年収1300万円なのに…“教育費貧乏”に陥った商社マンがすべき「ただ1つのこと」
Finasee / 2022年11月21日 11時0分
Finasee(フィナシー)
<前編のあらすじ>
相談者・倉田智良さん(仮名・49歳)は商社に勤めるサラリーマン。毎月の手取りは妻・千里さん(仮名・45歳)のパート代と合わせて60万円とありながら、月々の収支は“カツカツ”で「このままでよいのだろうか?」という不安から、FP相談を申し込みました。
“カツカツ”になっている原因はずばり3人の息子たちの教育費。千里さんは自身がオール私立で育った、“お嬢様”育ちということもあり、自身が受けたような教育を子ども3人に与えたいと考えているためです。実は智良さん自身は、地方出身でオール公立で育ったため「私立にこだわる必要はある?」と若干の違和感を覚えつつも、熱心な千里さんに口出しできずにいます。
後編では、実際の教育費の内訳などを見ながら、将来の収支をシミュレーション。そして、智良さん・千里さんご夫婦に送ったアドバイスを解説してもらいました。
前編はこちら>>
教育費は月25万円、食費は月15万円…! 貯蓄もほとんどできていない実態智良さんに教育費の内容を聞いたところ、月額換算で、
長男:学校費用8万円、クラブ活動1万円
次男:学校費用7万円、ピアノ月謝1.5万円
三男:学校費用 1万円、中学受験用塾4万円、ピアノ月謝1.5万円
その他、定期代を合わせて月25万円という内訳です。
倉田さん夫婦の毎月の手取りが約60万円ですから、その約4割が教育費として使われていることになります。1人1人の支出を見てみると、習い事を過度に習わせているわけではありません。
三男の塾代は、中学受験するなら当然かかってくる費用ですし、長男と次男も私立学校通学なら平均的な金額です。しかし、子どもが3人いるとその金額もどんと重みを増します。また、3人とも食欲旺盛な男の子で食費も15万円ほどかかっています。住宅ローンも払っていますし、ボーナスは毎月の赤字に補填され、貯蓄はほとんどできていない実態がありました。
そこで、今のままの状態でも将来の家計は問題ないか、今後の収支をシミュレーションしつつ、計算しました。
今の年収は定年まで続かないという盲点その結果、長男の大学卒業までは、智良さんは今の年収レベルを保つことができるため、赤字にはならないことが分かりました。次男の大学受験等で一時的に学費がかさむ時期があっても、貯蓄の取り崩しで対応しながらどうにか生活できそうです。
しかし、本当にピンチを迎えるのは智良さんが50代後半に差し掛かったあたりです。なぜなら、その頃になると智良さんの給料が役職定年のため1000万円程度に下がる可能性が高いためです。貯蓄は、おそらくほとんど残っていない上、次男の大学費用と三男の高校、大学費用の捻出が非常に厳しいことが分かりました。
智良さんの家庭では、3人の子どもに幼少期から教育費をかけてきたため、貯蓄はほとんどしてきませでした。当然、老後のための貯蓄もできていません。高収入であるがゆえに、その時の収入でやりくりができてきたものの、収入が下がってしまうと、途端にその生活は壊れてしまいます。
それを避けるためには、3人分の大学費用を貯蓄する必要がありますが、今から貯蓄するなら月15万円程度の貯蓄が必要です。現状、貯蓄する余裕は全くありませんから、支出を削るしかありません。15万円もの支出を削るためには、少なくとも三男が私立中学をあきらめる必要がありそうです。
三男の私立中学をあきらめないならば、奨学金という選択肢が浮上しかし、教育費を削る選択肢は千里さんにはありません。
となれば、大学費用は奨学金を利用することになるでしょう。千里さんは体調の問題でパートを増やせませんから、お金を借りて収入を増やすしかありません。智良さんは「そうですよね……」と困惑しつつも受け入れている模様ですが、千里さんは、奨学金は「子どもの借金」という思いがあって、できることなら借りたくない様子です。
