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米国在住FPが指摘! 話題の「新NISA」 “便利さ”の裏に潜む「懸念点」

Finasee / 2023年2月20日 18時0分

米国在住FPが指摘! 話題の「新NISA」 “便利さ”の裏に潜む「懸念点」

Finasee(フィナシー)

日本より数十年先を行くアメリカでさえ、資産形成の浸透には格差が

日本では、2024年よりNISA制度が新しくなるとお聞きしました。NISAの制度が恒久化し、積み立ての年間枠が拡大するとのこと。老後資金などを目的にした長期投資には、安定的に長期間頼りにできる制度でまとまった額を運用できることが大前提だと思います。その意味で、みなさんの期待も高まっていることでしょう。

NISAという制度や積み立て額が確保されることは喜ばしいことだと思いますが、こういった「枠組み」を整備するだけにとどまらず、一歩踏み込んだ後押しも必要になるのかもしれません。

というのも、ここアメリカでは401(k)※1やIRA※2が導入されて40年以上たっていますが、それがアメリカに暮らす人すべてに浸透して老後資金準備が着々と進んでいるかというと、実はそうでもないからです。

※1 401(k)は雇用主が提供する確定拠出プランで、1978年に始まった。日本の企業型DCにおおむね相当。
※2 IRAとは、Individual Retirement Account/個人退職勘定。401(k)がない人のため、また401(k)があってももっと積み立てたい人のために、雇用とは切り離したかたちで利用できる、日本のNISAに近い制度。タイプA、Bの2種類があり、タイプAは1974年、タイプBは1998年に始まった。

国民の老後資金準備が問題になっているのは、ここアメリカでも同じことです。GoBankingRatesというサイトが、老後資金の必要自己準備額を計算しています。アメリカ50州のうちで最も低コストのミシシッピ州で$505,000程度(6500万円弱)、最も高コストのハワイ州で$1.8ミリオン程度(2億3000万円程度)としています。このような額を準備するには、30年、40年という長期投資での運用が不可欠です。ところが、フィデリティ社の最近の調べでは、アメリカに住む人の半数以上が、老後資金の“準備度”において不安を抱えるレベルであると発表しています。

アメリカでは老後資金づくりを“強く”後押しする法律が誕生

根深いこの問題に取り組むために、2019年にThe Setting Every Community Up for Retirement Enhancement (SECURE) 法という法律ができました。Every Community、つまりアメリカの潤っている層からそうでない層まですべてのコミュニティに置いて、リタイヤメント資金づくりを促進し、よりSECURE(たしかな)将来をつくることを後押しする法律です。今回、2022年12月には、この法律をさらにアップグレードするためにSECURE 2.0という法律が追加されました。

アメリカには、職場の確定拠出制度である401(k)や個人リタイヤメント口座IRAなどが整備されていますが、それがEvery Community=すべての人々に浸透しているかというと、実は大きな格差が存在しています。枠組みが与えられると、それを調べて学び最大限に活用する人々もいれば、枠組みがあっても全く使わないで終わってしまう人々もいます。

今回のSECURE2.0では、そのような「枠があっても使っていない人」を取り込む施策も盛り込まれています。401(k)の「自動参加」をルール化するものです。一定の小企業を除きすべての企業は、401(k)に雇用者を自動参加させ、給与の3~10%を自動積み立てさせなくてはならなくなります(オプションではなく絶対に!)。もちろん本人がオプトアウトして参加を拒否することはできますが、それがない限り、企業は必ず401(k)に自動参加・自動積み立てをする必要があるのです。

またマッチアップ強化も盛り込まれています。401(k)ではマッチアップ制度といって、本人が積み立てをすると、それに応じて会社がマッチアップでいくらかを積み立ててくれる制度が浸透しています。これは労働者にとってはまさにフリーマネー(ただでもらえるお金)なので利用しない手はないのですが、これさえも利用をしていないグループが残っています。

それはどのような人かというと、老後への意識が低く401(k)に参加しようと思わないような若者や、給料が低かったりスチューデントローン返済があるので401(k)に積み立てる余裕のない人々です。

今回の法改正では、たとえ401(k)に積み立てを行わなくても、本人がスチューデントローンを返済していれば、それをベースに会社がマッチアップ拠出をできるようになります。さらには、パートタイム労働者が401(k)に参加しやすいように法改正もなされるので、限られた時間しか働けない人でも老後資金準備ができるようになります。

これで、意識の低い層や、積み立てが難しかった層にも、老後資金準備が少しずつ浸透していくのではないかと期待できます。日本でも「整備しておしまい」ではなく、このような後押しが必要になるかもしれませんね。

アメリカから見ると、日本の金融所得課税にびっくり!?

