復興税が防衛費に“転用”される? 震災からの再建半ば…政府の狙いは
Finasee / 2023年2月10日 7時0分
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2012年2月10日、東日本大震災からの復興を担う「復興庁」が設置されました。間に省を置かない内閣直属の行政機関で、未曽有の被害が生じた震災からの再建を統括する役割を持っています。
復興庁の設立から今年で11年となりました。復興はどれくらい進んだのでしょうか。
復興はどれくらい進んだ?東日本大震災の発生後、約47万人もの避難者が発生しました。これは現在の東京都葛飾区の人口(約46.4万人)に匹敵する水準です。被災した人たちの住まいを確保するため、応急仮設住宅の建設が急ピッチで進められ、震災発生からおよそ5カ月で4万4000戸を超える数が完成しました。
現在では住居への移転が進み、避難者の数は4万人にまで減少しています。一時は31万人を超えた応急仮設住宅の入居者数も、2021年でおよそ1000人となりました。まだ完全ではありませんが、人の復興は大きく前進したようです。
【応急仮設住宅入居者数(岩手県+宮城県+福島県)】
・2012年:26万7429人
・2017年:6万2136人
・2021年:1044人
出所:復興庁 数字で見る復興
インフラも少しずつ整ってきました。震災で寸断された道路は地元の建設会社29社から52のチームが復興にあたり、2021年12月に全550キロメートルの「復興道路」および「復興支援道路」が全線開通します。経済も再開に向かい、製造業の出荷額も大きく回復しました。
【製品出荷額等(製造業計)】
経済産業省「経済センサス」より著者作成拡大画像表示再興を支える「復興税」とは
震災からの復興を支援するため、国はこれまで大きな予算を組んできました。2020年度までの執行見込み額は38兆6029億円にも上ります。
【東日本大震災復興関連予算の執行見込み額(2011年度~2020年度)】
・被災者支援:2兆2640億円
・住宅再建・復興まちづくり:13兆4251億円
・産業・生業(なりわい)の再生:4兆3981億円
・原子力災害からの復興・再生:7兆1934億円
・震災復興特別交付税:5兆8790億円
・その他:5兆4430億円
出所:復興庁 東日本大震災からの復興の状況と取組(2021年12月)
この財源として、2013年から適用されているのが「復興税」です。個人と法人それぞれに課されるもので、前者は所得税額の2.1%、後者は法人税額の10%分の税金を上乗せして納めることとなりました。
【復興税の概要】
・個人(復興特別所得税):所得税額の2.1%
・法人(復興特別法人税):法人税額の10%
例えば個人が株式などから利益を得ると、本来20%(所得税15%、住民税5%)の率で税金が課されます。しかし、現在は復興特別所得税0.315%(所得税15%×復興特別所得税2.1%)分を上乗せして納めなければいけません。
復興税の税収は年間でおよそ4000億円です。決して軽い負担ではありませんが、納税に納得している人は少なくないかもしれません。当時の寄付額を見ると、多くの人が善意でお金を送っていることが分かります。たくさんの人が被災地の復興を願っている証左であり、復興税の理解も得られやすいと考えられます。
【個人の寄付総額、寄付者数】
日本ファンドレイジング協会「寄付白書2021」より著者作成拡大画像表示復興税が防衛費に置き換わる?
昨年12月に公表された「令和5年度与党税制改正大綱」において、現在個人にかけられる復興特別所得税を1%減じ、防衛費の財源として新たに1%分の付加税を課すという仕組みが盛り込まれました。復興税が直接転用されるわけではありませんが、実質的に復興に向かうための税収が防衛費に回ることとなります。
【防衛力強化に係る財源確保のための税制措置(一部抜粋)】
わが国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり……所得税……について、以下の措置を講ずる。
所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する……
出所:自由民主党 公明党 令和5年度税制改正大綱
復興特別所得税の税率引き下げに合わせ、課税期間の延長が検討されていることも明らかになりました。本来は2037年までの時限的な処置でしたが、期間を延ばすことで税収の低下を補填する狙いがあります。報道によると、延長の期間は14年程度で調整されているようです。
防衛費の財源として、ほかに法人税やたばこ税の増税も組み込まれました。大綱では、2027年度までに1兆円の財源を確保するとしています。
日本が防衛費の増額を急ぐ背景には、不安定化した安全保障環境があります。ロシア・ウクライナ問題の発生以来、多くの国が防衛費を増額させてきました。日本も北朝鮮や中国といった周辺国との摩擦は少なくなく、防衛費を引き上げることで抑止力の向上を目指すようです。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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