ターゲットイヤー型など「お任せ」商品も…進む企業型DCのラインアップ拡充
Finasee / 2023年2月28日 11時0分
Finasee(フィナシー)
DCの商品ラインアップを見直す企業が増えている
企業型確定拠出年金(DC)の実施企業では、運用商品ラインアップの見直しが進みつつあります。その背景には、法令改正やDC向けの商品数の増加、資産形成への意識の高まりなど、さまざまな環境変化が考えられます。
商品ラインアップ見直しについて、どんな課題があり、どのような効果が期待されているのかについて整理してみましょう。
増えるバランス型投資信託の追加ターゲットイヤー型がトップ
制度開始から2022年3月末までの間に、商品追加を行ったことのある企業型DC規約は、全体の63.8%にのぼるという調査結果があります。
同じ調査で、2021年4月から2022年3月の1年間に追加された運用商品数は延べ3,308本で、そのほとんどが投資信託でした。
投資信託の種類別にみると、バランス型投資信託(国内外の株式や債券など複数のアセットクラスを組み合わせたもの)がもっとも多く、次に外国株式型投資信託となっています。
バランス型投資信託のなかでも、ターゲットイヤー型が半数以上を占めました(※1)。
ターゲットイヤー型とは、目標年(ターゲットイヤー)に向けて、株式や債券など、複数のアセットクラスの組み入れ比率を自動調整する投資信託です。
個々人で考えれば、ターゲットイヤーは人それぞれですが、日本ではターゲットイヤーを10年もしくは5年きざみで設定して提供する運用会社が多く、企業はそのすべてをシリーズとして採用するか、10年きざみ等でラインアップするか、を判断することになります(前述の調査では1シリーズの平均が3.75本)。
※1 年金情報2022年10月17日号 運営管理機関へのアンケートベース。3,308本の運用商品が追加されており、バランス型投資信託は1,300本(うちターゲットイヤー型は673本:ターゲットイヤー型はシリーズを1本として計算)、外国株式型投資信託は630本、国内株式型投資信託が453本。
リスクを自動で調整してくれるターゲットイヤー型投資信託ターゲットイヤー型の商品追加が多いのは、DC制度スタート時にはほとんど存在していなかった種類の投資信託だからです。近年の法律改正(※2)により、企業がターゲットイヤー型を採用しやすい土壌が整ったこともあり、運用会社が商品開発に力を入れるようになりました。
その結果、2015年以降に設定されたターゲットイヤー型は、比較的コスト(信託報酬)が低廉で、商品性がわかりやすいものが増えてきています。
※2 厚生労働省社会保障審議会に設置された「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」報告書(2017年6月)において、運用商品を選択しない者への支援に注目が集まった。その後、法令で運用商品数の上限は35本、ターゲットイヤー型はシリーズで1本と数えることが明示された。
企業型DC導入から数年が経過した事業主からは「導入時から、こういう投資信託があればよかったのに」という声が寄せられます。というのも、年金運用の基本的な考え方(分散投資が重要であり、若年時にリスクテークし、年代が上がるにしたがってリスクを逓減する)が、ターゲットイヤー型の投資信託で実践されているからです。
ターゲットイヤー型は、一般的に、若い世代向け、つまり目標年が遠い場合は、リスクの高い株式等の比率が高く、目標年が近づくにしたがって、リスクを抑えた運用(債券や短期金融資産など)に切り替わっていきます。たとえば、2000年生まれを想定したターゲットイヤー2060は、現時点では株式等の比率が高くなっていますが、時間の経過とともに、徐々に債券や短期金融資産の比率が高まり、30年後、40年後には今とは異なる資産配分の投資信託になっています。つまり、ほかの投資信託は加入者自身で年齢ごとに合った商品に買い替えるなどしてリスクを調整する必要があるのに対し、ターゲットイヤー型は受取時期までずっと同じ投資信託を保有できる「自動操縦機能付き」の商品といえるのです。
商品を追加しても活用する人が少ない!? DC担当者の悩み運用商品を追加する企業型DCは増加傾向ですが、どの企業にも共通の課題があります。追加した運用商品を活用するDC加入者が少ない、という点です。
どうしたら追加の運用商品が活用されるのでしょうか。
一つには、運用商品の追加理由を企業が加入者に明確に示す、ということが必要です。ターゲットイヤー型であれば、今までにない投資信託であること、年代によって選ぶべき年限が異なること、長く保有できること、がポイントになります。
ほかの種類の投資信託、たとえばRIET(不動産投資信託)であればインフレ下での意味合いや株式型とは値動きが異なること、などを示します。ESGなどのテーマ性があるものであれば、その目的などを示すことも必要でしょう。
もう一つのポイントは、追加する運用商品をどういった層に使ってもらいたいのか、を事業主が意識しておくことです。
たとえば、リスクコントロール型(リスクを一定範囲内に抑えることを目標にしたバランス型投資信託)であれば、年代が上の層での活用がイメージされます。外国株式型や国内株式型のアクティブファンドは、運用に慣れてきている人向け、などです。
運用見直しは4割弱 多くの人がチャンスを見逃している追加理由を示すだけでは十分ではないかもしれません。
既存の加入者が新しい運用商品を活用するには、「運用商品の変更」を伴うためです。
「変える」ことは、普段の生活においても、できれば避けて通りたいことではないでしょうか。しかも、それがお金のことであり、よくわからない仕組みであるなら、なおさらです。
DC加入者の多くは、最初に運用商品の資産配分を決定すると、その後に資産配分を見直すことがほとんどありません。
実際、野村證券が受託する企業型DCの加入者のうち、残高部分の運用商品を見直したことのある人(スイッチング経験者)は、加入期間5年以上に限定してみても、40%弱という結果になっています(運用商品の償還などの強制的なスイッチングも含む)。
信託報酬に1%の違いがあるだけで、累計200万円もの差が!?具体的な数字を使って、「効果」を伝えることも必要です。
たとえば、同じ値動きをする投資信託で、信託報酬に1%の違いがある場合、毎月2万円ずつ40年間保有したら、信託報酬の累計には208万円の差が生じるという資料があります(※3)。
また、運用商品の変更方法(掛金部分を変えるのか、残高部分を変えるのか)や、その効果についても、繰り返し周知する必要があります。いつでも変更でき、回数制限はないこと、(変更に伴う)手数料は一般の投資商品に比べて低い(あるいはかからない)こと、などです。
DC制度の運営を受託する運営管理機関や事業主には、特定の運用商品の推奨が禁止されています。追加運用商品の活用促進が、加入者にとってメリットと思われるときでも、特定の運用商品の推奨にあたらないようにしなければなりません。結果として、加入者に真意が伝わりにくく、活用につながらないということにもなるようです。
今後、資産所得倍増プランによる中立的アドバイザーが定着し、投資がより身近になることで、ここに書いたような課題が解決されていくのではないか、と期待しています。
※3 確定拠出年金の運用に関する専門委員会 第5回 資料1(2017年4月18日)
津田 弘美/野村證券株式会社 確定拠出年金部
社会保険の専門出版社において、企業年金分野の編集記者として厚生労働省記者クラブ等に所属。厚生年金基金の隆盛期から企業年金2法の成立等を取材。その後、野村年金サポート&サービス(現在は野村證券に合併)に入社。確定拠出年金の運営管理業務に10年以上にわたり従事し、投資教育の企画立案、事業主サポート等を担当。業務の傍ら、横浜国立大学大学院において、理論と実務の両面から企業年金制度についての考察を行う。横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程後期課程修了(経営学博士)。
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