節約と副業がすべてじゃない―20代の資産形成に「自己投資」が有効なワケ
Finasee / 2023年1月30日 17時0分
Finasee(フィナシー)
日本FP協会が「若手社会人のマネー&ライフプラン」という冊子を制作しています。冊子は1部220円で販売(学校へは無償提供)されているのと同時に、同協会のサイトからPDFでダウンロードすることもできます。ちなみにダウンロード版については、著作権の関係から印刷不可で、閲覧のみ可能なページもある点に留意してください。
基礎編で最低限の知識を、対策編でお金との付き合い方を学ぶこの冊子には、若手社会人として最低限、覚えておきたいお金の知識が書かれています。
基礎編として「給与明細・賞与明細の見方を押さえておこう」、「源泉徴収票をチェックしよう」、「いざという時の備え『社会保険』について知ろう」、「老後の年金のキホンを知ろう」の4点について。
そして対策編として「資産形成を始めてみよう」、「クレジットカード・ローン利用のキホンを知ろう」、「必要な保険・不要な保険を押さえておこう」、「ライフイベント表、キャッシュフロー表を作ってみよう」の4点について、誰が読んでも理解できる平易な内容になっています。
基礎編には最低限の知識を身に付けるための内容が記述されています。この4点については、簡単に目を通して把握する程度で良いでしょう。
一方、対策編は自身が高齢者になり、老後の生活資金で苦労することのないように、資産形成を通じてお金を増やす話や、消費に際してクレジットカードやローンを活用した借金に関する注意点、さらには、どういう考え方で生命保険を選べば良いのかというところまで、幅広くお金との付き合い方が書かれています。
そして最後には、お決まりと言っては何ですが、「ライフイベント表・キャッシュフロー表を作成して人生100年時代の家計戦略を考えましょう」という話になっています。
いずれもオーソドックスな内容ではありますが、お金の知識をほとんど身に付けない状態で社会人になった人にとっては、基礎の基礎レベルの知識を身に付けるために、有効なものだと思います。
特におさえておきたい“資産形成”の項目そして、この冊子で最もページ数を割いているのが、対策編の「資産形成を始めてみよう」です。この項目の説明だけで、8ページも使われています。
内容としては、支出を把握し、30歳までに100万円を貯めるのを目標に貯蓄をすること、「長期・積立・分散」の発想で投資をすること、そして積立投資にはつみたてNISAや確定拠出年金を活用すること、となっています。
冊子をさらに有効活用するために…この冊子はあくまで初心者向けの内容なので、概略的なことしか書かれていません。読者は、特に次の3つの点について留意しておく必要があります。
1.投資信託の運用方法は自分で調べて身に付けるこの冊子で「先取り貯蓄」、すなわち自身が得た給料から生活に必要な経費を差し引き、残った分を貯蓄に回すのではなく、先に貯蓄したい額を差し引き、残った分で生活することが推奨されているのは、まさにその通りです。ただし、こうして蓄積されたお金を運用する点については、冊子に記載されている内容だけでは決して十分とは言えません。
運用に際しては「投資信託をうまく活用しよう」と説明がありますが、現状、国内で設定・運用されている投資信託は5888本もあり、そのなかから自分の負えるリスクに応じたファンドを選ぶ必要があります。しかし、どういう基準でファンドを選べば良いのかという点については、この冊子では言及されていないため、自分で知識を身に付けなければいけません。
2.支出を削るだけでなく、「収入を増やす」視点も持つ2点目は、恐らくこの冊子に書かれている内容を理解しただけでは、資産を増やすことはできないということです。つまり、資産形成に努め、クレジットカードやローンを利用した無駄遣いを最小限に抑え、無駄な保険料を払わないで済むように必要な保険を把握したとしても、資産自体は増えないのです。なぜなら、冊子に掲載されている内容には、資産形成をするうえで一番大事な視点が抜けているからです。
ここで言う一番大事な視点、それは「収入を増やす」ことです。これはこの冊子だけでなく、マネー雑誌や資産形成に関連するサイトなどにも言えることですが、収入からの支出をいかに節約し、貯蓄をし、さらに投資をして増やすかという点にばかり焦点が当てられてしまっています。どれだけ節約を頑張ったとしても、収入以上の貯蓄はできません。当然、月々の生活費は必要ですから、収入から生活費を差し引いた以上の貯蓄はできず、節約には限界があります。
日本が高度成長のど真ん中だった頃は、「所得倍増計画」が唱えられ、実際に会社員の給与は大きく上昇しました。
ちなみに厚生労働省の「毎月勤労統計調査」で、「常用雇用者1人平均月間現金給与額」の推移を見ると、事業所規模30人以上(サービス業を含む、但し1969年以前はサービス業を含まない)では1950年が9224円で、1970年には7万5670円になりました。その後も上昇は続き、1997年には42万1384円まで増えています。
つまり、同じ会社に勤め続けて、同じような仕事をしてさえいれば、自然と収入が増えていったのです。結果、個々人がいかにすれば収入が増えるのかを考えずに済んだとも言えるでしょう。
しかし、これからの時代はそうはいきません。すでに前出と同じ数字を見ると、1997年をピークに減少傾向をたどっています。ちなみに2021年のそれは36万8493円で、この24年間で12.6%も減少しました。
収入がどんどん減っているのですから、いくら節約を頑張ったとしても、資産形成に回せる額には限界が生じてきます。だからこそ、収入を増やす方法を考える必要があります。
収入を増やすといっても、隙間時間にアルバイトをするという類の話ではありません。隙間時間にアルバイトをして副収入を得るのは、人生の伸びしろが無くなった人たちの考えることで、社会人になったばかりの人が考えることではありません。若手社会人が収入を増やすのにまず考えるべきは、自分のキャリアアップにつながる知識習得です。
私の知り合いのファンドマネジャー(他人から預かったお金を運用する人)は、銀行からキャリアをスタートさせましたが、自腹で英語を習得し、かつ海外留学までして今の地位を築いています。恐らく、かなりの額のお金を使ったと想像できますが、それは今の自身を築き上げるために必要な投資と考えられます。
20代のうちは「長期、積立、分散」投資の前に、自己投資に資金を投じるべきでしょう。それが将来、自分が働くことで得られる収入増につながり、より大きな資産形成の礎になるはずなのです。「長期、積立、分散」投資も大事ですが、キャリアアップのための自己投資を行ってから始めても遅くはないでしょう。
3.人生に起こり得る「不測の事態」への対応力を持つ最後にもう1点。「ライフイベント表・キャッシュフロー表の作成」は、多少の気休めにはなるかもしれませんが、それで生涯の資産形成がうまくいく保証はどこにもありません。
そもそも20代のうちから、自分が40代、50代、60代になった時のキャッシュフローなど具体的にはイメージできないと思いますし、長い間には必ず不測の事態が生じるからです。
大事なのは、若い時に長期的、かつ綿密なライフプランを立てることではなく、必ずある不測の事態に直面した時、それに対応できる知恵を身に付けることなのです。
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