米IT業界に激震…大手テック企業に代表される「大規模な人員削減」の背景に迫る
Finasee / 2023年3月6日 11時0分
Finasee(フィナシー)
米国のIT業界では大手テック企業を中心に、2022年から大規模な従業員の解雇が続々と進められている。そうした大量解雇の動きは業界を越え、金融業界にも広がり始めているという。
多くの企業がリストラを行うこの状況には、どのような背景があるのだろうか。人員削減が株価に与える影響を交えて解説していく。
アマゾン、メタ、ツイッター…大手テック企業が大量解雇を実施米労働省が発表した2022年12月のデータでは、国全体の雇用情勢を知るうえで重要視される「非農業部門就業者数(雇用者数)」が前月から約22万3000人増加。失業率は約50年ぶりの低水準となる3.5%を記録した。不安定な世界情勢ではありながらも、米国内の雇用は安定傾向にあると考えられる。
一方で、IT業界の雇用情勢は異なる動きを見せている。
2023年1月、アマゾンが約1万8000人以上もの従業員を解雇する計画を発表して大きな話題となった。これまでのIT業界の歴史において最大規模の人員削減である。
FacebookやInstagramを運営するメタは、2022年11月時点で創業以来最大規模となる約1万1000人の解雇に踏み切ることを発表。同じくSNS大手のツイッターでは、テスラのCEOイーロン・マスク氏による買収後に、約3700名の社員が解雇されたことも記憶に新しい。
それ以外にも、グーグルは約1万2000人、マイクロソフトは約1万人、セールスフォースは約8000人と、米国を代表する大手テック企業が続々と人員削減計画を発表した。大手企業を中心に、多くのIT企業で従業員の解雇が進められている。
1000社を超えるテック系企業の解雇情報をまとめるwebサイト「Layoffs.fyi」では、2022年11月から2023年1月の期間中、全世界で12万人以上が解雇されたというデータが公開された。IT企業の雇用状況は深刻な状況にあると見られている。
「巣ごもり需要の減速」が人員削減の引き金にIT企業が大規模なリストラに踏み切っている理由は、新型コロナウイルス感染拡大後に大量採用した人員が行き過ぎとなってしまったためだ。
新型ウイルスによる世界的パンデミックは経済活動の停滞をもたらし、さまざまな業界に大打撃を与えた。その一方、IT業界にはコロナの影響によって大きな利益がもたらされている。
多くの人々が感染対策のために「巣ごもり」を余儀なくされたことで、ネットショッピングやWEB会議システムといったサービスへの需要が急激に上昇。過熱する需要に対応しようと、テック企業は積極的に人員を増やしていった。
しかし、コロナ禍が落ち着きを見せると事態は急変する。徐々に通常の経済活動が取り戻されていき、巣ごもり特需は減速。積極的な増員を行ってきた企業の従業員数が過剰となり、人員削減に目を向けることとなったのだ。
ちなみに、米テック企業の代表格の1社であるアップルは、一部の業種を除いて新規の採用活動が凍結されてはいるが、他のビックテックのように大規模な人員削減を発表していない。同社はコロナ禍でも急ピッチな増員を行っておらず、そのことが功を奏したとされている。
金融業界でも人員削減が加速中!?IT企業の大量解雇は、米連邦準備制度理事会(FRB)による急速な利上げも要因の1つとされる。金利の大幅な引き上げによる景気後退が予見されたため、多くの企業が広告出稿を抑制。メタのように広告収入を大きな収入源とする企業にとって、ネット広告による収益減少も人員削減の原因となった。
金利上昇を受けた大規模解雇の流れは、金融業界でも見受けられている。
新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に大流行した2020年、FRBはゼロ金利政策などの大規模な金融緩和を実施した。この金融緩和政策が、多くの投資家に株式や社債の購入を促し、市場の取引が急増。証券の取扱手数料による利益で、金融業界に膨大な収益がもたらされている。このコロナによる特需はIT業界と同様に、金融業界で人員の増加が推し進められるきっかけとなった。
しかし、2022年に入るとFRBが政策を転換。金融引き締めに乗り出し、政策金利引き上げを開始している。ウクライナ情勢やインフレ、エネルギー価格の高騰などによる混乱も相まって、市場での金融取引は急激に縮小。好調であった金融業界の業績は急落してしまう。
世界有数の金融機関であるゴールドマンサックスは収益の大幅低下を受け、コスト削減のために大量解雇に踏み切った。2023年1月には、全従業員の6%に相当する約3200人の人員削減を行っている。
ゴールドマンサックスに並ぶ、金融業界の世界的企業であるモルガン・スタンレーも市場環境の悪化の影響で、従業員の約2%に値する約1600名を解雇した。
IT業界同様に金融業界も、コロナ禍の好調から一転して苦境に立たされていることがわかるだろう。
リストラは株価の上昇にもなり得る大規模な人員削減が報じられると、企業の経営状況に対してネガティブな印象を感じる人は多いだろう。しかし、リストラによって企業の株価上昇がもたらされるケースも起こり得るということは覚えておきたい。
なぜなら投資家目線では、リストラにより企業体質が改善され、将来的に企業の収益向上に期待できるためだ。この記事で紹介したような大規模な人員削減は、企業のコスト削減に大きなインパクトを与えるだろう。
実際、アマゾンが1万8000人の解雇を計画していることが報道されると、その直後に株価は2%上昇した。さらに、セールスフォースが約8000人規模の人員削減計画を発表した当日には、株価が前日から約5%上昇している。
ただし、解雇を行う企業には退職金支払いなどのリストラコストが発生するため、必ずしも株価の上昇につながるとは限らない点には注意したい。リストラの規模だけでなく、企業の経営状態や市場の状況を踏まえて総合的に判断する必要がある。
田中 雅大/編集者
ペロンパワークス・プロダクション代表。編集プロダクション、出版社勤務、『MONOQLO』『日経ビジネスアソシエ』『サイゾー』等の編集記者、Webメディア運用を経て、ペロンパワークス・プロダクション設立。編集記者時代のフィールドは金融とデジタル製品。AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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