政府が戦後初めて認めた“危機的”状況…「打つ手なし」に陥る恐れ
Finasee / 2023年3月16日 7時0分
Finasee(フィナシー)
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2001年3月16日、政府は月例経済報告において戦後初めて「デフレ(デフレーション)」を宣言しました。物価が持続的に下落する状態を指し、この日から日本は長くデフレと戦い続けることになります。
【消費者物価指数(総合、2000年=100)】
総務省「消費者物価指数」より著者作成拡大画像表示
しかし、近年は物価の上昇を指す「インフレ(インフレーション)」がよく報道されるようになりました。物価の下落や上昇がなぜ重要なのか、ここで押さえておきましょう。
なぜデフレが悪いのかそもそも日本がデフレからの脱却を目指すのは、デフレは経済を悪化させる可能性が高いためです。
デフレ下では物の値段が下落するため、企業の売り上げが下がります。企業の売り上げが下がると従業員の給与にも下落圧力が働くため、賃金が下落したり非正規雇用が増えたりするケースが懸念されます。実際、非正規雇用の割合は上昇傾向にありました。
【正規雇用と非正規雇用の割合(1984年~2001年)】
総務省「労働力調査」より著者作成拡大画像表示
給与が下がると、家計の消費が減退します。またデフレ下では現在より将来の方が安く商品を買えるわけですから、消費が先送りされるかもしれません。これらによってさらに企業の売り上げが減少します。
物が売れなくなると需給の関係からさらにデフレが進展し、一連の流れが強まりながら連鎖的に起こります。これを「デフレスパイラル」と呼び、放置すると深刻な景気の停滞が起こりかねません。
これを断ち切るため、多くの国はデフレを避けるような財政支出や緩和的な金融政策を行います。日本でも2001年3月に初めて量的金融緩和(※)が行われました。
※量的金融緩和:市場に供給する資金量を大きくする金融緩和策
相次ぐ値上げに賃上げ…日本はデフレから脱却できるか日本銀行は2013年からより強力な金融緩和を実施しました。以降、日本の物価は少しずつ上がっています。特に2022年はロシア・ウクライナ問題などから資源価格が上昇し、日本においても物価が大きく上昇しました。
【消費者物価指数(総合、2012年=100)】
総務省「消費者物価指数」より著者作成拡大画像表示
デフレ脱却の兆しが見えたことは喜ばしいですが、物価の上昇は家計にとって頭の痛い問題です。収入が伴わなければ消費が冷え、かえって景気が悪化するかもしれません。
こういった事情もあり、今年の「春闘」は注目を集めそうです。春闘とは新年度に向けて行われる労使交渉のことで、例年3月に労働組合の要求に対して企業が回答します。
うれしいことに、2023年度は賃金の引き上げに期待できるようです。帝国データバンクの「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」によると、前年度に続き多くの企業で賃金を改善させる意向があると回答しました。既に大幅なベースアップを表明する大企業も現れています。
【企業規模別、賃金改善の実施見込み割合】
帝国データバンク「2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査」および「2023年度の賃金動向に関する企業の意識調査」より著者作成拡大画像表示
もっとも、賃上げは企業にとって業績の圧迫要因です。賃上げが持続的なものになるには、企業の生産性向上が求められるでしょう。
デフレより怖い「スタグフレーション」とは2022年は顕著に物価が上昇したことから、「スタグフレーション」を懸念する声も聞かれました。スタグフレーションとは、景気の停滞と物価の上昇が同時に起こる現象のことです。
不景気は当然避けるべきことですが、それと同時に物価が上がることがなぜ懸念の対象となるのでしょうか。それは、スタグフレーションから抜け出すことは困難だからです。
金融政策によって景気を刺激する場合、中央銀行は一般に金利を引き下げ、家計消費や企業の設備投資を促します。しかし、これらの政策は副作用として物価の上昇を招くため、既に物価が上昇している中では安易に実施することはできません。
では物価の引き下げを優先する場合はどうでしょうか。この場合は反対に金利を引き上げるなどし、消費や企業活動の抑制を目指します。しかし、これらは一般に景気をさらに下押しするため、不況をより深刻にしかねません。
このように、金融政策は景気と物価の双方に影響を与えるため、スタグフレーションからの脱却を目指すと強い痛みが生じることになります。
【金融政策の概要】
スタグフレーションはこれまでオイルショック時に日本やイギリスなどで発生しました。2022年も原油といった資源価格の上昇が物価を押し上げたと考えられます。原油価格は落ち着きつつありますが、再び上昇に転ずればスタグフレーションに陥るかもしれません。
【WTI原油先物価格(2022年1月~2022年2月)】
Investing.comより著者作成拡大画像表示
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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