共働きだと「遺族年金」はもらえない? 老齢年金と“調整”される仕組みとは
Finasee / 2023年3月7日 11時0分
Finasee(フィナシー)
遺された家族の生活を保障するための遺族年金。受給する人に“妻(夫を亡くした女性)”が多いということは前回(受給者の98.1%は女性という実態…受給要件が男女で異なる「遺族年金」のルール)取り上げたとおりです。
しかし、この遺族年金に関して「妻も働いている場合(つまり、共働きだった場合)遺族年金はもらえない」と聞いたことがあるかもしれません。
そのうわさは果たして本当なのでしょうか。今回は、夫に先立たれた妻が、いざ遺族年金を受給する際の「受給額」について深掘りします。
収入があっても遺族年金は受けられる?そもそもの確認とはなりますが、亡くなった人に死亡当時、生計を維持されていた遺族が遺族年金の対象となります。生計維持とはどういう要件かというと、①生計同一要件と②収入要件を指します。
①は亡くなった人と遺族が同一住所か、あるいは住所が別でも亡くなった人から遺族へ生前経済的援助や音信があったことを指します。
②は遺族の収入が基準額を満たしているかの要件です。前年(前年分が確定していない場合は前々年)の収入が850万円未満または所得が655万5000円未満であればこの要件を満たせます。また、前年(あるいは前々年)に、この基準額以上の収入と所得だったとしても、おおむね5年以内にいずれかが基準額未満に下がる見込みであれば収入要件を満たす、とされています。
つまり、遺族が働いていたとしても、その収入が“それほど多くなければ”遺族年金の受給対象となります。
ここまでは、遺族基礎年金、遺族厚生年金共通の話ですが、前回お伝えした通り、実際に遺族年金を受給するのは、高齢期の妻が大半です。
それはすなわち、「公的年金のみが収入という暮らしをしている妻が、遺族厚生年金を受け取る」ケースが現実には大半を占めることでもあります(遺族基礎年金は子が高校生以下であることが条件なので、割合的には多くないのが実情です)。
65歳以降の遺族厚生年金は差額支給この「公的年金のみが収入という暮らしをしている妻が、遺族厚生年金を受け取る」ケースは、“①生計同一要件と②収入要件を満たし、遺族厚生年金を受給できる”ことは確かなのですが、満額を受給できるかどうかについては、また別の話。
特に、妻自身に会社員等として働いた期間が長くあり、老齢厚生年金を受給できるケースでは注意が必要です。
今後こうしたご夫婦は増えるでしょうから、深掘りする必要があるでしょう。
例えば、夫に先立たれ、しかも自身も会社員だった期間がある妻を想定します。この方が65歳以降受給することができる年金は……
・老齢基礎年金
・老齢厚生年金
・遺族厚生年金
の3つとなります。
ただし、遺族厚生年金は妻自身の老齢厚生年金相当額を差し引いた額、差額分となります。妻が自分で厚生年金に加入して掛けた分の老齢厚生年金があることから、その分遺族厚生年金は調整(=減る、と理解いただいてかまいません)されることになります。
●65歳以降の遺族厚生年金の受給
上図の“本来の遺族厚生年金(夫の報酬比例部分の4分の3相当)”が100万円、妻の老齢厚生年金(上図内②)が20万円だとしたら、100万円から20万円を差し引いた80万円が実際に支給される遺族厚生年金(上図内③)となります。
もし、夫婦共働きで妻も厚生年金に長く加入し、妻の老齢厚生年金が多くなればなるほど、遺族厚生年金は調整(=減らされる)という仕組みです。
ここまでお読みになった方は、1つの疑問が浮かぶのではないでしょうか?
「妻自身の老齢厚生年金が差し引き前の遺族厚生年金より多くなると、遺族厚生年金は全く支給されなくなってしまうのだろうか?」と。
単純な差額支給ではない、第2の計算式もある!実は遺族厚生年金から老齢厚生年金相当額を単純に差し引くとは限りません。
先ほどの例のように、夫死亡による遺族厚生年金※1から妻自身の老齢厚生年金相当額を差し引いた額で計算する方法(Aとしましょう)とは別に、「遺族厚生年金の額※の3分の2」と「老齢厚生年金の2分の1」を合計した額から老齢厚生年金を差し引く方法(Bとしましょう)もあります※2。
※1 経過的寡婦加算が加算される場合は加算後の額。
※2 遺族が配偶者である場合にAあるいはBの計算方法で計算し、他の遺族(父母・祖父母)についてはAのみとなります。
Bで計算すると、単純に遺族厚生年金から老齢厚生年金相当額を差し引くAよりも実際の支給額が多くなったり、Aで計算すると支給されないと思ったところ、Bで計算することによって支給されることがあったりします。
1つ計算例をお示しします。
夫死亡による遺族厚生年金が105万円、妻自身の老齢厚生年金が110万円だったとします。Aの計算方法だと、105万円-110万円で、妻の老齢厚生年金が遺族厚生年金を超えることから実際の差額支給分は「0円」となってしまいます。
●Bの計算方法による遺族厚生年金
しかし、Bの計算方法を用いると、125万円(105万円×2/3+110万円×1/2)を差し引く前の遺族厚生年金としたうえで、その125万円から妻の老齢厚生年金110万円を差し引きます。すると15万円となります。Aの計算方法では全く支給されない計算となっても、Bの計算方法による額で少しは支給されることになり、その結果、実際の遺族厚生年金としては15万円支給されることになります。
妻の老齢厚生年金が夫死亡による遺族厚生年金に近い場合、つまり夫だけでなく妻も厚生年金加入が長く老齢厚生年金が多い場合、Bの計算式を用いることにもなります。Bの計算方法で計算しても差額支給分がないくらい妻の老齢厚生年金が高い場合、遺族厚生年金は支給されません。
遺族年金が支給されそうか、見込額はいくらか試算してもらえる共働きといっても、残念ながら男女に賃金格差があります。夫婦とも厚生年金に加入し、夫より妻が長い期間厚生年金を掛けていたとしても妻の在職中の賃金が低く、結果、妻の老齢厚生年金があまり多くないケースもあります。
しかし裏を返せば、夫が死亡した際に、遺族厚生年金から差し引く妻の老齢厚生年金も多くないため、差額支給で遺族厚生年金が支給されることもあるでしょう。
つまり、冒頭の「共働きだと遺族年金は支給されない」については、夫および妻、それぞれの賃金と働いた期間次第であり、老齢厚生年金との差額をもらえるケースもあれば、時には全くもらえないケースもありえる、が結論になります。
少々歯切れの悪い結論となりましたが、厚生年金の世界は「報酬比例(大まかに言えば、現役時代の給与が計算のベースになるということです)」のため、こうならざるを得ないのです。
その計算方法も複雑であることから、おおよその遺族年金がどれくらいの額になるかを知りたいのであれば年金事務所で見込額を試算してもらうとよいでしょう。これまで述べたように、夫婦のそれぞれの年金記録が関係しているため、夫婦でそろって年金事務所に相談しに行くのがベストです。
井内 義典/ファイナンシャルプランナー
よこはまライフプランニング代表取締役、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP®認定者、特定社会保険労務士、日本年金学会会員。専門分野は公的年金で、3000件を超える年金相談業務を経験。さらに、年金事務担当者・FP向けの教育研修、ウェブメディアや専門誌への記事執筆も行っている。横浜市を中心に首都圏で活動中。
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