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円安トレンドで高まる外貨熱。ドルを買うことは果たして「投資」なのか?

Finasee / 2023年2月2日 17時0分

円安トレンドで高まる外貨熱。ドルを買うことは果たして「投資」なのか?

Finasee(フィナシー)

米ドル高が進み、「外貨投資」に注目が集まる

金融機関のサイトを見ると、「外貨投資」という言葉をよく目にします。

某メガバンクのサイトには、「外貨投資で分散投資」という見出しと共に、外貨投資のメリットを解説しています。昨年の米ドル/円レートは、物凄いスピードで米ドル高になりました。2022年1月24日には1米ドル=113.48円の安値を付けたところから米ドル高が進み、同年10月21日には1米ドル=151.94円をつけました。

米ドルは、さまざまな貿易に使われる基軸通貨ですので、日本が海外から輸入している資源・エネルギーや食糧は、基本的に米ドル建てで取引されています。ということは、米ドル高が進むと、円建ての取引価格は値上がりすることになります。たとえば1米ドル=110円なら、1万米ドルのものを輸入するのに必要な円建て価格は110万円ですが、1米ドル=150円になると150万円になります。

先日発表された、昨年12月の消費者物価指数が、コアで前年同月比4.0%の上昇となり、41年ぶりの上げ幅だとニュースで騒がれていましたが、企業間で取引されている物価を示す「企業物価指数」の12月値は、前年同月比で10.2%の上昇となりました。企業間で取引される物価は、すでに2ケタの上昇ですが、さまざまなコストカットの賜物により、消費者への価格転嫁は最小限に抑えられてきたのです。

物価が上昇すると、同じ1万円で買えるモノの数量は減ります。つまり円の価値が減価します。このように、通貨安によって国内物価が上昇することを「輸入インフレ」と言います。

輸入インフレによって円の購買力が低下するリスクを抑えるためには、確かに資産の一部を外貨で持つのが有効であると言えるのですが、問題は永遠に円安になるとは限らないことです。現に今、外国為替市場では米ドル高が進むどころか、米ドル安が進行しています。1米ドル=151.94円まで進んだ米ドルは、今では1米ドル=129円台になりました(1月26日現在)。

先進国同士の為替レートは、いずれ調整される

外貨投資というと、何となく「外貨を長期で持ち続けることによってリターンが得られる」と考える人は多いのではないでしょうか。だから金融機関も、輸入インフレリスクを最小限に抑えるための分散投資という名目で、外貨投資の必要性を打ち出し、外貨預金や外国債券、外貨MMF、外国株式などに資金を誘導しようとしているのだと思います。

でも、外貨投資を考える際には、通貨そのものを売買するのか、それとも結果的に外貨建て資産を持つことになるけれども、それは外国株式や外国籍投資信託を保有するためなのかを、分けて考える必要があります。

そもそも投資とは何かというと、付加価値を生み出すものに資金を投じることです。たとえば株式投資であれば、企業が生み出す付加価値を買うのと同義です。企業活動によって利益を生み出し、それを配当金という形で株主に分配してくれます。そして、売上と利益が伸びれば、その分だけ配当金も決算ごとに、徐々に増えていきます。まさに企業が生み出す付加価値が高まっている証拠です。

これに対して、外貨と称される「通貨」は、何も生み出しません。たとえばお財布の中に1万円札を入れておき、それが時間の経過と共に1万1000円、1万2000円と増えるようなことはありません。つまり通貨そのものは一切、付加価値を生まないのです。

そうであるにも関わらず、「外貨投資」などと称されるのは、為替レートの値動きによって生じるキャピタルゲインを得られる可能性があるからです。

しかし、外貨投資で得られるキャピタルゲインは、決して投資対象通貨の付加価値が向上したことで生じるものではありません。なぜなら、為替レートは異なる2通貨の交換比率に過ぎないからです。

単なる交換比率に過ぎない為替レートが、通貨高もしくは通貨安の一方向にずっと進み続けることはありません。もちろん一方が新興国通貨、もう一方が先進国通貨で、新興国通貨を発行している国の経済力が、先進国通貨を発行している国の経済力を凌駕するところまで高まれば、新興国通貨が長期トレンドで上昇することはありえますが、米ドルと円のように、先進国同士の通貨の為替レートが、長期的に一方向に進んだりはしないのです。

通貨そのものと、外国株や外国籍投信を持つことの違い

事実、米ドル/円の長期トレンドを見ると、1987年から今に至るまで、その為替レートは1米ドル=70円から150円の範囲で推移しています。非常に広いレンジではありますが、長期的なチャートを見ると、大体1米ドル=110円が最も居心地の良い水準であり、何か大きな経済イベントが生じた時、1米ドル=70円、もしくは1米ドル=150円に向かってトレンドが生じます。今回も、1米ドル=150円にタッチした後、1米ドル=127円台まで米ドル高が修正されてきました。

では、なぜ円は、1971年の1米ドル=360円から、1995年の1米ドル=80円割れまで、24年にもわたって円高トレンドを維持できたのでしょうか。この疑問をある機関投資家の運用責任者に聞いたところ、「それは日本が新興国だったから」という回答でした。

バブル経済が崩壊したとはいえ、まだその余韻を引き摺っている1995年にかけて、日本は新興国から先進国の仲間入りを果たし、GDPで米国に次ぐ世界第2位の規模にまで成長しました。結果、日本円は米ドルに対して大きく上昇しました。そこまでの米ドル/円は、先進国通貨対新興国通貨であり、それ以降は先進国通貨対先進国通貨の関係で、為替レートが形成されていると考えられます。

だとすると、延々と米ドル高、あるいは円高が進む可能性は考えにくく、両国の通貨間で長期トレンドは発生しないと考えられます。仮にそういう事態が生じるとしたら、それは米国か日本のいずれかが、先進国の座から滑り落ちる時であるというのが、その運用責任者の解釈です。

米ドルと円のレートがこれからもボックス圏で推移するとしたら、長期トレンドによるキャピタルゲインは得られず、あくまでもボックス圏の中で上がるか、下がるかを当てるゲームになります。つまり為替の値動きで利益を得るFXなどは、基本的に投資とは言えません。これは「外貨投機」と言うべきでしょう。

ただし外国株式への投資のように、あくまでも企業の付加価値を得るのが主で、為替変動によるリターンのブレが従である場合は、「外貨投資」であると考えられます。その点で、通貨そのものを売買するのか、それとも外国株式や外国籍投資信託を保有するうえで結果的に外貨を持つことになるのかを、分けて考える必要があるのです。

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