資産所得倍増プランが企業型DC加入者への教育を後押しする? その理由とは
Finasee / 2023年1月31日 11時0分
Finasee(フィナシー)
確定拠出年金(DC)企業型の担当者アンケート(※1)によると、企業のDC担当者の一番の悩みとして「継続教育」と回答される方が多いようです。2021年調査では27.8%の企業担当者が「継続教育」を悩みのタネとして挙げていました。
DCにおける継続教育とは?DC法において、「投資教育」は企業型DC実施企業の「事業主の責務」として規定されています。投資に不慣れな会社員が自己責任で運用に取り組む制度であるため、企業型DCの導入を決めた事業主に求められる責任として設定されたといえるでしょう。
「投資教育」には、導入時と継続時の二つがあります。このうち導入時の投資教育は、企業型DC実施企業のほとんどが実施しています。一方で、継続教育については、必ずしも全企業が実施しているわけではありません。前述の担当者アンケートにおいても、2018年以降に継続教育を実施した企業は、57.5%となっています。
※1「企業型確定拠出年金(DC)担当者の意識調査2021」特定非営利活動法人 確定拠出年金教育協会
継続教育が悩みのタネの理由:1.環境変化による影響企業担当者の悩みが「継続教育」である理由には、二つの側面があるのではないかと類推されます。一つは環境変化であり、もう一つが無関心層の存在です。
まず、一つ目の環境変化は、法律改正によりもたらされました。
確定拠出年金法
(事業主の責務)
第22条 事業主は、その実施する企業型年金の企業型年金加入者等に対し、これらの者が行う第25条第1項の運用の指図に資するため、資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置を継続的に講ずるよう努めなければならない。
2 事業主は、前項の措置を講ずるに当たっては、企業型年金加入者等の資産の運用に関する知識を向上させ、かつ、これを第25条第1項の運用の指図に有効に活用することができるよう配慮するものとする。
上記にあるとおり、確定拠出年金法では「資産の運用に関する基礎的な資料の提供その他の必要な措置」を「継続的に講ずるように努めなければならない」とされています。「継続的に…努めなければならない」という部分は、法改正により盛り込まれ、2018年5月から継続教育が事業主の努力義務となりました。
この変化について、中途半端さを感じている企業担当者もいるようです。「義務化のほうが対応しやすい」という声を聞くこともあります。前述の担当者アンケートでも、今後の法令改正で望むもの(複数回答)として「継続教育実施基準の明確化(義務の強化)」を14.3%が挙げています。
継続教育が悩みのタネの理由:2.無関心層の存在DC制度への無関心層の存在は、企業担当者の悩みとして二番目に多い項目(2021年調査では25.8%)となっています。
どの企業でも、制度への無関心層は一定数存在します。強制力をもたない継続教育を実施しても、興味のある人、運用している人は出席しても、無関心層には届かない、というジレンマが生じます。
その結果、企業担当者は「努力義務でもあり、継続教育を実施したほうがよいとは思う(が、実施に踏み切る余裕がない)」と頭の片隅にずっと残っている、それが悩みのタネにもなっているのではないでしょうか。
資産所得倍増プランの7つの柱こうした状況に対して、さらなる環境変化が生じようとしています。岸田政権が打ち出した資産所得倍増プランでは、次のような7つの柱が提言されました。
①家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久化
②加入可能年齢の引上げなど iDeCo 制度の改革
③消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
④雇用者に対する資産形成の強化
⑤安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
⑥世界に開かれた国際金融センターの実現
⑦顧客本位の業務運営の確保
第4の柱には、次のような記載があります(※2)。
「雇用主としての企業は雇用者からの信頼度が高く、世界では、人々の幸福を目指すうえで心身の健康のみならず、企業を通じた経済的な安定を支援する取組が広まりつつある。我が国においても雇用主による雇用者の経済的な安定の向上に向けた取組を推進することが求められている」
第4の柱の趣旨が浸透していくことで、経済的な安定(ファイナンシャル・ウェルネス)が向上すれば、無関心層の減少にもつながると想定されます。
さらに、第5の柱には、次のような記載があります。
