“不公平”とも非難される、専業主婦の年金「第3号被保険者」は廃止!? 今起きている”大変化”とは
Finasee / 2022年12月13日 11時0分
Finasee(フィナシー)
会社員・公務員などに扶養されている配偶者は、年金の世界では「第3号被保険者」と区分され、現状、専業主婦やパートタイマーが主な対象者です。
この第3号被保険者は個人的な保険料の納付が不要なことから、「優遇されている」「不公平だ」といった批判も多く、第3号被保険者制度を「廃止すべき」という意見まで出ています。
第3号被保険者は1986年に生まれた国民年金第3号被保険者制度は1986年4月に始まった制度です。
それまで主に自営業者向けの制度だった国民年金制度は、1986年4月から全国民共通の基礎年金制度となり、自営業者だけでなく会社員・公務員、その配偶者(専業主婦等)も国民年金の被保険者となりました。
その際、会社員など厚生年金被保険者が第2号被保険者、その被扶養配偶者が第3号被保険者、それ以外で国民年金に加入義務のある人(自営業者及びその配偶者など)は第1号被保険者と区分されることになりました。
実はそれまで会社員・公務員の配偶者である専業主婦等は国民年金への加入義務がありませんでした。任意で加入して国民年金保険料を納付して年金を増やすこともできましたが、任意であるために加入しない人も多い……というのが実態でした。
1986年3月以前の年金制度では、会社員・公務員の夫の年金(厚生年金や共済年金)で夫婦2人分の年金が計算されていたと言えます(妻自身は被保険者とならないと、受給者にもならなかったということです)。また、年金制度に未加入だと障害年金を受給できず、離婚した場合にも年金がないという問題もありました。つまり、専業主婦本人には年金による保障が非常に少なかったのです。
そこで、女性の年金、専業主婦の年金の権利(年金権)を確保すべく設けられたのが第3号被保険者制度です。会社員等の第2号被保険者の被扶養配偶者として、国民年金制度に強制加入(20歳以上60歳未満)となりました。現在、被扶養配偶者本人の年収が130万円未満であることなどを満たせば第3号被保険者となります。
この第3号被保険者は、国民年金保険料を納付する第1号被保険者や厚生年金保険料を負担する第2号被保険者と異なり、自ら保険料を払いませんが、年金の受給資格や年金額の計算上、第3号被保険者期間は保険料を納めた期間と見なされます。高齢になったときの老齢基礎年金は、“保険料を払った(と見なされる)”期間で計算されますので、専業主婦等も自らの年金を受給しやすくなったのです。
共働きがスタンダードになると、第3号被保険者制度への風当たりが強くなったしかし、この第3号被保険者を取り巻く環境はこの30年強で大きく様変わりしました。
時代とともに専業主婦の世帯よりも夫婦共働き世帯のほうが多くなったのです。
その逆転ぶりは目を見張るものがあり、1986年当時はまだ720万世帯の共働き世帯より952万世帯の専業主婦世帯が多かったのですが、1997年には共働き世帯949万世帯、専業主婦世帯921万世帯と両者は逆転し、2021年には共働き世帯は1247万世帯、専業主婦は566万世帯と、共働き世帯が専業主婦世帯の倍以上となっています(総務省『労働力調査特別調査』、『労働力調査』より)。
共働き世帯が増えていくと同時に、未婚の人も増加しました。すると、共働き世帯の妻、あるいは独身女性である会社員(ともに第2号被保険者)や自営業者の妻(第1号被保険者)から第3号被保険者に対し、“不公平”だと指摘する声があがり始めました。自ら保険料を払っていなくても、納付扱いとされて基礎年金が受給できる――その点に対する批判です。言ってしまえば、「第3号被保険者だけがお得すぎませんか?」ということでしょう。
もう1つ、別の観点から第3号被保険者制度が“やり玉にあがる”とすれば、就労調整があります。パートで勤務する当該第3号被保険者が保険料の負担を忌避して、扶養の範囲内(年収130万円未満)で働くという就労調整が行われており、就労を抑制している面もあります。つまり、働く意欲があるのに、それを抑制せざるを得ないのはもったいないということです。