新NISAの導入とあいまって、金融所得税の増税のうわさもささやかれていると聞きました。少々びっくりするとともに面白いと思いました。

まあ、金融所得税を上げてもiDecoやNISAには関係がありませんから、もしかしたらかえってそれらの利用を促進する結果になるかもしれません。iDecoやNISAの利用以上にまだまだお金がある人が、普通の証券口座で投資をするのでしょうから、そうした人々により多くの税金を担ってもらうという狙いなのかなとは思いました。

とはいえ、日本の金融所得税(現在一律20.315%)は大変に高いと思います。しかも誰でも一律というのも公平なようでいて、不公平でもあり得るようにも思います。庶民がコツコツと銀行預金をして、そのなけなしの利子にもこの一律の税がかかるとは驚きでもあります。

アメリカでは、金融所得がいろいろなカテゴリーに分けられていて、その人の所得税と同じ率でかかるものから、もっと有利な税率で課税されるものまであります。

銀行利子は所得税で課税なので、所得の低い人は低く課税されます。売却益に対するキャピタルゲイン税も累進課税で、所得が多くなるにつれ高い税率で課税されるしくみです。一番高い税率で20%、一番低い税率は0%、つまり非課税です。夫婦で1,000万円相当の所得があっても0%=非課税になります。夫婦で所得7,000万相当以上ならば15%、それ以上になると20%で、これが最高のパーセンテージです。

配当金もある一定の条件を満たせば、キャピタルゲイン税と同じ税率です。富裕層であると所得税は最高37%までの税率ですが、キャピタルゲイン税は最高で20%と優遇されているのも、アメリカでは投資がさかんな理由だと思います。

「投資のお金で日本経済を活気づける」は正しいのか

新NISAの関連記事を読んでいてもう1つびっくりしたのは、現行の一般NISAの買付額のうち日本の上場株式が7兆円を占めていて、「日本経済の成長資金の供給をしている」と捉えられていることです。同時に、つみたてNISAでは海外株式型の投資信託への投資額が大幅に膨らんでいて、今後新NISAが導入されると、「投資資金が海外に流出するおそれがあると危惧する意見もある」とのことでした。

これはなんというか、日本ならではの考え方なのかなと思いました。そもそもNISAのような長期投資を広く国民一般に進めるにおいては、インデックス投資などの高リスク分散・パッシブ投資が最初の選択肢になるかと思います。

そして、インデックス投資で高分散を狙うのならば、「世界分散」を考えるのが王道です。世界の株式時価総額における日本のそれは6%以下であることを考えれば、日本に偏ってばかりの投資はその基本からは逸れています。

どの国でも自国の株に傾倒する傾向(ホームバイアスと呼ぶ※3)はあります。アメリカでもS&P500ファンドなどに集中している方はおられますが、そんな場合は、アメリカ以外の外国株式の重要性を説明し、アメリカ株式と外国株式はその時価総額に応じて60%:40%で組み合わせ、世界の市場にまんべんなく投資する方法をお勧めしています。

※3 ホームバイアスのさらなる詳細は、過去記事『世界経済成長の果実を取り逃す!? 投資における「ホームバイアス」とは』ご参照。

株式投資はリスク分散が基本です。その意味で、例えばアメリカの大企業に働いている人などが自社株をたくさん持つことはできるだけ避けるべきというのが基本ルールです。会社が傾けば、仕事を失うとともに投資資産も失うからです。

それと同じ考え方で、日本に暮らしながら日本株に傾倒するのは好ましくないリスク集中で、老後資金準備には避けた方が良いと思います。

日本の国民の老後資金の準備と日本企業への投資促進とは、2つの別の課題として捉えたほうがよいのではないでしょうか。つまり、国民の老後資金は、全世界への株式市場へのリスク分散をベースに長期的に増やしていく、一方で日本企業への投資は日本国民に限らず全世界の投資家から投資をしてもらえるよう頑張る、という2つの考え方をする、ということです。

新NISAの「枠が再利用できる」便利さに潜む懸念点

さらに新NISAに対するもう1つの危惧は、生涯最大投資額の設定と相まって、貯めてきた資産をいったん引き出せば(例えば住宅取得資金が考えられます)、その枠が再度利用できるという便利さです。

もちろんこの便利さは喜ばしいことかもしれませんが、このあたりも金融リテラシーでの教育課題でしょう。いったん引き出せば長期投資が“リセット”されてしまうという意味で、できる限り老後資金は手をつけずに運用するのがベストです。アメリカのIRAも住宅取得や子ども教育などに引き出すことができる特例がありますが、できる限りこれは行わないことをお勧めしています。その代わり、住宅や教育資金は別途それぞれの目的に、それぞれの利用時期に合わせた短中期的運用法をお勧めしています。

もしかしたら、新NISAの中で短中期的運用部分と長期的運用部分で分けて運用する必要もあるかもしれません。それぞれにとれるリスク、持つべきファンドなども変わってくると思います。

この枠の再利用とあいまって、新NISA内の「成長投資枠」での個別株投資や、数年スパンで利益確定をして積極的に再投資する手法について言及している記事も読みましたが、ともするとこれらは長期投資というよりは短期的・投機的なものになりえる危険性をはらんでいます。

枠組みが与えられたら、それを自分のニーズに照らし合わせてどう使うか。この判断ができるよう投資やファイナンシャルプラニングについての、地に足の着いた教育が必要だと思いました。

岩崎 淳子/ファイナンシャルプランナー

「Smart & Responsible」代表。 マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。日本と全く異なるアメリカのシステムに戸惑った経験をベースに、個人向けファイナンシャルプラニングの情報提供サイトを立ち上げる。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。

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