「日銀総裁が不在」の異常事態…国会迷走、マーケット急落の惨事に【3月19日はどんな日?】
Finasee / 2023年3月19日 11時0分
Finasee(フィナシー)
・政府が戦後初めて認めた“危機的”状況…「打つ手なし」に陥る恐れ
日本銀行の総裁人事が話題を集めています。政府は2023年2月、かつて日本銀行の審議委員を務めた経験もある植田和男(うえだ・かずお)氏を起用する人事案を国会に提示しました。報道によると、3月中には承認を得られるとみられています。
実は今から15年前の3月19日、日本銀行の総裁が決まらず空席となったことがありました。中央銀行のトップが不在という異例の事態はなぜ起こったのでしょうか。
「ねじれ」国会で総裁が決まらず日本銀行総裁の空席は、いわゆる「ねじれ」国会が原因で発生しました。
2007年7月、参院選において自民党と公明党は大敗を喫し、民主党が参議院の過半を占めます。これにより、衆議院と参議院で第1党が異なる「ねじれ」の状態に陥りました。
2008年に入ると、当時の日本銀行総裁だった福井俊彦(ふくい・としひこ)氏の任期満了が意識されるようになります。日本銀行の総裁は、衆議院と参議院の両方で過半数の承認を得なければ任命できないためです。この懸念は当たり、民主党らは自民党が提示する人事案に相次いで反対しました。そして、後任が決まる前に福井氏の任期が終わってしまいます。日本銀行の総裁が空席となるのは戦後初めてのことでした。
【日銀総裁の空席を巡る主な経緯】
日銀総裁の空席はマーケットにも影響しました。ドル円と日経平均株価は日銀人事が混迷した2008年3月中旬にかけて下落しています。
【ドル円と日経平均株価(2008年1月~4月)】
Investing.comより著者作成拡大画像表示日銀総裁って何をするの?
そもそも日本銀行総裁の仕事は何でしょうか。
日本銀行は利上げや利下げといった金融政策を実施し、金融システムの調節や物価の安定などを担っています。金融政策は会議(日銀政策決定会合)における多数決で決められ、日銀総裁はその代表として議案を提示したり賛否が同数となったときの最終決定を行ったりします。
日本銀行法では、日本銀行の目的を、「我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うこと」および「銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資すること」と規定しています。
また、日本銀行が通貨および金融の調節を行うに当たっての理念として、「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」を掲げています。
出所:日本銀行 日本銀行の概要
当面の日本銀行の目標はインフレ率2%の定着です。2013年1月に前年比で2%以上の物価目標を設定し、その早期到達を目指して同年3月に総裁となった黒田東彦(くろだ・はるひこ)氏は大規模な金融緩和を実施しました。これにより、日本の金利は極めて低い水準へ誘導されるようになります。
【日本銀行の政策と日本国債利回り】
Investing.comおよび日本銀行より著者作成拡大画像表示
しかし、日本にとって物価上昇率2%は簡単な目標ではありませんでした。一般に、物価の上昇を目指す場合は金利を低く抑えます。その点で、黒田氏の政策はこれに合致するものでした。しかし黒田氏の在任中、年間の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の上昇率が2%を超えたのは2022年まで2回しかありません。日本に染み付いたデフレ体質は、強力な金融緩和をもってしても脱却できませんでした。
【消費者物価指数の前年比変化率(生鮮食品を除く総合)】
総務省統計局「消費者物価指数」より著者作成拡大画像表示
黒田氏は2023年4月に任期を終えます。大胆な政策で日本に持続的なインフレを起こそうとしましたが、その達成は後任の植田氏に委ねることになりそうです。
次の日銀総裁はどんな人?国会で次の総裁に提示された植田氏は日本を代表する経済学者です。1951年に生まれ、東京大学卒業後はマサチューセッツ工科大学の大学院で博士号を取得しています。1998年から2005年までは日本銀行の金融政策を話し合う審議委員を務めていました。当時の日本銀行も緩和的な政策を採っており、植田氏はそのアイデアを出した1人とみられています。
【植田氏が審議委員を務めていたときの主な金融政策】
・1999年2月:ゼロ金利を導入
・2000年8月:ゼロ金利を解除
・2001年2月:ゼロ金利を再び導入
・2001年3月:量的金融緩和を導入
植田氏は2008年8月のゼロ金利解除には反対票を投じたことから、緩和的な政策は踏襲するのではないかとみられています。ただし、2001年3月の量的金融緩和の導入においては、賛成には回ったものの、その効果には懐疑的だったことが議事録から明らかになっています。このことから、総裁就任後はある程度の方針の修正はあるかもしれません。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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