主にこの2つの論点から、「第3号被保険者制度は廃止すべき」という意見が聞かれるようになりました。
制度改正によって、第3号被保険者の範囲がだんだん狭くなっているこうしたムードに呼応してか、「第3号被保険者制度は廃止に!?」と、さも廃止が既定路線かと思わせるようなネットの情報もあるようです。しかし、現時点で第3号被保険者制度が廃止されるとは決まっていません。
ただ、前回の第7回(年収「106万円の壁」—壁を超える vs 超えない、結局安心なのはどちらか)で取り上げたとおり、制度改革により、社会保険の適用拡大が進められており、扶養を外れ、厚生年金加入となる人(第3号被保険者から第2号被保険者に変わる人)の対象範囲が広がっている現実はあります。
●厚生年金加入対象者
AまたはBに該当した場合に加入
A.常時雇用者あるいはその4分の3以上の勤務時間かつ勤務日数で厚生年金の適用事業所(企業等)に勤務する人
B.Aに該当しない場合で下記(1)~(5)を全て満たした人
※1 従業員数は勤務日数・勤務時間4分の3以上の要件を満たした厚生年金被保険者の数。
※2 2017年4月以降は、事業所の規模要件にかかわらず、労使合意のある場合や、国・地方公共団体の事業所も対象。
2016年10月に上記枠内Bの要件が加わることになり、Aに該当しなくても、週20時間勤務でも加入対象となる場合があります。また、自身の年収が130万円未満であることが第3号被保険者の要件とされていますが、Bの要件を満たしている人の年収要件は(4)のとおり106万円以上のため、たとえ130万円未満の人でも扶養から外れ厚生年金加入の対象となりえます(そのため“106万円の壁”という言葉も昨今、よく聞かれるようになりました。詳細は第7回をご覧ください)。
Bの(1)の従業員数についても段階的に改正がされ、2024年10月には101人以上が51人以上へ改正されることになっています。こうした適用拡大を機に扶養から外れて厚生年金に加入することも多いことでしょう。
もはや第3号被保険者は減少の一途…ここでデータを見ますと、第3号被保険者がいかに減少傾向にあるかよく分かると思います。
●第3号被保険者の数
出所:厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業の概況』(平成27年度版~令和2年度版をもとに作成)
社会保険の適用拡大(2016年10月)前の2015年度末ではまだ900万人を超えていましたが、2016年度末で900万人を切りました。そして、2016年度末が889万人(そのうち女性は878万人)だったのに対し、2020年度末で793万人(そのうち女性は781万人)まで減少しています。わずか2016年度末から2020年度末までの4年間でも100万人程度減少していることになります。2022年10月、2024年10月の企業規模要件(先述のBの(1))の改正もあって今後さらに減少することが予想されます。
つまり、「不公平」の批判があるからと廃止しなくても、その数はこのまま自然減の方向へと向かっていく可能性は高いということです。
***第3号被保険者制度は、36年以上も前に専業主婦の年金の権利を守るために作られましたが、時代とともに女性を取り巻く環境が大きく変わりました。それによって、立場によっては第3号被保険者制度に不公平感を抱く人がいたり、逆に「第3号被保険者廃止!?」と聞くと不安を感じる人がいたりと、この制度に対する意見も多様化(時に対立)してきたと言えます。
いずれにせよ、第3号被保険者制度そのものが廃止に至っていないなか、まず第1~3号被保険者として国民年金に加入義務があり、そのうえで老後準備を考える必要があることに変わりはありません。そして、将来の保障を厚くするための選択肢として、扶養を外れて働くことも1つですし、私的年金(iDeCoなど)を活用するのも有効な手段となるでしょう。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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