離婚すると相手の年金を半分もらえるってホント⁉ 「離婚分割」のルールとは
Finasee / 2022年12月20日 11時0分
Finasee(フィナシー)
会社員の夫と離婚することになった妻――離婚というと、年金には「年金分割」という制度がありますが、その響きからか「離婚すると夫の年金の半分がもらえる」、そしてなかには「なので、離婚して1人になっても老後の暮らしも問題ない」と思っている人も多い模様です。
果たして、離婚時の年金分割を受けると本当に夫の年金から半分が妻へ渡るのでしょうか。
離婚時の年金分割には2種類あり!年金分割とはおおまかにいうと、婚姻期間中に夫あるいは妻が会社等に勤め、厚生年金加入記録(標準報酬月額・標準賞与額)がある場合、離婚後、両者の婚姻期間中の厚生年金加入記録を分割する制度です(そもそもの話にはなりますが、厚生年金は厚生年金加入記録によって、その支給額が決まります)。
自営業等で夫婦共に厚生年金に加入していなかった場合、対象となりません。
そして、その年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種があります。似ているようで違うルールもあり、多くの方が「まぎらわしい……」と混乱しがちなのですが、それぞれ解説していきます。
合意分割は合意により最大50%ずつで分割合意分割は、その名のとおり離婚した元夫・元妻の“合意”によって年金記録が分割される制度です。
元夫・元妻の婚姻期間中の厚生年金加入記録を合算した上で、厚生年金加入記録が多いほうから少ないほうへと分割することになります。そして、その按分割合は50%が上限となります。
例えば、元夫・元妻の婚姻期間中の厚生年金加入記録を合算して、その割合が元夫は80%、元妻は20%となる場合で考えてみましょう。
●合意分割の基本的な仕組み
例:合意分割の対象となる期間の元夫と元妻の厚生年金加入記録を合計し、そのうち元夫が80%、元妻が20%の場合。
※ 元夫が第1号改定者(分割をする側)、元妻が第2号改定者(分割を受ける側)となります。
分割後の元妻の按分割合の範囲は「20%超~50%」までとなります。元夫(分割をする側:第1号改定者)・元妻(分割を受ける側:第2号改定者)それぞれが最大50%ずつになるまでの範囲で分割されることになります。最大で元夫は80%から50%へと30%減り、元妻は20%から50%へと30%増えることになります。分割を受ける側(この場合の元妻)が50%を超えることはなく、夫の記録の半分(この場合の80%の半分は40%)がそのまま妻に移るというわけでもありません。
合意分割となっている以上、元夫と元妻の合意が必要で、当事者間で合意が整わない場合は家庭裁判所の審判等でその按分割合を決めることもできます。
強制的に50%分割される、3号分割一方、3号分割ですが、2008年4月以降の夫婦の一方に国民年金第3号被保険者期間※1があった場合、“合意なく”とも、強制的に厚生年金加入記録が50%分割される制度となります。
※1 第3号被保険者の詳細については、前回の第8回「“不公平”と非難される年金「第3号被保険者制度」―その裏で起きている“ある大変化”」をご覧ください。
例えば、夫が厚生年金被保険者、妻が第3号被保険者のケースで考えてみましょう。3号分割前の当該期間の厚生年金加入記録は元夫100%、元妻0%ですが、分割後の厚生年金記録は強制的に元夫50%、元妻50%となります。
ここで注意したいのは、あくまで2008年4月以降の期間に適用されるということ。つまり、2008年3月以前の期間は3号分割の対象にはなりません。2008年3月以前の分について分割をしたい場合は、合意分割で分けるほかありません。
●離婚時の年金分割の対象期間
※ 結婚前や離婚後は分割の対象外
合意分割や3号分割による分割後の記録で将来の年金が計算されることになります。
分割が行われるためには、合意分割、3号分割いずれの分割であれ、離婚等から2年以内(原則)に標準報酬改定請求をする必要があります。この点も意外な盲点で、離婚しただけでは分割はされず、手続きが必要なことにも注意が必要でしょう。
分割で受給額が変わるのは報酬比例部分だけ合意分割と3号分割は以上のようになりますが、先述のとおり、婚姻期間中の標準報酬月額や標準賞与額を分割することになるため、分割によって影響する高齢期の老齢年金は老齢厚生年金(報酬比例部分)になります。よくいわれる「公的年金は2階建て(1階が基礎年金、2階が厚生年金)」でいうならば、2階の部分が影響を受けるにすぎません。
老齢年金全体ではないこととなり、国民年金制度の老齢基礎年金、老齢厚生年金のうちの経過的加算額(老齢基礎年金相当の差額加算部分)などは年金分割によっては変わりません。
つまり、冒頭の「果たして、離婚時の年金分割を受けると本当に夫の年金から半分が妻へ渡るのでしょうか」についての結論は「夫の年金“まるまる”から半分が妻に渡るわけではない」であり、実際のところ、婚姻期間や夫婦の厚生年金加入記録次第では分割を受けても少ししか年金が増えないことも多々あります。そのため、「離婚して1人になっても老後の暮らしも問題ないだろう」と年金分割によるプラス分をあてにするのも、たいていの場合、危険だといわざるを得ません。
熟年離婚で注意すべきこと離婚後に標準報酬改定請求をすることで実際の年金分割が行われることになります。分割後はたとえ復縁しても分割は取消しできません。
そして、分割された記録で将来の報酬比例部分の年金額が計算されます。若い人が離婚して年金分割を受けたとしても、老齢厚生年金を受け取るのは何十年と先の将来。今すぐに何かが起こるわけではありません。
一方、すでに60代で老齢厚生年金を受けている人が年金分割を受けると、標準報酬改定請求を行った月の翌月分から分割後の年金として反映されます。つまり、離婚して分割を受けたい場合は離婚後なるべく早く手続きをする必要があり、標準報酬改定請求が1カ月遅れるごとに、その分受けられるはずだった分割後の年金が受けられないことになります。
なお、老齢基礎年金への振替加算の対象となる人が自ら加入した厚生年金被保険者期間の他、婚姻期間で厚生年金未加入中(第3後被保険者期間中など)について分割を受けた期間も合わせて20年以上となると、その振替加算は加算されなくなります。1966年4月1日以前生まれの人を対象とした振替加算ですが、この場合、分割によって老齢厚生年金が増える一方、振替加算分の年金が減ることに繋がりますので、その点も確認しておきたいところです。生年月日が早い人ほど振替加算の加算額が多くなりますので、対象となる人は注意が必要です。
●年金分割を受けた期間を含めると厚生年金被保険者期間が20年以上となった場合
※ 振替加算は本人(※1966年4月1日以前生まれ)の厚生年金被保険者期間が20年未満、その配偶者の厚生年金被保険者期間が20年以上であることが加算条件。
※ 厚生年金被保険者期間が20年未満の場合は、分割前は①②③で受給し、年金分割で20年以上とみなされた後は①③④で受給することになります。
離婚を考えたら、まず「年金分割のための情報通知書」を合意分割の対象となる人は年金事務所等で情報提供請求をすると、分割請求となる期間、対象期間の標準報酬総額(夫婦2人の標準報酬月額や標準賞与額の合計)、按分割合の範囲などを記した「年金分割のための情報通知書」を受け取ることができます。50歳以上で分割をする場合は、希望すれば、分割後の記録に基づいた将来の年金の見込額も計算されることになっています。
離婚前でも配偶者の同意がなくても情報提供請求はできます。離婚予定の人は情報提供でまずは将来の年金について確認してみるとよろしいのではないでしょうか。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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