「あんなに仲良しだったのに⁉」相続争いに陥る家族の“意外な共通点”とは
Finasee / 2023年3月3日 11時0分
Finasee(フィナシー)
前回(いきなり「財産いくら?」はNG…親とモメずに財産の話をするための4カ条)、家族の財産を守り継承していく40~60歳代のミドル世代が、親に財産の情報開示を求めるときの工夫について解説しました。
今回は親の遺言について解説をしたいと思います。遺言を作成した方がよいのはどのような場合か。もし遺言を作成するなら、どう進めていくか。なかなか難しい親子でのコミュニケーションのきっかけづくりについても解説していきます。
遺言がないと何が問題?遺言の必要性を語る前に、まずは民法とあわせて相続の定義を振り返ります。
相続とは被相続人の死亡によって開始するものです(民法882条)。被相続人(亡くなった方)の配偶者は常に相続人になり(民法890条)、子がいれば子も相続人になります(民法887条)。
相続人になれば、相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。その承継には、被相続人の一身に専属したもの(※)を除き、金融資産や不動産などの「プラスの相続財産」と一緒に、借金などの「マイナスの相続財産」も含まれます。特に借金は、相続開始と同時に法定相続分に従って各相続人に承継されるため、要注意です。
※被相続人である本人でなければ成立しない、もしくは認められるべきでない権利や義務などのこと
相続人が複数いる場合、プラスの相続財産は相続人の共有になります(民法898条)。そして、被相続人は遺言で共同相続人の相続分を定めることが可能です(民法902条)。
共有となったプラスの相続財産は、相続人同士が話し合って分け方を決めてなければなりません。この手続きを「遺産分割」と言います。相続人同士の意見が一致しないと遺産分割が決まらないため、財産は共有のままとなり、財産の処分ができません。
上記をふまえると、親が亡くなったときに遺言がないことの問題は、プラスの相続財産が共有になり、そこに不便さが生じることだと筆者は感じています。
特に遺言が必要な家族とは…遺言がなかったために、「遺産分割に時間がかかった」という困った人の話をほうぼうで聞くものの、現状では遺言を作成している方はまだ少数です。
原因として、親は「子同士で揉めてほしくない」と願うあまり、「うちは揉めることもないから遺言は必要ない」と考えてしまう方が多いからではないか、と筆者は考えています。
たしかに揉めない家族の割合のほうが多いかもしれませんが、財産の状況によっては煩わしい手続きが必要になることもあります。次に紹介する具体例にあてはまる家族は、遺言を作成しておいたほうがよいでしょう。
なお、具体例は血縁関係が複雑ではない家族を想定していますが、血縁関係が複雑な家族は、より遺言が必要性が増すと思われます。
片方の親の判断能力が著しく低下している場合まず、両親のどちらかの判断能力が著しく低下している場合、判断能力のある方の親は遺言作成が必須です。
仮に、判断能力のある親が先に亡くなり、著しく判断能力の低下した親が相続人になれば、その状況では遺産分割の手続きができず、「法定後見制度の利用」という手間が必要になるからです。
子が複数いる場合相続人の子が複数いる場合、遺産分割が必要となります。親が「うちの子たちは揉めないだろう」と思っていても、相続したい財産について子同士の意見の折り合いがつかないことはよく起こります。
といっても、この場合は子同士というより、むしろ「子の配偶者」の意見との折り合いがつかないという方が正しいかもしれません。本来なら、子の配偶者は被相続人の養子でなければ相続人にあたらないため、相続には直接が関係ないはずです。
しかし、子の配偶者の意見に子が影響され、遺産分割を難航させるケースは往々にして存在します。そのため、財産が親のものであるうちに、誰に、何を、どのくらい相続するのか、遺言で指定することが重要です。
分割が難しい資産の割合が多い場合「不動産を共有で相続した」という話は珍しくありませんが、実は不動産は分割が難しい資産の代表例です。こうしたケースの難しさは、相続人のうちの1人が「共有で相続した不動産を処分したい」と思っても、他の相続人の同意が得られなければ、処分ができないところにあります。
相続人同士の考えが違えば、当然意見の調整にも時間がかかるもの。ですから、不動産のように分割の難しい資産は、できる限り共有相続としないことを目指すべきです。
遺言がなければ、特定の相続人が単独で相続するという遺産分割にはなりづらいので、親が元気なうちに、不動産の行く末を考え、遺言を作成しておくとよいでしょう。
自宅が財産の内訳の多くを占める場合相続財産の割合を自宅が多くを占める場合には、自宅をめぐって遺産分割の調整に時間を要することがあります。昨今では、空き家(※)の増加も問題となっていますから、親が元気なうちに、自宅をどうするか話し合っておかなければなりません。
親子でしっかりと話し合いができたら、それをふまえて、親が自宅の引継ぎまたは処分の方法を遺言で指定できるとよいでしょう。
※1年以上住んでいない、または使われていない家
その他の場合他に遺言作成が必須であると考えられるケースは、子同士の仲が良くない場合、特定の子が事業(会社や賃貸事業)の後継者で多くの財産を相続する必要がある場合、特定の子に障がいがある場合、特定の子がすでに著しく判断能力を低下させている場合、などが挙げられます。
具体例をきっかけに親子で話し合いを!本稿では、遺言を作成しておいた方がよいケースをいくつか例示しました。
例に該当する人、または気になる財産がある人は、親に「相続のことで兄弟姉妹と揉めたり、煩わしい手続きをしたりしたくないから」と素直に遺言の作成をお願いしてみましょう。
また、いきなり遺言のことを話題に出しづらいようなら、知人が相続問題で困った例や、本稿で扱われた具体例を話のきっかけにしてみるのはいかがでしょうか。人は身近で起きたリアルな話や、相続をめぐる争いといった生々しい話を聞くほど、遺言の必要性を強く感じるものです。
折をみて、そのような具体的な事例をもとにして、親子で相続のことを話す機会を意識的につくっていただきたいと思います。
石脇 俊司/継志舎 代表取締役
日本証券アナリスト協会検定会員・CFP・宅地建物取引士。外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、株式会社継志舎を2016年に設立。 金融機関での経験を活かし、企業オーナーや資産家の資産承継対策の家族信託組成とその後のサポートに取り組む。 不動産会社、生命保険会社、証券会社へ相続・事業承継に関する業務推進のコンサルティング業務も行っている。 家族信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム『信託の羅針盤トラコム(r)』の開発責任者。 著書に『中小企業オーナー・地主が 信託を活用するための基本と応用』(大蔵財務協会)、『税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の実務』(税務経理協 会)、『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』(日本法令)などがある。
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