株価は大幅下落、マスク氏の言動にシビアな視線…テスラは再び輝きを取り戻すか
Finasee / 2023年2月3日 11時0分
Finasee(フィナシー)
ハイテク銘柄の中でも高い注目を集める米国のEV自動車メーカー「テスラ」の株価は、2022年に入ってから下落が続き、同年12月にはさらなる大暴落を見せた。
世界的に有名なカリスマ経営者イーロン・マスク氏が率いる同社は、2003年設立。自動車メーカーとしてまだまだ若い企業でありながら、2021年には純資産額でトヨタ自動車を追い抜き世界No.1に躍り出ている。
革新的な試みで人気が高く、数多くの投資家が注目する銘柄に何が起きたのか? 近年のテスラを取り巻く状況から紐解いていきたい。
「史上最大の資産損失額」でギネス記録を大幅更新EVの弱点とされたバッテリー寿命の品質向上、北米に2万台以上の充電器設置、自動車の購入をオンラインで完結できるシステム整備……。数々の革新的イノベーションによって、EV業界を牽引してきたテスラ。
これまでのところ、テスラの株価が最高額となったのは2021年11月のことで、当時の株価は約400ドルであった。その頃からおよそ2年前、2020年初頭時点の株価が30ドル程度と考えると、いかに急激な成長を遂げているかがわかるだろう。2021年9月にマスク氏は、Amazonの創業者ジェフ・ペゾスを追い抜いて世界長者番付の首位に躍り出ている。
しかし、2022年は一転してテスラにとって厳しい1年となった。インフレの深刻化や米金利上昇にはじまり、さらには中国のサプライチェーン問題や3月頃から実施されたロックダウンが、上海に生産拠点を持つテスラの株価の悪材料に。その後もさまざまな要因によって値下がりが続き、年初に約350ドルだった株価は徐々に下落して、年末には約120ドルにまで落ち込んだ。
テスラの筆頭株主でもあるマスク氏は、同社の株価の大幅な値下がりによって保有資産額が激減。世界一の富豪の座を「LVMH モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン」会長兼CEOであるベルナール・アルノー氏に明け渡し、自身は2位へとランクダウンした。
2021年には3200億ドル(日本円換算で約42兆円)もの総資産を誇っていたマスク氏だが、2023年1月時点には半分以下の1380億ドルにまで落ち込んでいる。1820億ドル(約24兆円)という資産の減少額は「史上最大の個人資産損失額」としてギネス記録に認定された。
ちなみに、マスク氏が更新するまで、この記録の保持者はソフトバンクグループの孫正義氏であった。2000年に586億ドルの損失を抱えた孫氏のギネス記録が、今回マスク氏に大きく塗り替えられたこととなる。
Twitter買収騒動も株価暴落に大きく影響マスク氏といえば、2022年に度々ニュースを騒がせたTwitter社の買収が記憶に新しいのではないだろうか。テスラの株価大暴落は、このTwitter買収騒動も要因のひとつだ。
市場では、マスク氏がTwitterの業務にかかりきりになってしまい、テスラの経営に集中できなくなることが投資家から懸念され、それがテスラの株価急落を招いたとみられている。
実際、買収完了後はTwitter社の変革を精力的に進める様子が度々報道されてきた。
2022年10月、440億ドルもの資金でTwitter買収を完了させたマスク氏は直後に大胆な経営改革に着手。手始めに買収前の取締役を全員解雇した。CEO就任から僅か1週間後の11月初頭には人件費削減を目的に、全世界のTwitter社員全体のおよそ半数にあたる約3700人を解雇している。
さらに、在宅勤務の廃止や、残った従業員に対して「今後はハードワークが求められる」としたうえで「容認できない従業員は退職を希望するとみなす」と通告するなど、労働環境の激しい変化をもたらした。
急激な変化を受け入れられず自主退職した従業員も多く、11月後半になると買収前には約7500人であった従業員数が、約2700人にまで減少している。
一連の報道を受けて、マスク氏のTwitter社の従業員に対する抑圧的な振る舞いに抵抗を示す人も多い。このことがテスラのブランドのイメージを損なっており、株価の低下を招いているという意見もある。