「金融経済教育を受けたと認識している人は7%に留まる一方、金融経済教育を行うべきと回答した者は7割を上回っており、金融経済教育を求める国民の声は大きい。さらに、資産運用を行わない理由としては、4割の者が「資産運用に関する知識がない」ことを理由として挙げており、こうした層に安定的な資産形成の重要性を浸透させていくため、金融経済教育を届けていくことが重要である」
DCの投資教育は第5の柱の金融経済教育にもつながるものといえるでしょう。
実際、投資信託協会の調査(※3)では、金融経済教育として「勤め先の企業で、確定拠出年金の導入/継続/教育を受けた」を挙げた人が14.2%で最も高くなっています。また、投資信託の保有者のうち「勤め先の企業で、確定拠出年金の導入/継続/教育を受けた」層は保有者のなかで最も多くなっています。
※2 内閣官房 新しい資本主義実現会議 公表資料(2022年11月28日)
※3「投資信託に関するアンケート調査報告書-2021年(令和3年)投資信託全般」一般社団法人 投資信託協会
DCの運営管理機関として、継続教育を実施した際に「限界」を感じることはしばしばあります。
一つは、運営管理機関であることに起因する「限界」です。DCの運営管理機関は、法令により「加入者等に対して、提示した運用の方法のうち特定のものについて指図を行うこと、又は指図を行わないことを勧めること」が禁止されています。そのため、加入者が知りたいであろう「自分に合った運用商品はどれなのか?」に直接的に踏み込むことはできません。ケーススタディを設定したり、各種のシミュレーションの使い方も提示しますが、加入者が自分自身のことに結びつけるのは難しいようです。
もう一つ感じる「限界」が、行動につながりにくい、という点です。継続教育実施後に、実際に運用商品の変更を実施したり、運用状況をチェックしたりする人はごく少数にとどまります。継続教育の内容自体に不満があったから、というわけではなく、実施時のアンケートでの満足度が高く、かつ「運用商品を見直したい」とアンケートに回答した人が一定数いた場合であっても、行動に移す加入者が圧倒的に少ないのが現状です。
こうした「限界」があるなか、資産所得倍増プランの第3の柱が意味をもってきそうです。
「中立的なアドバイザーの見える化を進めるとともに、そうしたアドバイザーにより顧客本位で良質なアドバイスが広く提供されるよう取り組んでいくことが重要である。そこで、令和6年中に新たに金融経済教育推進機構(仮称)を設置し、アドバイスの円滑な提供に向けた環境整備やアドバイザー養成のための事業として、中立的なアドバイザーの認定や、これらのアドバイザーが継続的に質の高いサービスを提供できるようにするための支援を行う」「具体的には、雇用者が中立的な認定アドバイザーを活用する場合に企業から雇用者に対して助成を行うことを後押しする。また、既に一部の企業で実施されている雇用者向けの企業内インセンティブ・ポイントプログラム(雇用者に対して資産形成や関連サービスへの活用可能なポイントを配布するもの)の横展開を図る。さらに、企業内に設置される雇用者向けの資産形成の相談の場において、中立的な認定アドバイザーを積極的に活用することを促す」(※2)
「DCがあったから、NISAなど、ほかの投資にも興味が持てるようになった」
「こんなに増えてるなんて! これで住宅ローンを一括返済します」
こんな声を聞くと、DC運営管理機関の仕事をしていてよかった、と思えます。前者は30代の企業担当者の感想です。DC制度の趣旨に合っており、資産所得倍増プランの第4の柱「雇用者に対する資産形成の強化」にも通じるものといえるでしょう。
一方で後者の発言は、いわゆる「無関心層」の加入者の声です。50歳直前で企業型DCがスタートし、定年退職を前にご自身の運用状況を初めて確認した時の感想です。制度スタート時にバランス型投資信託を選択し、その後、一回も運用商品の変更を行わず(運用結果の確認もせず)に60歳を迎えた、というパターンです。
加入者行動を観察していると、前者の発言のように、制度を前向きにとらえ活用できる人ばかりではない、と思えます。そうであれば、「難しいことを理解しようとしなくても、制度を活用できる仕組み」が大事なのではないでしょうか。
具体的には、指定運用方法(運用商品を本人が選択しなかった場合に運用指図したとみなされる運用商品)の設定や、ターゲットイヤー型投資信託の活用が、その一助になると思われます。また、加入時の分散投資の徹底が加入者の10年後、20年後を支える資産形成に結びつくものであるともいえるでしょう。
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