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「孫の役に立ちたい」一心が後戻りできぬ悲劇に…悔やまれた祖父の判断

Finasee / 2023年2月13日 11時0分

「孫の役に立ちたい」一心が後戻りできぬ悲劇に…悔やまれた祖父の判断

Finasee(フィナシー)

鈴木敏郎さん(仮名、65歳)は関東郊外の賃貸マンションに妻と2人暮らし。一人息子は大学卒業後に大手メーカーに就職、結婚して近くのマンションに住んでいます。そんな息子は結婚後10年たっても子どもをもうける気配がなく、鈴木さん夫婦は早く孫の顔が見たいと誕生を切望していました。

願いがかないようやく初孫が誕生すると、鈴木さんは手元の退職金2000万円を孫の教育資金のために使いたいと考えます。金融機関からも相続税対策として「教育資金一括贈与」を提案されていたことから、鈴木さんは非課税限度額の1500万円を一括贈与することに。

息子夫婦も非常に喜んでくれ、孫の役に立てると鈴木さんはとても満たされた気持ちになりました。ところが、これが悲劇の始まりだったのです……。

●突然、息子夫婦が訪ねてきて驚きの一言
※前編【「おじいちゃん、ありがとう」孫のために一大決心、“生きた証”に涙】からの続き

相続対策を考えてみると…

教育資金一括贈与を実行したこともあり、鈴木さんは相続対策に興味を持つようになりました。それほど財産が多い方ではないけれど、それでも相続対策は必要だと周りからも言われます。金額の多寡は問題ではなく、どんな人にも相続対策は必要とのことでした。

鈴木さんが相続対策を調べてみると、ポイントは3つありました。

1.もめない対策
2.納税資金対策
3.節税対策

それぞれを自身に当てはめて考えると、次のようになりました。

1.もめない対策

遺産で家族がもめてしまうリスクへの対応。いわゆる二次相続(例えば父が先に他界し、母がその後に他界した場合など)で子ども同士がもめてしまうケースが一般的には多いが、わが家は妻と息子1人の家庭だから、もめることは想定しづらい。問題ないと判断できそうだ。

2.納税資金対策

相続税負担がある場合、財産を相続した人がわざわざ相続税の納税資金を用意しているケースはまずないとのこと。確かに親の財産をもらった息子が、自分のお金で相続税を払うなんてことは想定しづらい。わが家の相続税はいくらかかるのか、確かめないといけない。

3.節税対策

相続税がかかるなら、少しでも税金を減らしたいとは誰でも思うもの。さまざまな方法があるらしいが、今回の教育資金一括贈与はまさにこれに該当するので、個人的には大満足だ。

おおむね、相続に関してわが家に問題はないと鈴木さんは思いました。ところが、実際に相続税がいくらかかるのかを調べてみると、驚きの事実が発覚したのです。

鈴木さんには、教育資金一括贈与をする前には4500万円の預金がありました。これを基にインターネット情報を見ながら計算してみることにしたところ、相続税には基礎控除と呼ばれる非課税の枠があることを知ります。

基礎控除=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

鈴木さんが先に亡くなることを想定すると、鈴木さんの相続人は妻と息子の2人です。つまり、基礎控除は4200万円(3000万円+600万円×2人)になります。相続税を計算すると以下のようになりました。

4500万円-4200万円=300万円
300万円÷2=150万円
150万円×10%=15万円
15万円×2人=30万円

鈴木さんの場合、納めるべき相続税は合計で30万円になりました。「えっ、たった30万円?」と、鈴木さんは思わず拍子抜けしてしまいました。

さらに、鈴木さんは預金のうち1500万円を教育資金一括贈与しているため、実際の財産は3000万円です。すると、そもそも相続税はかからないことが分かりました。

結果として教育資金一括贈与をしたことが節税対策にはなりましたが、鈴木さんは何だかモヤモヤと得心のいかぬ思いがしました。

相続税が30万円しかかからないのであれば、十分に払うことができる金額であったし、仮に基礎控除を引いた課税分の300万円を生活費として使ってしまえば、そもそも相続税はかからなかった。それにインターネット情報を見る限り、配偶者が相続した場合は少なくとも1億6千万円までは非課税になるとのこと。預金全額を妻が相続していたら、これまた相続税はかからなかった――。

鈴木さんは、どうやら自分は何も知らないまま性急に事を進めてしまったのだと気付いたのです。

何より心配なのは、夫婦の老後資金が足りるかどうか

鈴木さんは、初孫の喜ぶ顔が見たい、相続税対策になる、との理由で、よく調べもせずに教育資金一括贈与に飛びついてしまったことを深く悔やみました。そして、改めて現状を冷静に把握してみることにしました。その結果、

・専業主婦の妻にはほとんど財産はない。
・預金残高は3000万円。
・年金はもらえるが、生活費を賄うほどではない。収支からすると毎月赤字。
・何歳まで生きることになるか、全く想像がつかない。
・仮に老人ホームに入るとなれば、いくら必要か。

など、ポジティブな要素は何一つないことが分かりました。

鈴木さんは熟慮の末、教育資金一括贈与の契約をいったん破棄し、生活の状況を見て余裕が出てきたタイミングで暦年贈与(※)を考えてみよう、という結論を出します。

※暦年贈与:贈与方法の1つで、贈与額が年間110万円以下なら贈与税がかからない。

早速、契約した金融機関に問い合わせると、次のような回答がありました。

「仮に法定代理人である息子さん夫婦の合意があったとしても、契約を終了すること、つまり途中解約はできません。贈与した資金を鈴木さまに戻すことはできないのです」

鈴木さんは愕然としてしまいました。息子夫婦は、贈与した1500万円までは教育資金の負担がないのだから、その分、余裕のある資金を戻してもらうようお願いすることも考えられます。しかし、息子夫婦には何の落ち度もありません。悪いのは全て自分――。鈴木さんはそう思うほかなかったのです。

*** 

正しい知識を持っていなかったために起きてしまった今回の失敗事例。こんなことにならないよう、相続・贈与をする際には、あらかじめ十分に調べてから対処するようにしましょう。

●相続争いで妹が「ありえない」要求!? 家族崩壊へ… 詳しくは【「親でもないくせに!」母の死で非行に走った妹…連れてきた結婚相手の正体に愕然】(本サイト記事)で紹介します。

木下 勇人/税理士法人レディング 代表税理士

愛知県津島市出身。監査法人トーマツ・税理士法人トーマツにて非上場会社オーナーファミリーの事業承継対策に従事。2009年、名古屋で相続専門税理士法人を設立し、富裕層に対する不動産・財産コンサルティング、オーナー社長への事業承継コンサルティングを中心に業務を展開。税理士の枠を超えたコンサルティングには定評がある。2017年9月に東京事務所、2021年6月につくば事務所開設。税理士向け研修講師を年間100回以上精力的に対応。東京税理士会 麹町支部所属。

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