マスク氏による保有株の売却も値下がりの要因マスク氏が、自身が保有するテスラの株式を売却したことも無視できない。一般的に企業が自社株を売却する行為は、市場に出回る株式の数を増やすこととなるため需給のバランスが崩れ、株価の値下がりを誘発する。
マスク氏は2022年12月「今後2年間は、自身が所有するテスラの株式を売却することはないだろう」という旨の発言をしているが、その言葉を手放しで信じる投資家は多くないだろう。
マスク氏は2022年4月にも自身が保有するテスラ株を84億ドル相当分を売却。その際「今後は自分が保有するテスラ株を売却する予定はない」とTwitterに投稿した。しかし、表明に反して同年の8月と11月、12月に3度売却を行っている。
この前例を踏まえると、投資家はマスク氏の「売却しない」という発言を安易に信用することはできないはずだ。
ジョークが過ぎる!? マスク氏の言動には要注意テスラ株へ投資するならマスク氏の動向に日々目を向けておかなければならない。
過去にマスク氏は、Twitterに「テスラが経営破綻した」という旨の投稿をして、株価が5%減少する事態を招いたことがある。投稿日は4月1日。エイプリルフールのジョークだった。しかし、一部の投資家は笑えない冗談だとシビアな目を向けた。
最近では2022年11月の米中間選挙に向け、マスク氏が無党派の有権者層に共和党の議員候補に投票するようTwitterで呼びかけたことが話題を集めた。SNS運営企業CEOが特定の政党へ投票を促す行為は異例であり、マスク氏自身の「Twitterは政治に対して中立的な立場でいるべき」とした過去の発言と食い違うという指摘が多く出されている。
マスク氏の政治的発言を受けてテスラ社の購入をキャンセルしたり、それまで愛車として使用していた車を手放したりする人もいたという。 テスラの株主は、マスク氏になるべく不要な言動を控えて欲しいと切に願っているだろう。
テスラの将来をどうみるべきか競合自動車メーカーが続々とEV車のリリースを進めていることも、テスラの株価にとって悪材料だ。競合他社のEVへの移行が進めば進むほど、テスラは特別な企業ではなくなっていくと考える投資家は少なくない。
自動車業界の調査などを行うS&Pグローバルモビリティのデータによると、2020年時点でテスラは米国のEV市場においてシェアの約80%を誇っていた。しかし、2022年9月に65%まで低下。さらに、2025年には他自動車メーカーの参入により、テスラのシェアは20%未満にまで落ち込むという見立てが発表されている。
2022年末頃に、テスラはアジア、欧米地域で自社EV製品の大幅値下げを実施した。不振の影響を受けて販売台数を伸ばすことを目的とした苦肉の策とみられる。EV業界をリードしてきたテスラが、このような弱気な姿勢を見せたことで先行き不安に思う投資家もいるだろう。
一方、現在でも根強いテスラの信奉者は多い。それは、テスラが従来の自動車メーカーとは根本的に異なる姿勢を持つためだ。
通常、自動車会社は広告に多額の費用を投入するが、テスラは広告に一切費用を使わない企業として知られる。その分、浮いた資金は研究開発にあてているのだ。このような姿勢が数々のイノベーションを生み出すことに寄与してきた。
2022年には、発表以降長らく待たれていたEVトラック「セミ」の納車が米国で開始。今後はピックアップトラックの「サイバートラック」やスポーツカー「ロードスター」の新型モデルなど、注目度の高い新型モデルのリリースが控えている。
加えて、テスラはこれまでも家庭用蓄電池を販売するなど、事業をEV自動車の販売に限定していない。現在も自動運転技術を活かしたロボットタクシーの実用化や、自動運転で動く人型ロボットの販売を目指して開発を進めている。これらの取り組みが実現に近づけば、投資家たちの考えも変化していくだろう。
株価は大暴落したが、市場のテスラへの注目度は依然として高く、自動車業界の未来を考える時に無視できない存在だ。今後も、テスラが市場でどのような動きをみせるかを見守ろう。
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