「プリンシプル」から「ルール」に。金融業界のガバナンスに敏感な反応
Finasee / 2023年2月2日 19時0分
Finasee(フィナシー)
投資信託をはじめ金融商品の販売関連業務に携わる読者を持つ金融リテール専門誌『Ma-Do』が実施した「運用会社ブランドインテグレーション評価2022」で、販売会社が運用会社を評価する際に、「ガバナンス」に関して一段とシビアになっていることが分かった。2022年の回答では、「受益者本位の商品組成や効率的な運用」という項目について、販売会社の本部で前年55.5%が今年67.1%に急上昇した。顧客本位の運用がますます求められることに加え、同じ本部の回答にあったように「ESGの観点からエンゲージメント活動に積極的」という項目が前年33.6%から今年23.8%に落ちていことを併せて考えると、いわゆる「ESGウォッシング(実態のないESG)」で金融庁が厳しい態度を取ったことが、ガバナンスへの評価に影響している側面もありそうだ。
「運用会社ブランドインテグレーション評価」は、投信販売会社が運用会社を評価する調査で、運用会社について「運用力」「商品開発力・企画力」「営業担当者・研修担当者の質」「サポート力」「ブランド力」「ガバナンス」の6つの軸で評価してもらい、得点順にランキングした。2022年調査は9月~10月にWEBで実施し、国内外の運用会社36社を評価の対象とし、310件の回答を得た。
「ESGファンド」が人気を集める中で…販売会社にとって運用会社のガバナンスは、取り扱い商品の信用力に直結する問題だけに厳しく対処せざるをえないことだ。金融庁は2022年5月27日に「資産運用業高度化プログレスレポート2022」を公表し、運用会社に対して「顧客利益を最優先に考えた組織的な態勢整備と取組みを進めていくべきである」と強調した。そして、アクティブファンドの運用実績を検証した上で、「ファンドが20本以下の社ではアクティブファンドの平均シャープレシオ(0.49)を上回る社が多くある一方、100本以上のファンドを運用する社ではシャープレシオがマイナスとなっているファンドも多くみられる」と指摘し、商品1本1本に行き届いた運用管理をすべきだというプロダクトガバナンスの徹底を求めている。
また、そのレポートにおいて、金融庁が運用会社37社、225本のESG投信を調べたところ、11社にESG専門部署・チームがなく、14社にESG専門人材が1人もいなかったことを明らかにしている。この調査結果を受けて、「金融商品取引業者当向けの総合的な監督指針を改正する」と述べている。これは、人気化しているESG投信に関して金融庁が特に調査して「ESG投信と名乗るからには、それにふさわしい運用を実行すべき」というガバナンスに対する厳しい監督姿勢を強調したものだが、ESG投信だけにとどまらず、広く運用会社、また、販売会社にも自省を促すものになった。
2022年のブランドインテグレーション評価で「ESGの観点からエンゲージメント活動に積極的」という項目の評価が、本部で急落したのは、金融庁の厳しい姿勢を受けて、販売会社の間でも運用会社のESGの体制について懐疑的な見方が広がったのかもしれない。しかし、支店の評価は「ESGの観点からエンゲージメント活動に積極的」という項目への評価は前年31.9%から今年34.1%と若干高くなっている。これは、ESG投信について顧客のニーズが高まる中で、ESG関連についてレポートやセミナー等で情報発信してくれる運用会社の姿勢を評価したものだろう。
今後、一段と厳しくなる「ガバナンス」への要求金融庁がESG投信について、監督指針の変更を決めたことは、「プリンシプル・ベースの監督」から「ルール・ベースの監督」への変更につながる動きにもみえる。そもそも金融行政は、「ルール・ベースの監督」が基本姿勢だった。「箸の上げ下げまで」といわれるくらいに、金融機関の経営については事細かなルールが作られ、文章化されて順守することが求められていた。しかし、2007年に金融庁長官に就任した佐藤隆文氏は、「ベター・レギュレーション」という考え方を導入し、「ルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督の最適な組み合わせ」を監督指針に掲げた。それまでが「ルール・ベース」の監督だったため、それ以降は「プリンシプル・ベース」が意識され、基本方針を示し、対話などによって望ましい経営を徹底させるやり方が取り入れられた。
ESG投信に関する監督指針の変更は、「ルール・ベース」への揺り戻しを感じさせる。金融機関は多くのルールに縛られた時代が続いたように、非常に厳しいガバナンスが求められてきた。それが、ネット金融の隆盛などによって、金融以外の業態から金融事業に進出する企業も現れ、様々な常識が入ってきている。ガバナンスに緩みがあると判断された場合には「プリンシプル・ベース」で自主性に委ねられていた部分にも、ルールが適用されるようになるのだろうか。ESG投信に関する監督指針の変更は、「ルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督の最適な組み合わせ」に向けた調整の一環といえそうだ。
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