不安定なエネルギー需要でも、MLP市場が上昇基調を維持するワケ
Finasee / 2023年2月6日 19時0分
Finasee(フィナシー)
米国のMLP(Master Limited Partnership)市場が堅調だ。エネルギー事業を主な収益源とする共同投資事業形態を意味するMLPは原油価格と連動する傾向にあったが、2022年後半に下落した原油価格とは対照的に堅調さを維持した。その背景には米国のエネルギー業界の収益環境の変化や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などがあったとみられる。各種レポートを基に22年のMLP市場を振り返り、23年の見通しを紐解く。
原油などエネルギー価格と連動するMLPMLPは、主として天然資源などのパイプラインや貯蔵施設に投資を行い、その利用料を収益源として投資家に配当を還元する仕組みだ。REIT(不動産投資信託)のエネルギー事業版と説明されることもある。エネルギーインフラへの投資促進を目的として、1980年代に米国で誕生し、その後発展していきニューヨーク証券取引所やNASDAQなどの金融商品取引所に上場している。総所得の90%以上を天然資源の探査・採掘・精製・運搬・備蓄等から得ていることがMLPの要件で、その要件を満たすと原則として法人税が免除される仕組みだ。
米国では100を超えるMLPが設立されており、こうしたMLPの動きを示す代表的な指数が米アレリアン社が算出するMLP指数である。市場規模としては、縮小傾向にある。1995年12月29日を基準日(100)とし、ニューヨーク証券取引所上場のMLP50銘柄で構成されている。市場規模の小ささなどから値動きが比較的大きいのも特徴だ。
エネルギー関連事業は川上・川中・川下に分けられており、川上は探査・開発・生産、川中は流通・精製・備蓄・輸送、川下は卸売り・小売りと分けられ、MLPは主に川中事業に投資をする。川上・川下事業は、資源価格や需要などによって収益が変動する。川中産業の主な収入の変動要因は資源輸送量となっており、原油価格変動からの直接的な影響は受けにくいものの、MLPの株価は原油価格と連動する傾向にある。
エネルギー需要の増減で荒い値動きだった2022年三井住友トラスト・アセットマネジメントのファンドレポートによると、22年4月ー9月期のMLP市場はおおむね横ばいで推移した一方で、原油市場は反落した。前半は、世界的な金融引き締めや金利上昇が市場心理を悪化させたが、「資源価格の高止まりやインフレへの備えの観点からMLP市場の相対的な魅力度が再評価され、底堅い値動きとなった」と分析する。その後は、世界的な景気減速や中国でのロックダウン(都市封鎖)を起因としたエネルギー需要の減速懸念などにより、「下落する局面も生じる値動きの荒い展開となり、最終的に当期のMLP市場は概ね横ばいの推移となった」としている。
実際に22年前半はWTL原油先物価格と連動する動きを見せていた。ただ22年後半は原油相場が下落したにもかかわず、MLPは堅調さを維持し、上昇基調を維持した。
MLPが堅調な理由に米国のシェールガス・オイル生産の収益性が安定してきているという点が挙げられる。以前は1バレル当たり80ドル台が損益分岐点といわれ、従来型の油田に比べれば採掘コストが高いと言われていたが、現在は30-40ドルまで低下しているといわれている。
さらにロシアによるウクライナ侵攻は米国のエネルギー業界にとっては、追い風となる。EUはロシアのウクライナ侵攻前まで、天然ガスと石炭の輸入の4割、石油の4分の1をロシアに依存していた。ウクライナ侵攻後、EUはロシアの収入源を断つため27年までにロシアからのエネルギーの輸入を全面的に停止する方針を打ち出している。EUが依存していたロシアに代わる天然ガスの供給源として、米国の液化天然ガス(LNG)輸出の拡大への期待が高まりつつある。実際に22年3月には、EUが2021年にロシアから輸入した天然ガス1550億立方メートルの3分の1にあたる量を、2030年までに米国産へと置き替えていくことで合意している。米国のLNG輸出能力は年々増強されており、米国のLNG輸出の拡大は天然ガス関連のMLPの中流エネルギー事業にとって収益機会の拡大に繋がると期待される。
そうした不透明な市場環境の中で、安定した配当が期待できるMLPへの投資家の関心が高まっている。
原油高が続く23年も堅調な見通しにではMLPの23年の見通しをどうみているのか。フランクリン・テンプルトン・ジャパンのマーケット・レターによると「23年以降も安定的な増配の継続が予想される」。その理由として、MLPの構造改革が一巡したことによるMLPのキャッシュフロー改善に伴う増配が期待されると分析する。
さらに「米エネルギー情報局(EIA)によれば、世界的な原油在庫の減少(需給ひっ迫)を背景に2023年のWTI原油価格は80米ドル台での安定的な推移が見込まれる」ことから、米国のエネルギー業界は23年も追い風となり、川中のエネルギー事業を営む「MLPにも恩恵が及びそう」とも指摘する。
ただ、シェール開発には、環境破壊の指摘もある。フラッキングで使う化学物質による地下水汚染や汚染物質の処理問題、井戸から漏れる有害物質による大気汚染などがある。さらに採掘時に発生するメタンガスは温室効果が高く、世界的にトレンドとなっているカーボンニュートラルの推進とは逆の方向へ向かうことになる。ただ、足元ではロシアによるウクライナ侵攻侵攻など様々な影響により、米国のLNG輸出量は増えていき、MLP市場も堅調に推移すると見られる。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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