「販売から助言へ」、華麗なる転身はなるか――北國銀行の挑戦
Finasee / 2023年2月17日 19時0分
Finasee(フィナシー)
「顧客の立場に立ったアドバイザー」(中立的アドバイザー)を巡る官邸と金融庁のやり取りを尻目に、北國銀行が資産運用分野での助言ビジネスを強化している。2021年5月に資産形成・資産運用の助言会社、FDアドバイザリー(FDA)を立ち上げたのを皮切りに、2022年11月には同行で扱う投資信託をアクティブファンドも含めて全てノーロードとし、資産運用ビジネスの主な収益源を販売手数料から助言フィーに切り替えている。今後は助言で得られるフィーを積み上げて収益の拡大を目指す考えだ。
金融機関のグループであるFDAが国などから中立的アドバイザーとして認められるかは不透明だ。だが、同社はすでに投資助言・代理業の免許を取得しており、仮に認定されなくても個別銘柄を示した提案が可能で、FPなどよりも踏み込んだ助言が可能だ。職域や学校での投資啓発や金融教育を見据え、「新たなアドバイザーの資格を取れるに越したことはない」としつつも、資格の認定条件の決着を待たず、「販売から助言へ」の転換を進めるという。
中立的アドバイザーにおける金融グループ会社の扱いは玉虫色新たなNISAなどを通じた「貯蓄から投資へ」の推進役として期待される中立的アドバイザーだが、その議論は中途半端なかたちで休止した。金融庁が主催する「顧客本位タスクフォース」は2022年12月に中間報告を金融審議会に提出し、当面の議論を終えた。
そのため、現時点では同報告書を材料にこの問題を考えるしかない。ここには中立的アドバイザーの条件について家計管理や金融商品の知識などを有する他、①金融商品の販売を兼業していない、②顧客以外から報酬を受け取っていない――の2点が明記された。
これを読む限り、独立系のFPは当確だが、金融機関で投資信託などの販売に従事している者は除外、IFAも同様。他方、金融機関の従業員でも販売に携わっていない者やグループの別会社の社員の位置付けには解釈の余地がある。
これは「霞が関文学」の技法のひとつ「正確な曖昧さ」(選択肢Aは残っているが、Bは残っていない。Cは立場によって解釈が違う)に基づく書き方だ。こうした修辞を取るときは、ここまでの関係者の合意をいったんまとめるケースで、次のステージに移るまで肝心な点はボヤかしたままになる。
実際、国会が開かれて官邸が忙しくなってきたことに加え、カウンターパートの金融庁の市場企画局市場課も業態間の調整や金融教育などを担う金融経済教育推進機構(仮称)の設立に追われるため、2023年度予算が成立する3月末ごろまでは、中立的アドバイザーの議論は進展しないだろう。
インデックス投信でポート提案、販売手数料のモデルを放棄タスクフォースの中間報告書を眺めていても結論は見えてこない以上、永田町や霞が関の外で実績を積み上げ、関係者の合意の前提を動かすほうが生産的だ。現実問題としても中立的アドバイザーの認定のあるなしよりも、顧客に価値あるアドバイスを提供し、資産形成や資産運用の専門家として正当な対価を受け取ることのほうが重要である。真に顧客から信頼されるアドバイザーとの評価を勝ち取れば、「金融機関のグループ会社だから認められない」といった理屈も通りにくくなる。
北國銀行は2021年5月に助言会社のFDAを設立したのに続き、同年10月のグループの改組に伴い、この助言会社を銀行持ち株会社である北國フィナンシャルホールディングスの傘下に移行。資本関係で銀行本体と一線を画した。助言会社は金融商品の販売に携わらないので、中立的アドバイザー認定の最低限の条件はクリアした。
一方、販売業務を担う北國銀行は前述の通り全投信をノーロードとしており、顧客利益を損なうとして非難される手数料目当ての回転売買に陥る恐れがなくなった。さらに、2023年2月に低コストのインデックス投信の代表銘柄である「eMAXIS Slim」シリーズの全13本を採用。FDAが顧客と面談してマネープランを作ったうえで、北國銀行が扱う低コスト投信を活用してポートフォリオを組む体制を整える。
販売手数料を取らない代わりにアドバイスを有料とするので、ポートフォリオに組み入れる投信は低コストファンドとし、顧客の負担を増やさないための判断だろう。
助言の対価は残高基準を取らず、時間や内容に応じた体系に北國銀行グループの助言ビジネスはフィー体系も斬新だ。FDAが受け取る報酬は、助言に要する時間や助言内容に応じて決まる。具体的には、ライフプラン相談(90分)が1万6500円から、ファイナンシャルプランニング(資産運用の相談)が22万円、継続サポートが5万5000円から(いずれも税込み)といった具合だ。
投信販売など資産運用ビジネスの現状は、販売手数料に依存したビジネスからの脱却を目指し、大手証券会社などがすでに預り資産残高に応じたフィー体系を導入しているが、まだ根付いているとは言い難い。
一方、FDAが採用した体系は助言に要する時間などで対価が示されており、基本的に弁護士(法律相談での時間制)や医師(診療報酬での点数制)といったプロフェッショナルと同じ体系だ。助言ビジネスは資産を預かるのではなく、「専門的な知識や見解の提供」なので当然といえば当然だが、大手証券会社の残高フィーへの移行すら道半ばなのに比べ、「他に類を見ないほど先進的なかたち」(金融庁監督局)だ。
北國銀行グループが掲げているビジネスモデルは極めて意欲的だ。ただし、同グループが本拠を構える石川県で、有料の資産運用サービスを必要とする人をどれだけ見つけられるのかは、これからの課題だろう。「サービスは無料」と考える向きが少なくない中、FDAのフィー体系が受け入れられるかも未知数だ。
そこで注目すべきはこの助言会社の社名だ。「北國アドバイザリー」の方が自然に思われるが、実際はFDアドバイザリー。当局が提唱するFD(顧客本位の業務運営)にこだわったようにみえるが、同社設立の経緯を知る金融庁の幹部は、その背景を「石川にとどまらず、三大都市圏などで展開する狙いがある」と解説する。
その場合は北國単独ではなく、各地のFPや金融機関との連携も視野に入れているという。特に中立的アドバイザーに認定されるようなFPは、理念が一致する点が多いとみて期待を寄せている。北國銀行グループの助言ビジネスは始まったばかりだが、この取り組みが個人や金融業界の支持をどこまで集められるか、当局も注視している。
執筆/霞が関調査班・みさき 透
新聞や雑誌などで株式相場や金融機関、金融庁や財務省などの霞が関の官庁を取材。現在は資産運用ビジネスの調査・取材などを中心に活動。官と民との意思疎通、情報交換を促進する取り組みにも携わる。
Finasee編集部
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