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S&P500への投資こそ「最強」で「万能」! 果たしてその神話は崩壊したのか

Finasee / 2023年2月10日 17時0分

S&P500への投資こそ「最強」で「万能」! 果たしてその神話は崩壊したのか

Finasee(フィナシー)

本連載ではたびたび、個人投資家の人気が急速に高まっている米国株式ファンドについて取り上げてきた。2022年は最終的に、主として米国を投資対象地域とする株式ファンドに3兆円近い資金が流入し、このうち約7割にあたる1.8兆円がインデックス連動型であった。

グローバル株式インデックスファンドの存在感が増した2022年

個別銘柄では、「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」(三菱UFJ国際投信)の年間純流入額が7000億円を超え、国内公募投資信託で「最も売れたファンド」に輝いた。ETFを除く追加型株式投信全体の年間の純流入額は約8.5兆円だったので、米国株式インデックス型だけで、全体の約2割を占めていたことになる。「全世界株式」や「先進国株式」など、米国を含むグローバル株式インデックス型(約1.4兆円)も含めると、実に純流入額の4割近くが、米国を含むグローバル株式インデックス型であったということになる。

S&P500インデックス型の大ヒットの背景については、過去の本連載(インデックスファンドが初の「1兆円」超え! S&P500が人気の真相に迫る)でも言及したが、なんだかんだ言ってマーケットの影響が最も大きかったように思う。株式市場全体が右肩上がりの上昇を続ける中、すでにファンドを保有している人は「もっと上がるはず」と、欲が出てどんどん追加投資をする。一方、これから始めようとのんびり構えていた人も、うかうかしていられないと焦って投資をする……こうした一連の動きが、結果として、2022年の国内投信市場の資金動向に表れたのであろう。

割高な銘柄も組み入れざるを得ない指数の「弱点」

さて、そのS&P500指数だが、2022年は現地通貨ベースで約20%のマイナスと、特に年後半にかけて苦戦を強いられた。日本の投資家は円安効果に助けられたため、6%程度のマイナス幅で済んだのだが、ともあれ一時期SNSを賑わせていた、S&P500とインデックス投資を「最強」で「万能」と神格化するような向きは多少落ち着いたようで、筆者は安堵している。長期資産形成を実践する上で、特定の資産に対する極端に強い思い入れは、冷静な投資判断を妨げるためだ。

「株価指数」と聞くと、「その市場を代表する優良企業」が束ねられているという印象を受けるが、実は2022年は、時価総額加重平均型株価指数であるS&P500指数の「弱点」が分かりやすく露呈した年であった。

時価総額とは株式の規模を表す用語で、「株価×発行済み株式数」で求められる。時価総額加重平均型のインデックスファンドでは、自動的に「時価総額が大きい銘柄」を中心に組み入れることになる。「時価総額が大きい銘柄」の中には、残念ながら、実力以上に過大評価され、割高な株価になっているものも含まれるが、指数への連動を目指す以上、必ずしも優良とは言えない銘柄にも投資をしなくてはいけない。これは、指数の採用銘柄が時価総額を基準に決められている限り、解消されない欠点である。

2022年のS&P500指数の下落は「テスラ株」も一因に

この欠点がリスクとして顕在化した分かりやすい例が、2021年のテスラ株の組み入れだ。テスラ社は、言わずと知れた米国の電気自動車大手で、昨年はツイッター社の買収を巡るイーロン・マスクCEOの言動がたびたび注目された。

テスラ社がS&P500指数に採用されたのは、2021年12月21日。当時、同社の株価はすでに割高な水準にあると各方面から指摘されていたが、時価総額で見たときの存在感の大きさゆえ、指数のルール上、もはや採用せざるを得ない状態であった。

採用後、テスラ社の株価は多少の調整がありながらも上昇したが、2021年11月をピークに、2022年は下落基調が続いた。結果、時価総額は一時、指数採用前の2020年の水準(株式分割考慮後)まで一気に逆戻りしてしまった。

このテスラの例から分かるのは、インデックス運用では、株価が割高な水準であると分かっていても採用が決定したら組み入れなくてはならず、短期的には、企業価値と必ずしも一致しない株価動向に振り回されてしまうケースがあるということだ。

なお、ニューヨーク・ダウ30種平均指数でも2015年3月に、当時すでに時価総額が世界最大だったアップル社を採用し、物議を醸したという経緯がある。同指数は株価(単純)平均型で、複合的な要素を考慮に入れて銘柄の採用を決定するため、S&P500指数とは少し背景にある事情が異なるのだが、割高な銘柄を組み入れざるを得なかったという事実は共通している。

話をテスラとS&P500指数に戻すと、長い目で見れば約7割下落した2022年の株価の動きなど、大したことではなかったと言える日がくるかもしれない。あるいは、合併や統合など、全く別の理由でテスラ社がS&P500から除外されることも、それはそれでありそうだ。

インデックス運用において、株価が極端に下落した企業はいずれ淘汰される。これこそが株式市場、とりわけ米国の株式市場に働く自浄作用であり、インデックスが長期投資に適している理由である。

しかし、事実上の「戦力外通告」を受け、指数から除外される寸前までは、指数全体の足を引っ張り続ける。また、今回例として挙げたテスラのように、インデックスに課せられたルールゆえ、不合理な投資行動を強いられることもあり、結果として、短期的に大きな値動きに見舞われる可能性もある。

インデックスファンドの使い勝手のよさを疑う余地はないが、「万能」であるかと言うとそれは違う。こうした弱点についても、冷静に把握しておくことが重要だ。

篠田 尚子/楽天証券経済研究所 ファンドアナリスト

慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【最新版】本当にお金が増える投資信託は、この10本です。』(SBクリエイティブ)。

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