一方、老後の収入を計算してみると、智良さんの年金は月額22万円、千里さんは8万円、夫婦で30万円ほどになることが分かりました。手取りにすると27万円ほどになると思われますが、「これだけあれば特別な支出がない限り、年金だけで生活ができるね」と千里さんは笑顔で言います。
介護や医療、住宅の修繕など特別な支出にも備える必要はありますが、智良さんの場合、退職金や会社の確定拠出年金で2500万円ほどが見込めるとのことで、これがまるまる使えるのならば、老後の資金はあまり問題なさそうです。
しかし、これを知った千里さんは“ひらめいた”という表情で、「じゃあ、奨学金を借りて、退職金と確定拠出年金で返せますよね?」と言います。退職金を受け取るタイミングと奨学金返済スタートのタイミングは一致しませんが、確かにその方法もあります。一人あたり大学費用を700万円、3人で2100万円と見積もってもお釣は出そうです。
しかし、退職金や確定拠出年金を奨学金返済に充ててしまうと、今度は介護や医療費への備えが十分でなくなる可能性がありますし、退職金が予定通り支払われないリスクもあります。その場合はやはり子どもが返済していくしか方法はないでしょう。お勧めできる方法ではありませんが、千里さんは10年後に会社の経営が悪化しているとは思えないし、良い方法を見つけられたと嬉しそうです。智良さんも、リスクはあるものの千里さんの意見に賛成しました。
そこで、改めて奨学金を借りられる条件や利率、返済を親がすることで老後費用の備えが減るリスクをお伝えし、それを承知の上での奨学金の利用を想定するなら、今からすべきことは、老後に向けての資産形成であることをお伝えしました。奨学金返済後に、できるだけ手元に老後資金が残るよう、今から準備をする必要があります。智良さんの場合、具体的には会社の確定拠出年金の掛金の増額です。掛金を増額し老後資産を補強する必要があります。
智良さんの会社の確定拠出年金では、マッチング拠出が可能でした。現状、月2万円までなら拠出額を増やせるとのことですが、そのためには掛金をどこから捻出するのかが問題です。すると、千里さんが「三男はピアノのやる気がないので、ピアノをやめてその月謝代1万5000円を掛金に充てる」と言いました。60歳まで積み立てるなら、単純計算で180万円ほど増えそうです。
増やした掛金は、現在積み立て中の先進国株式型、先進国REITに2:1の割合で増額することにしました。
人生全体の収支を考える現役時代は、カツカツだけど老後は余裕があったり、現役時代は余裕があるけれど老後はカツカツだったり……人生全体の収支バランスが偏っているのは珍しくありません。そのようなケースでは、今後の収入や支出を洗い出し、人生全体の収支バランスを平均化すれば、生活がしやすくなります。
平均化ができる場合とできない場合がありますが、まずは人生全体のキャッシュフローを知ることが大切です。それを知ることで、資金不足のタイミングと不足額を知ることができ、対策を考えることができます。倉田家の場合、三男が大学卒業後もまだ働いていますから、貯蓄ペースをスピードアップできそうなことも分かりました。
今回のケースでは、そもそも奨学金を借りる必要がないように家計運営をしていくべきではありますが、各家庭の考え方は様々です。
教育資金も老後資金も、まだ“先のこと”と思えるうちから計画的に、そしてiDeCoやつみたてNISAなど国の制度を活用し、後悔しない資金準備をしてほしいと思います。
前田 菜緒/ファイナンシャルプランナー
FP事務所AndAsset代表。ファイナンシャルプランナー(CFP、1級FP技能士)。大手保険代理店に7年間勤務後、独立。子育て世代向けにライフプラン相談、セミナー、執筆などを行っている。子連れでセミナーに行けなかった自身の経験から、子連れOK、子どもが寝てから開催するなど、未就学児ママに配慮した体制で相談やセミナーを実施。経済的理由で進学をあきらめる子をなくしたいとの想いを持ち、活動中。
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