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新NISAをめぐる金融機関の思惑。資産運用初心者は注意が必要

Finasee / 2023年2月22日 17時0分

新NISAをめぐる金融機関の思惑。資産運用初心者は注意が必要

Finasee(フィナシー)

つみたてNISAと一般NISAの買付額に10倍の差がある理由は!?

2024年1月からスタートする新NISAについては、すでにさまざまなメディアで報道されているので、改めてその仕組みについて説明するまでもないでしょう。

昨年12月16日、令和5年度の与党税制改正大綱が取りまとめられました。これによって新NISAの全容がほぼ明らかになりましたが、この内容を見て一番張り切っているのは、証券会社などの販売金融機関かもしれません。

やや古いデータになりますが、2022年9月末時点におけるNISA口座の利用状況調査によると、口座数は一般NISAが1068万7394口座で、つみたてNISAが684万3858口座。買付額の合計額は一般NISAが26兆4950億9801万円で、つみたてNISAは2兆4475億7310万円でした。

口座数で見れば、一般NISAはつみたてNISAの約1.6倍ですが、買付額ではかなり大きな差が付いています。

つみたてNISAの年間投資枠は40万円で毎月積立が原則であるのに対して、一般NISAの年間投資枠は120万円で、かつ一括投資が可能ですから、一般NISAの方がより高額の資金を運用できるのは事実です。また、一般NISAはつみたてNISAに比べて4年先行して始まったことを考えれば、買付額の合計に大きな差が生じるのは当然ですが、それでも10倍以上の差は極端です。

ちなみに、2022年1~9月までの買付額で見ると、一般NISAの総額が2兆4775億8407万円であるのに対し、つみたてNISAのそれは9185億1578万円ですから、この期間だけでもその差は約2.7倍です。

とはいえ、2022年6月末から9月末までの3カ月間における買付額の増加額は、一般NISAが5679億1338万円で、つみたてNISAが3420億8427万円ですから、ここに来て徐々につみたてNISAが、若者層を中心に浸透しつつあることは分かります。

しかしながら、金融庁が資産形成の基本として「長期、積立、分散投資」を勧めてきたにもかかわらず、それでもなお、つみたてNISAの残高が一般NISAのそれに追いつかない理由としては、証券会社など販売金融機関がつみたてNISAを積極的にプロモーションしていないという面もありそうです。

インデックス投信では販売手数料を稼げない

もう少し、データを細かく見てみましょう。商品別に買付額の総額を比較すると、

一般NISAのそれは、
上場株式・・・・11兆1777億7171万円
投資信託・・・・16兆8838億9324万円
ETF・・・・・・6556億7400万円
REIT・・・・・  2253億3215万円

これに対して、つみたてNISAは、
インデックス投信・・・2兆1110億1299万円
アクティブ投信等・・・2197億5610万円
ETF・・・・・・・・・3億9970万円

となっています。つみたてNISAは圧倒的にインデックス投信に資金が集まっていますが、販売金融機関にとっては、これは「全く儲からない」ことを意味します。そもそもつみたてNISAの対象ファンドにはスクリーニング基準が設けられており、それによると、インデックス投信もアクティブ投信も販売手数料は取れません。

かつ、インデックス投信の場合、信託報酬率が極めて低廉に設定されています。たとえば、つみたてNISA対象のインデックス投信で最も純資産総額が大きい、三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の信託報酬率を見ると、販売金融機関のそれは年0.034%しかありません。

つまり1000億円を販売したとしても、1年間に得られる信託報酬の額は、たったの3400万円なのです。1000億円を販売するための手間暇、口座管理などにかかるコストを考慮すると、ほとんどペイしないのではないかと察します。

これに対して、一般NISAで最も買付額が大きい投資信託には、つみたてNISAのように「販売手数料のかかるものは対象外」といった制限はなく、その販売金融機関が扱っている投資信託であれば、ほぼ例外なく一般NISA口座で購入できます。たとえば販売手数料が購入金額に対して2%、信託報酬率が販売金融機関分で年1%といったような、比較的高コストの投資信託でも扱えるのです。

仮に、このコスト料率の投資信託を1000億円分販売したら、この販売金融機関は販売手数料だけで20億円、年間の信託報酬で10億円が入ってきます。商売のうま味としては、断然に一般NISAなのです。

新NISAで投資を始める人は、金融機関の思惑に惑わされないよう注意を

新NISAが来年1月からスタートすることで、証券会社をはじめとする販売金融機関が張り切るだろうと思うのは、この一般NISAがさらにパワーアップして、「成長投資枠」として登場するからです。

成長投資枠は年間240万円を上限として、新NISAに設けられた1800万円の生涯投資枠のうち、1200万円まで使うことができます。しかも、途中で売却・解約したとしても、その枠を再利用することが可能です。つまり1800万円という生涯投資枠のなかで、一度利益確定した後、再び非課税枠を活用した投資が実現するのです。

だとするならば、収益を上げたい販売金融機関が、プロモーションにより注力するのは、つみたてNISAではなく、成長投資枠になります。実際、ある大手販売金融機関では、成長投資枠を使って、現行NISAで他社の口座を活用している利用者を、どんどん自社に引き入れるように、上層部から大号令がかかっているという話も、漏れ伝わってきます。

そういう状況なので、新NISAを利用して資産運用を始めてみようと考えている人は、販売金融機関の言うなりに転がされないように、十分注意する必要があります。オンライン系の金融機関は営業担当者が付かないので、あまり心配はいりませんが、問題は全国に支店網を持ち、営業担当者がいるような金融機関です。なかでも証券会社は、過去においても投資信託の回転売買を積極的に行ってきた経緯があるので、特に注意した方が良いでしょう。

2%の販売手数料を払わされて購入した投資信託を、多少値上がりしたからといって解約させ、さらに別の投資信託に2%の販売手数料を払わせて乗り換えさせる、といった話に乗ってしまうと、せっかく運用収益に対して非課税になるはずの新NISAなのに、下手をすると、税金で持っていかれる以上に、手数料負担が重くなってしまうことも考えられます。

とにかく、販売金融機関の言いなりになると、長期の資産形成には相応しくない投資信託を掴まされる恐れがあるので、くれぐれも注意が必要です。その点では、ある程度、自分自身で商品を選択できるだけの知識は必要になりますが、オンライン証券会社で新NISAの口座を開設するのが無難とも言えます。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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