国産米が販売禁止に? 収穫量が激減…政府の厳格方針に農家は困惑【3月7日はどんな日?】
Finasee / 2023年3月7日 7時0分
Finasee(フィナシー)
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多くの食品を海外産に頼る日本でも、米は特別な存在です。自給率はほぼ100%を達成しており、近年は日本食ブームなどから海外輸出も増加しています。
しかし、そんな米も危機的な状況に追い込まれた時期がありました。1994年の3月7日、当時の食糧庁は国産米の単品販売を禁止します。私たちの食卓に欠かせない米に何が起こったのでしょうか。
「平成の米騒動」でお米が買えなくなる国産米の販売が制限されたのは「平成の米騒動」が原因でした。1993年に記録的な冷夏が襲い、米の収穫量が大きく減少します。在庫もほぼ底をついたことから、日本は深刻な米不足に陥りました。
【水稲の収穫量(1989年~1993年)】
農林水産省「作物統計調査」より著者作成拡大画像表示
【東京の最高気温(1989~1993年)】
気象庁「観測開始からの毎月の値」より著者作成拡大画像表示
米の価格高騰を防ぐため、政府はタイなど海外産の米を緊急輸入しました。しかし、今でこそタイ米は浸透していますが、当時はなじみのない味が不評を買い、その多くが放棄されてしまいます。タイ国内では日本輸出に伴って米価格が高騰したこともあり、日本に対する感情が悪化することになりました。
1994年に米の収穫が回復したことを受け、平成の米騒動は終息します。また政府は将来の米不足に対応するため、備蓄制度を設けました。毎年21万トン程度を買い入れ、政府が100万トン程度の備蓄米を保有しておく仕組みです。なお、5年持ち越しとなった備蓄米は飼料用などに売却されることになっています。
交付金の厳格化で畑地化を図る農林水産省米の収穫量は年々減少傾向にあり、最近は平成の米騒動となった1993年をも下回っています。しかし、当時と異なり米不足を懸念する声はほとんど聞かれません。それだけ米に対する需要が低下した証といえるでしょう。米の需要が低下した背景には、食が多様化し米以外の主食が浸透したこと、少子高齢化が進み消費量が低下したことなどがよく指摘されます。
【水稲の収穫量(2000年~2021年)】
農林水産省「作物統計調査」より著者作成拡大画像表示
農林水産省は、需要が低下する主食用の米以外の作物を作ってもらうよう、さまざまな支援を用意してきました。代表的なものが「水田活用の直接支払交付金」で、例えば水田を活用し麦などに転作した農家には10アールあたり3.5万円を支給します。
【水田活用の直接支払交付金(戦略作物助成)の概要(2022年度)】
※1.WCS=ホールクロップサイレージ。フィルムでロール状に包み発酵させた飼料
なお、上記交付金は2022年度に制度が厳格化され、2026年度までに1度も水を張らない水田は2027年度から支給されないこととなりました。水分を嫌う作物へ転作していた農家は、水田に戻すか畑地化するか選択を迫られることとなったのです。
農林水産省は「畑地化促進助成」を実施し、農家の畑地化を支援する姿勢を見せています。しかし畑地化すると水田活用の直接支払交付金の対象外となるため、農家には難しい判断となりそうです。
【畑地化促進助成の概要(2022年度補正予算)】
※1.加工・業務用野菜などは3万円
※2.加工・業務用野菜などは15万円
米を巡っては、近年はコメ先物が廃止されたことが話題を集めました。
先物取引は、将来の受け渡しを約束し、現時点で取引を成立させる取引のことです。農家がコメ先物を活用すれば米が値崩れするリスクを投資家に転嫁できるため、保険のような使い方が期待されていました。
国内では堂島商品取引所がコメ先物を取り扱っていましたが、上場は試験的なもので、本上場には農林水産省の認可が必要でした。しかし、農林水産省は取引参加者が増えていないことなどを理由に本上場を認めず、江戸時代から続いたコメ先物は2022年6月に国内から姿を消します。
取引参加者が増えなかった理由として、「米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)」があると考えられます。米などを育てる農家の収入が一定以下に減少した場合に、その補填を行う制度です。つまり、農家には既に保険的な仕組みが整備されており、コメ先物に対するニーズが高まらなかったのでしょう。
また米の流通の大半を握る農協が取引に参加しなかったことも、コメ先物が広がらなかった原因の1つでした。その理由として、農協が米価格を支配できなくなることを懸念したことがよく指摘されています。コメ先物の価格は投資家同士で決められるため、農協は関与できません。それが現物の米にも影響すれば、農協は価格を調整できなくなるでしょう。
いずれにせよ、コメ先物を扱う国内取引所はなくなりました。しかし、コメ先物の仕組み自体は合理的で、農家にとってメリットもあります。今後は、米に対する支援が縮小されるか、あるいは農協の米に対する支配が弱まれば、また復活することもあるかもしれません。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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