年金には時効がある、 自分で手続きが必要… 意外と知らない「年金の受け取り」
Finasee / 2023年1月13日 11時0分
Finasee(フィナシー)
「働いていると年金は受けられないらしい……」「まだ年金を受け取るつもりがないから」といって年金受給の手続きをしていない人がいます。
ただ、必要な手続きを忘れてしまうと思わぬ不利益を被りかねないことを知っている人は多くないように思います。
そもそも若い世代の人は、年金は “時が来たら国が振り込んでくれる”ものではなく、自身での手続きが必要なもの、ということを知らないかもしれません。
今回は、そんな「受給手続き」についての誤解を解いていきます。
年金が受けられるのに手続きをしていない人がいる!?老齢年金は受給資格を満たし、支給開始年齢が来ると、その誕生日の前日から受給の手続きができるようになります(年金の受給請求といいます)。
しかし、先述の通り、年金を受けられる支給開始年齢になっているにもかかわらず、在職中であることや収入の多さを理由に手続きをしていない人もいます。
「収入が多ければ年金がカットされることもある」は確かに間違ってはいません。60歳台前半の特別支給の老齢厚生年金が在職老齢年金制度(47万円基準)によって全額支給停止となる場合は、請求手続きして年金証書は発行されるものの、その間指定した口座に年金が振り込まれないことになるでしょう※1。
※1 在職老齢年金制度のしくみは第5回『60歳以降、働くと年金がカットされる!? 「年金のために給料を減らす」は得策か』をご参照。
ですが、たとえ働いていてもそこまで収入が多くないと、47万円基準で全額はカットされず一部は支給されることになります。65歳以降についても、老齢厚生年金の報酬比例部分は同様で、経過的加算額※2、老齢基礎年金はたとえ収入が多くてもカットされず全額受給することが可能です。
※2老齢基礎年金に相当する差額加算部分。
また、そもそもの話とはなりますが、在職老齢年金制度は厚生年金に加入している人(70歳未満が対象)や同じ勤務条件で70歳以降勤務して続けている人が対象ですので、その対象とならない自営業の人や不動産収入のみで生活している人などは、収入が高くても年金はカットされません。
60歳台前半の年金と、65歳以降の年金はそれぞれに手続きが必要60歳台前半の年金と65歳以降の年金は、それぞれについて手続きがあり、両者を分けて考える必要があります。
65歳以降の年金65歳以降終身で受けられる老齢基礎年金・老齢厚生年金については繰下げ受給制度があります。第6回(増えない年金もある!? “年金額最大84%アップ”で注目の「繰下げ受給」に潜むワナ)で取り上げたとおり、受給の開始を遅らせて年金を増額させることがますが、それぞれ受け取りを始めたい時になって手続きをすることになります。
例えば、67歳0カ月開始で老齢基礎年金・老齢厚生年金の繰下げを希望する場合は、67歳0カ月まで繰下げ待機します。繰下げ待機とは、年金の用語でいえば、年金請求をしない、ということですが、ここでは“あえて”何もしない、とご理解いただいて問題ありません。そして、67歳を迎える時になって手続きします。
ちなみに、あまり知られていませんが、繰下げとは異なる方法として、「65歳にさかのぼって受給する方法」も存在します。上記の67歳まで待機した場合でいうと、65・66歳の2年分の年金が一括で払って受け取れるように請求する、ということです。この方法の場合、単に65歳・66歳の分を後でまとめて受け取っているだけなので、当然ながら、繰下げの場合のような増額はありません。
60歳台前半の特別支給の厚生年金(生年月日など、要件を満たす一部の人が対象)生年月日によって、60歳台前半で受けられることがある特別支給の老齢厚生年金は65歳までの有期年金です。
例えば、63歳が支給開始年齢の人の場合、63歳から65歳までの2年間支給されることになります。この特別支給の老齢厚生年金について繰下げ受給制度はありませんし、65歳以降の年金の繰下げ受給にも影響はありません。
特別支給の老齢厚生年金について「繰下げ制度で増額できる」「受け取らないほうが65歳からの年金額は増額できる」と思い、支給開始年齢になっても手続きをせず、かなり後になって初めて手続きをする人もいます。
しかし、例えば65歳になってから手続きをしても、当該年金については65歳から支給開始年齢にさかのぼって支給されるにすぎません。繰下げによる増額ということはなく、支給開始年齢が63歳であれば、過去2年さかのぼって、その2年分が一括で支給されるのみです。
そして、特別支給の年金を受け取っていたとしても、65歳以降の年金については、別途65歳開始で受給するか、繰下げ受給するかを考えることになります。65歳以降の年金について希望する受給方法(65歳開始、〇歳〇カ月繰下げ受給、など)に応じた手続きをすることになる点は、63歳で特別支給の老齢厚生年金の手続きをすでにしている場合と65歳になって初めてその手続きをする場合とで変わりありません。
5年の時効に要注意!ここまで何回か登場している、「さかのぼって受給するパターン」には注意が必要です。過去にいくらでもさかのぼれるわけではなく、期限があります。その期間は5年、つまり年金には5年の時効が存在するのです。
受給する権利が発生してから、5年以内に手続きをすれば受給できる年金を“全て”さかのぼって受給することも可能です。しかし、5年を経過してしまうと、時効によって、5年を過ぎてしまった分の年金が受け取れないということが起きます。
先述のとおり、特別支給の老齢厚生年金は65歳までの有期年金です。例えば、63歳で支給開始年齢を迎える人が、69歳過ぎた頃に初めて手続きをすると、63歳からすでに6年が経過しています。そのため、63歳から最初の1年分程度の当該年金は時効によって受けられなくなってしまいます。
つまり、手続きが遅れたことによって、本来であれば受け取れたはずの年金が受け取れなくなったということが起きてしまいます。
年金を受けられるようになる前に確認を!「働くと年金が受けられない」「収入があると年金が受けられない」など、周囲からの不正確な情報、あるいは自身の思い込みから手続きをしていない人も少なからずいるのが現実です。
他にも専業主婦等だった人の振替加算など、加算部分についての手続きがされていないため加算が漏れてしまっているケースもあり、それらも加算開始時期から5年を過ぎた分は時効消滅となってしまいます。
受け取れる年金はしっかり忘れず受け取りたいところです。実際に年金を受けられるかどうか、いくら受けられるかは個々人の年金加入記録や就労状況、家族構成によって異なり、一律的に説明するのは難しい部分もあります。年金の受け取りが始まる年齢が近づいて来たら年金事務所等へ確認のうえ、必要と言われた手続きは必要な時期が来たら済ませておくようにしましょう。
五十嵐 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員、服部年金企画講師。専門分野は公的年金で、これまで5500件を超える年金相談業務を経験。また、年金事務担当者・社労士・FP向けの教育研修や、ウェブメディア・専門誌での記事執筆を行い、新聞、雑誌への取材協力も多数ある。横浜市を中心に首都圏で活動中。※2024年7月までは井内義典(いのうち よしのり)名義で活動。
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