまり、保険料をどれだけ納めたかで将来受け取る年金額も変わってきます。
「働けない」「収入を得られなくなる」原因として老齢、障害、死亡があり、実際それぞれの保険事故への給付として、老齢年金、障害年金、遺族年金の3種類の年金があります。公的年金への加入は老齢・障害・死亡のリスクに対しての備えとなります。
ちなみに、自分の納めた保険料が積み立てられて、積立額に応じて将来受けられる、積み立てた分を受け取ると考えている人もいますが、それも誤解です。日本の年金制度は基本的に、現役世代の保険料が現在の年金受給者の給付に充てられる賦課方式を採っており、これにより世代間扶養を実現しています(ただし、保険料の一部を将来の給付原資とする積立金制度はあります)。
保険料納付がなくても年金を受け取れる場合(例:20歳前傷病による障害基礎年金)があったり、財源について国庫負担(税金の投入)があったり、一部例外はありますが、このように公的年金は保険の仕組みで運営されています。
老齢年金は長生きリスクへの備え先述のとおり、年金には老齢年金・障害年金・遺族年金と3種類あり、それぞれに役割があります。まず老齢年金について見てみますと、「個々人が何歳まで生きるか」というのは予測がつきません。最近は定年の延長や再雇用などで、高齢期に働く人も増えていますが、長生きした際に、高齢であるために体力的に働けないこともあるでしょう。医学の進歩もあって平均寿命はますます長くなっていますが、働けない中、長寿であればあるほど段々老後の資金がなくなる恐れがあり、長生きすること自体が(老後のマネープラン上では)リスクとなりえます。いわゆる「長生きリスク」と呼ばれる事態です。
老後資金として準備される貯蓄や退職金には限りがあり、私的年金には給付期間が有期となっていることも多いですが、公的年金の老齢年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)は65歳から一生涯、終身で受給することができます。
90歳、100歳と長生きしても存命中は支給され続けることになるため、これらの老齢年金は長生きリスクへの保険となるでしょう。公的年金制度からの老齢年金は老後資金のベースとなるもので、現役時代に長期間年金制度に加入し、保険料を払っているとその額も多くなりますし、繰下げ受給によって、さらに増額させることも可能です。受給額が多くできれば、長生きをしても老後資金の枯渇を防ぐこともできます。
障害・遺族年金の場合は突然受給者に年金というと高齢期の老齢年金がイメージされ、実際に受給者数も多い年金となっています。将来本当に受け取れるかどうかを心配するのは老齢年金を前提に考えるからと言えます。
しかし、年金は高齢期だけのものではありません。たとえ若くても、ある日突然、病気にかかったり、事故に遭ったりすることもあり、病気や事故が原因で障害が残る場合や、あるいは最悪亡くなる場合もあります。障害により働くことが難しくなったり、一家の大黒柱が亡くなると遺された家族の収入源が急になくなったりすることがありますが、障害が残った場合には障害年金(障害基礎年金や障害厚生年金)、死亡した場合にはその遺族のための遺族年金(遺族基礎年金や遺族厚生年金)があり、年金が支給されることよってその後の保障がされることになります。
病気や事故によって、現役世代でも突然年金の受給対象になるわけですが、これら障害年金・遺族年金についても、それまでに本人(障害年金の場合)あるいは亡くなった人(遺族年金の場合)が掛けてきた保険料によって受給の可否が決まったり、受給額が決まったりします。国民年金保険料の未納期間が多いとそもそも受給ができないことがあります。
したがって、年金の受給者でない、元気であるうち、働けるうちに保険料を掛け続けるほうが、万が一のことが起きた時でも年金の保障が厚くなるでしょう。
保険であることを知れば見方も変わる公的年金には以上のような特徴があります。
「払った保険料の元が取れるか」「保険料を払った分の年金を受け取れないのは損だ」など、時に損得で論じられることもありますが、損得で考えず、保険としての機能をまず知ることから年金への理解が始まると言えます。
ずっと年金に頼ることなく働き続けられること、稼ぎ続けられることが本当は理想的であるかもしれませんが、実際にはそうはいかないことが多く、働けない時、稼げない時が来て、年金はそうなった際の貴重な収入となるのです。
時代に合わせて制度改正が行われ続けた結果、複雑な制度となってはいますが、公的年金の役割を理解するとその本質が見えてくるのではないでしょうか。少子高齢化によって給付額が抑制されている事実は否定できません。しかし、基本的には、保険料をより多く払った人の年金受給額がより多くなるように制度設計されています。
若くて元気な時、働ける時はあまり年金の受給については意識しないかもしれませんが、年金を保険として意識し、将来あるいはいざという時のためにしっかり備えておくことが大切です。国民年金の第1号被保険者(主に自営業者やその家族、学生)で収入が少なく国民年金保険料が払えない場合、保険料免除や猶予が受けられることがありますので、その申請は忘れずに行っておきましょう。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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