経験豊富な投資家も3億円の大損!? 400人以上をだました証券会社が破産
Finasee / 2023年2月1日 7時0分
Finasee(フィナシー)
・庶民が資産を増やす“最も有効”な方法…ピケティ氏が指摘の有名理論
昨年話題を集めた商品の1つに「仕組み債」があります。見た目の利回りが高く人気の商品ですが、組み込まれたデリバティブ取引を巡って顧客とのトラブルが多発し、販売を中止する金融機関が相次ぎました。
実は7年前も「レセプト債」という債券でトラブルが起き、多くの投資家が損失を抱えてしまう事件が起こっています。販売を主導した「アーツ証券」には重い処分が下され、2016年2月1日に経営破綻してしまいました。
「レセプト債」問題で証券会社が破綻レセプト債とは、診療報酬を原資とした債券のことをいいます。社債を発行して調達した資金で病院などから診療報酬債権を額面より安く買い取り、実際に受け取る診療報酬を基に利息や元本を支払うという仕組みです。
しかしアーツ証券が販売していたレセプト債は、買い取った診療報酬を大きく上回る額が発行されていました。つまり裏付けのないまま債券が発行され、多くの投資家に販売されたのです。レセプト債を発行していた3社の発行残高は227億円に上り、約2470人の投資家の手に渡っていました(2015年10月末時点)。
さらに当該レセプト債の発行会社は、調達した資金を別の目的に流用していました。従って現金や預金も発行会社にはほとんど残らず、本来は投資家に支払われるべき資産の大部分が失われることになります。
【アーツ証券が販売したレセプト債の実態(2015年10月末時点)】
証券取引等監視委員会「アーツ証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」参考資料より著者作成拡大画像表示
アーツ証券が悪質だったのは、実態を知りながら販売を継続した点です。アーツ証券の社長は、遅くとも2013年10月ごろまでに発行会社らから相談を受けるなどし、上記の事実を把握します。しかし、アーツ証券は顧客に安全性が高いと虚偽の説明を行い、レセプト債の販売を続けました。
事態を重く見た証券取引等監視委員会は2016年1月29日、アーツ証券に対して処分を行うよう勧告し、同社には登録取り消しという重い行政処分が下されます。アーツ証券は証券会社として営業できなくなり、同年2月1日に破産となりました。東京商工リサーチによると、同社に対する個人債権者は447人に上り、中には2億9000万円に達する人もいたようです。
証券化商品って何?レセプト債のように、なんらかのキャッシュフローを原資として作られる金融商品を証券化商品といいます。本来はその資産を直接購入したり事業を行ったりしないと得られない収益を、投資家などの第三者に移転することができる商品です。
例えばオフィスビルを購入すれば賃貸収入に期待できますが、高額な取得費用が求められるでしょう。また貸し付けを行えば利息収入が得られますが、貸金業法などから現実的ではありません。
そこで、これらを裏付けに持つ証券化商品が役に立ちます。不動産を証券化した「不動産小口化商品」を購入すれば実質的に少額から不動産投資ができますし、「モーゲージ担保証券」なら住宅ローンの貸し付けと同等の収益が期待できます。後者は個人向けとは言い難いですが、投資信託を介して投資することができるでしょう。
【主な証券化商品】
証券化商品は通常、「特別目的会社」を介して組成されます。特別目的会社とは、資産の管理や資金調達など、一般的な営利企業とは異なる目的で設立される会社のことです。
証券化は、キャッシュフローを生む資産を特別目的会社に譲渡し、その特別目的会社が資産を裏付けとした証券を発行することで行われます。アーツ証券で問題になったレセプト債も、直接的には特別目的会社が発行していました。
アーツ証券ではその信頼が揺らいだものの、証券化商品は本来、私たちに多くの投資機会を提供する便利な商品です。株式や債券といった伝統的な資産以外への投資は、分散投資の観点から欠かすことはできません。
見極めは求められますが、選択肢の1つに証券化商品を加えてみてはいかがでしょうか。
新しい証券「セキュリティ・トークン(デジタル証券)」とは証券化商品も含め、有価証券は原資産から得られる収益などを正しく投資家に移転させることが求められます。これを技術的に実現させるよう目指すものが「セキュリティ・トークン(ST)」です。
セキュリティ・トークンとは、ブロックチェーン技術などを用いて特定の資産にひも付けられたトークン(電子上の財産的価値)のことで、「デジタル証券」とも呼ばれます。日本では2020年5月に金融商品取引法が改正され、一定の資産を裏付けに持つセキュリティ・トークンの販売が解禁されました。
【金商法上のセキュリティ・トークンの内訳】
セキュリティ・トークンは、従来の有価証券より小さいコストで発行できること、証券化が難しかった資産などでも発行できることなどが期待されています。現在は一部の資産に限られますが、今後対象が拡大すれば、これまで世の中になかったような投資商品が生まれるかもしれません。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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