「女性が多くて…」10年前に妻を亡くした男性が参加した“ある会合”
Finasee / 2022年8月4日 11時0分
Finasee(フィナシー)
おひとりさまの終活
専門商社の部長を務める文蔵さん(仮名、60歳)は10年前に妻を亡くして以来、1人暮らし。娘は米国の大学を出て今はオランダに住んでいます。出身は九州地方で、地元には妹が2人おり、両親はどちらも介護施設に入居中です。車が好きなので、ドライブを兼ねて週末はよく同僚や同級生とゴルフをしています。
文蔵さんは、入院(詳しくは第3回記事)をきっかけに、家族代わりサービス(詳しくは第7回記事)に関心を持つなど、これから先に起こることへの備えをしたい気持ちが出てきました。
ある日、ゴミ出しに行くとマンションの掲示板に「終活勉強会」のチラシが貼ってあるのが目に留まりました。市役所が近くの公民館で開催するようです。妻はPTAの役員から始まって、地域での知り合いが多く、こういう催し物によく参加していて、亡くなったときは文蔵さんも知らない人がたくさん会葬に訪れて驚いたものです。ふとそんなことを思い出して、文蔵さんは講座に参加することにしました。
勉強会は思ったよりも盛況で、少し文蔵さんよりも年上の女性が多く参加していました。市の高齢者担当部署の人がエンディングノートを配布し、中身や活用方法の説明がありました。市がエンディングノートを作っていることに文蔵さんはまず驚きましたが、その中身がかなり細かいことにも驚きました。
エンディングノートや遺言を書き上げた人はわずかここからは、日本総合研究所が2020年4月に出した調査研究報告書(※)から、全国の50歳以上の男女3224人に行った、いざというとき(入院など)の備えをどの程度行っているかに関するインターネット調査の結果をいくつか紹介します。
※公的介護保険サービスにおける身元保証等に関する調査研究事業
まず、エンディングノートを書いたことがあるかという質問に対して、「書き上げた」と回答したのは全体のわずか3.7%の人でした。「書いている」とした人も8.0%、「持っているが書いていない」人が13.2%で、「知っているが持っていない」人が全体の65.8%と圧倒的多数を占めていました。70代以上になると、やや、エンディングノートを持っている、書いている人の割合は増えますが、やはり「知っているが持っていない」人が大勢を占めます。
拡大画像表示女性の方が男性よりも書いている割合が高いのですが、特に配偶者と死別した人は、既婚、離別、未婚の人と比べて、男女ともにエンディングノートを書いている割合が高いのです。
拡大画像表示配偶者の死を通して、エンディングノートに含まれる情報の重要さに気付かされたり、これからのことを考えたりするきっかけを得たと考えられます。
また、遺言書(公正証書遺言、自筆証書遺言のいずれか)を作成した人は全体の6.6%でした。年齢が上がるにつれて作成した人の割合は増えますが、それでも多いとはいえません。
拡大画像表示エンディングノートや遺言を「書いただけ」では伝わらないエンディングノートや遺言に書いた中身が役に立つということは、自分は何らかの理由で意思表明ができない状態にあるということです。つまり、その中身は自分では実行ができないので、誰かに読んでもらう必要があります。
アンケートではエンディングノートを書いた人のうち、「エンディングノートの保管場所を知っている人は誰もいない」と答えた人が33.3%で、特に未婚の男性では57.1%に上りました。遺言書は作成した人が少なかったので、あくまで参考ではありますが、やはり「遺言書の存在や保管場所を知っている人がいない」と答えた人が、遺言書を作成した人のうち約2割いました。
拡大画像表示エンディングノートも遺言書も、書くのは決して簡単なことではありません。量というよりも、これまで考えたことがないようなこと(医療に関する意向や財産処分の意向など)を細かく記す必要があります。それだけの努力をして書いたことが、適切なときに人に伝わらなければ、結局無駄になってしまう可能性があるのです。
●意思をきちんと伝えるためにどうしたらいい? 後半へ続く>>
沢村 香苗/日本総合研究所 スペシャリスト
東京大学文学部卒業。同大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。研究機関勤務を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。研究・専門分野は高齢者心理学、消費者行動論で、「高齢者の身元保証人、身元保証等高齢者サポート事業に関する調査研究」など実績多数。著書に『自治体・地域で出来る!シニアのデジタル化が拓く豊かな未来』(学陽書房)。
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