“介護の功”で「全財産を相続」した長男、まさかのドロ沼裁判に絶句
Finasee / 2023年2月2日 11時0分
Finasee(フィナシー)
柳原さん(仮名、60代)は3人きょうだいの長男。弟と妹は2人とも結婚して自分の家を構えましたが、長男の柳原さんはずっと両親と同居してきました。父親は早くに亡くなり、晩年認知症になった母親の介護は柳原さんと妻が協力して行いました。弟と妹は介護には一切関わりませんでした。
母親の死後、公正証書遺言が遺されていたことが分かります。その内容は柳原さんに「全ての遺産を相続させる」というもの。これに反発した弟と妹は、遺留分として合計1000万円以上を柳原さんに請求してきました。
しかし、遺産の大部分が不動産だったため、そんな金額は支払えないと柳原さんは途方に暮れてしまい……。
●「そんな権利が?」弟と妹が主張する遺留分とは
前半記事:「遺言書は偽物だ」認知症母が死…介護した長男に弟と妹が衝撃の要求
柳原さんは弟と妹に遺留分を払うと言いましたが、金額の大幅な減額を求めました。すると弟と妹は納得せず、家庭裁判所で遺留分侵害額調停を申し立ててきたのです。
柳原さんは調停委員から「遺留分は法律上認められる弟たちの権利だから払うように」と言われましたが、どうにも納得できません。結局調停も不成立になってしまいました。
すると、弟たちは諦めずに訴訟(裁判)を起こしてきたのです。いきなり裁判所から呼出状が届いたので、柳原さんは仰天してしまいました。
裁判では弁護士に依頼して、最終的に弟や妹と「和解」によって解決しました。和解の内容として、弟と妹への支払金額は1200万円、5年の分割払いという条件で落ち着きました。
結局、母が死亡してから遺留分トラブルが解決されるまでに2年近くかかってしまいました。柳原さんはトラブルが解決してホッとする思いもありますが、「なぜこのような大混乱に巻き込まれなければならなかったのか?」という複雑な気持ちで過ごしています。
遺留分トラブルとは柳原さんのように、遺言書をきっかけに遺留分トラブルが発生するケースは非常に多数あります。兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子ども、親)には最低限の遺産取得割合である遺留分が認められるからです。
遺留分の割合は、子どもや配偶者が権利を主張する場合には遺産全体の2分の1にもなります。
遺言書によってたくさんの遺産をもらえても、柳原さんのように遺留分の侵害でトラブルに巻き込まれる可能性があるので、油断してはなりません。
遺留分を払えないケースも多い今回の柳原さんもそうでしたが、遺留分を請求されても払えない方が少なくありません。遺留分は「現金で払う」のが原則だからです。
遺産の中身がほとんど不動産等の場合、手元に現金がなくて遺留分を払うのが難しくなってしまいます。そこで「遺留分を払わない(払えない)」などと主張すると、さらに大きなトラブルにつながってしまうのです。
遺留分トラブルを防ぐ方法今回、柳原さんが遺留分トラブルに巻き込まれないためにはどうすればよかったのでしょうか? 遺留分トラブルを防ぐ方法をご紹介します。
遺言書で弟や妹にも遺産を遺すまず母親は、弟や妹にも遺言書で遺産を遺すべきでした。確かに本件では柳原さん家族が介護しているので、多めの遺産を渡したいという母親の気持ちも分かります。長男に多くの遺産を遺そうという考えもあったでしょう。
しかし、よかれと思って遺産を全て長男に遺しても、遺留分トラブルが起こっては意味がありません。母親は最低限、弟や妹にも預金を渡すなどの対応をとっておくとよかったといえるでしょう。
生命保険を活用する次に、生命保険を活用する方法があります。具体的には、母親が死亡したときに柳原さんが死亡保険金を受け取れるように生命保険に加入しておけばよかったのです。
そうすれば、柳原さんはそのお金で遺留分を払うことができました。今回は柳原さんの手元に現金がなかったので柳原さんとしても「払えない、払いたくない」と考えてトラブルが拡大してしまった経緯があります。
遺留分トラブルの相談先もしも遺留分トラブルに巻き込まれてしまったら、弁護士に相談しましょう。弁護士に相手との交渉の代理人を依頼すると、自分で対応しなくていいので労力や時間を取られませんし、ストレスも軽減されます。
柳原さんの場合にも交渉段階で弁護士に依頼していたら、調停や裁判を避けられた可能性もあったでしょう。
***遺留分トラブルが起こると、柳原さんのように2年やそれ以上もの期間、トラブルになる可能性もあります。今回ご紹介した対策方法を参考に、遺言書を作成する際には遺留分トラブルが起こらないよう注意してください。
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福谷 陽子/法律ライター・元弁護士
京都大学法学部在学中、司法試験に合格。勤務弁護士を経て、法律事務所を設立し、約7年間独立営業。中小企業法務や債権回収、不動産の任意売却やカード破産などの案件を多数手がけた。悪徳商法、投資詐欺などの消費者問題にも深い知見がある。現在は弁護士時代の経験を活かして、各種の法律メディアにて執筆、監修、編集、さらに法律事務所のWebマーケティングなどに携わる。
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