日銀が「世界初」の施策を導入…政府は反対も断行、振り回された国民【2月12日はどんな日?】
Finasee / 2023年2月12日 11時0分
Finasee(フィナシー)
・国債「利回り35%」の衝撃…政府の信用失墜で暴落、経済混乱の恐怖
昨年12月、日本銀行が予想外に「イールド・カーブ・コントロール(YCC)」の修正を発表しました。それまで10年国債利回りを0.25%程度へ抑え込むとしていたところ、0.5%程度までの上昇を容認したのです。発表は予想外で、市場で10年国債利回りは急騰し、日米の金利差縮小の思惑からドル円は下落しました。
【日本10年国債利回りとドル円】
Investing.comより著者作成拡大画像表示
日本は24年前も、「ゼロ金利」を導入したことで市場を驚かせたことがあります。経緯を振り返りましょう。
日本が世界で初めてゼロ金利を導入1999年2月12日、当時の速水優(はやみ・まさる)日本銀行総裁は、政策金利を史上最低の0.15%に誘導する、いわゆる「ゼロ金利政策」の導入を決定しました。政策金利とは中央銀行が金融政策を実施するために変動させる金利のことで、政策金利をゼロとするのは日本が世界で初めてでした。
金利を引き下げると、一般的に景気を押し上げる効果があります。当時はバブル崩壊に伴う不況が続いており、日本銀行は金利を極めて低い水準にとどめることで経済の刺激を図りました。
【日本の政策金利】
日本銀行「時系列データ検索サイト」より著者作成拡大画像表示
しかし、世界に先駆けて実施したゼロ金利政策もむなしく、日本経済は回復には至りません。導入した翌年度の名目GDPはむしろマイナス成長に陥り、リーマンショック直前の2007年度までの成長率は1%にも到達しませんでした。
【日本の名目GDP(1998年度=100)】
内閣府「国民経済計算(GDP統計)」より著者作成拡大画像表示政府の反対を押し切って利上げを断行
当時は異例だったゼロ金利政策も、現在ではこれまで多くの国で採用されました。そう考えると、日本は画期的な先駆者だったことになります。
しかし、実は日本のゼロ金利政策はすぐに撤回されました。導入から1年半たった2000年8月、同じく速水元日銀総裁の下で開催された金融政策決定会合において、政策金利を0.25%へ引き上げることが決定されます。会に出席していた政府の出席者は議決の延期を求めますが、反対多数で否決し、日本銀行はゼロ金利の解除を断行しました。
政府の制止を振り切ってまで実施したゼロ金利解除でしたが、今度はわずか半年後の2001年2月に再び導入されます。ゼロ金利を“発明”した日本銀行も、それを使いこなすことは難しかったようです。通貨の番人たる中央銀行の迷走に、国民は大いに振り回されることになりました。
【日本の政策金利】
日本銀行「時系列データ検索サイト」より著者作成拡大画像表示金利上昇を容認する日銀…今後どうなる?
冒頭紹介した通り、日本銀行は昨年12月にイールド・カーブ・コントロールの修正を発表しました。
イールド・カーブとは、同一発行体の債券を年限(満期までの期間)が短い順に並べたものです。債券は満期までの期間が長くなるほどリスクが大きく、その見返りとして求められる利回りも大きくなることから、通常は右肩上がりを描きます。
日本銀行が2016年9月から実施しているイールド・カーブ・コントロールは、マイナス金利を導入することで短期金利を低く誘導しつつ、さらに国債買い入れを通じ長期金利も抑え込もうとするものでした。つまり短いものから長いものまで幅広く金利に下押し圧力をかけ、より強力に金融緩和を推進しようとしたのです。
日本銀行は長期金利の誘導目標として0.25%と設定しました。2022年には他国に引きずられ日本国債利回りにも上昇圧力がかかる中、連続指値オペ(※)を実施してまで0.25%を死守します。
※連続指値オペ:10年債利回りが0.25%程度にとどまるよう、無制限に国債を買い入れる金融政策
それだけに、今回のイールド・カーブ・コントロールの修正は多くの市場参加者を驚かせました。日本国債利回りは幅広い年限で上昇し、イールド・カーブは全体的に押し上げられます。特に期間の長いもので上昇したことから、イールド・カーブはややスティープ化(傾斜化)しました。
【年限別、日本国債利回り(イールド・カーブ)】
Investing.comより著者作成拡大画像表示
日本はこれまでさまざまな政策を実施し、一貫して金利を低く誘導してきました。今回の日本国債利回りの上昇は、市場で上がったのであり、日本銀行が直接上げたわけではありません。しかしそれを容認したことは事実であり、市場では早くもマイナス金利の撤回や利上げといった次の一手を予想する声が聞かれています。
今後、市場の目は次の総裁に注がれるでしょう。現在の黒田総裁は2023年4月に任期を終え、再任を希望しない旨を公表しています。現在の緩和的な政策が維持されるような人事となるか、市場の注目を集めています。本記事執筆時点では明らかになっていませんが、候補者は2月中に国会で提示される見込みです。
また海外の金利動向も、日本の金利に大きな影響を与えるでしょう。金利上昇を主導してきたアメリカは、2022年に7回の利上げを行い、政策金利を0.25%から4.5%にまで引き上げました。急激な金利上昇に経済指標の悪化も見られることから、市場では将来の利下げもささやかれるようになっています。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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