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本年度アカデミー賞最多候補『エブエブ』製作のA24 巧みなマネタイズで映画界を席巻!

Finasee / 2023年3月1日 11時0分

本年度アカデミー賞最多候補『エブエブ』製作のA24 巧みなマネタイズで映画界を席巻!

Finasee(フィナシー)

A24最大のヒット作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

3月12日(現地時間)に授賞式が開催される第95回アカデミー賞を独占するといわれている作品がある。中国人の主婦がマルチバースで大活躍するアクション映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(通称:エブエブ)だ。

主人公は家族でコインランドリーを経営する中国系移民の女性。ある時、別の宇宙からやってきた夫に、複数の宇宙に存在する「別の自分たち」の存在を教えられる。歌手、料理人、カンフーマスター…ほかの宇宙で得たスキルで、彼女は巨大な悪と戦うことになる。

 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
3月3日(金) TOHOシネマズ日比谷 他 全国ロードショー
配給:ギャガ © 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

 

すでにゴールデングローブ賞で主演女優賞、助演男優賞を受賞、アカデミー賞では最多11部門にノミネートされている本作品。製作したのは、今アメリカで最も話題の映画スタジオ、A24(エートゥエンティフォー)だ。映画ファンにも注目されるこのスタジオ、一体どんな存在なのだろうか。

ヒット連発の映画スタジオ・A24ってどんな会社?

A24は2012年に設立された比較的新興の独立系プロダクションだ。自らのプロダクションで映画を製作すると共に、出資、配給も行っている。創立当初から個性的な作品づくりを評価されていたが、『ルーム』『エクスマキナ』(2015)などの配給権を得たことでビジネス的な成功を収める。さらに2016年にはアカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』で批評家の評価も獲得した。

才能ある新人を発掘し、インディペンデントの映画会社らしいエッジの効いた作品を次々と手がけたことで、目の肥えたマニアにも支持された。プロモーション時の斬新なアートワークも話題で、日本でもヒットした『ミッドサマー』(2019)などは、そのキービジュアルを覚えている人も多いのではないだろうか。

(C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.


『ミッドサマー』は『へレディタリー/継承』(2018)のアリ・アスター監督が手掛けた作品で、実はかなり不気味なフォークロア・ホラーだ。しかし、アーティスティックなビジュアルを前面に押し出すことで、若い層の興味も上手く喚起することができた。日本でもこの作品で「一味違った作品を作るプロダクション」というイメージを確立できたのではないかと思う。

 『ミッドサマー』(Blu-ray通常版)
価格:5,390円(税込)
発売・販売元:TCエンタテインメント
(C)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 

Apple、Amazon、HBO。大手がこぞって組みたがる気鋭のプロダクション

実はA24の強みは、その作品性のみではない。インディペンデントの会社は作品では評価されても興行面で苦しむことが多いものだが、A24はビジネス的な手腕も高い。

設立直後の2013年からディレクTV(米国の衛星放送サービス)およびAmazonプライムとの配信契約を結び、現在はAppleとも複数年の契約を結んでいる。また、米国最大手のケーブルテレビ放送局のひとつ・HBO(Home Box Office、ワーナー・ブラザース傘下)とも契約し、次々とオリジナルドラマの製作を行っている。

若手の監督が撮るエッジの立った作品は小規模で製作し、メジャー作品では大手と提携するなどメリハリをつけたビジネス戦略も特徴だ。アカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』もブラット・ピットの設立した会社「プランBエンターテインメント」との共同製作だ。

現在はAppleTV +で配信中のジェニファー・ローレンス主演『その道の向こうに』や、ジュリアン・ムーア主演『Sharper:騙す人』の共同製作なども行っているが、こういったオスカー女優を起用するような大型プロジェクトは、独立系の製作会社が単独で実現することは難しい。大手企業とのタッグや、良質な作品の配給権の獲得で資金面をクリアしているからこそできるチャレンジだといえる。

アジア系の才能にも着目、多様性に満ちたビジネス戦略

アジア系の監督・俳優に焦点を当てる多様性に満ちた戦略も魅力だ。今回A24最大のヒット作になった「エブエブ」は中国系俳優(しかも中年女性!)がヒロインであり、脇役も中国系俳優が固める。

© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.


『別れる決心』が話題となった韓国のパク・チャヌク監督もHBOとA24が共同製作するドラマシリーズを撮影中だ。Appleと共同製作のドラマ『Sunny』は西島秀俊など日本人俳優の起用が決定している。

そもそもアカデミー賞で高く評価された『ムーンライト』も、同性愛の黒人男性という、マイノリティを描いたドラマだった。こういった新しい感覚が、Z世代を始めとする若い世代の価値観にフィットしたのではないだろうか。

評価の定まってない若い監督やマイノリティを大胆に起用していく手法は、フットワークの軽い新興スタジオならではの強みだ。

絶好調の映画スタジオに死角はないのか?

映画ファンにも評価の高いA24だが、懸念もないわけではない。ジャンルが幅広く、作品本数がかなり多いため、中には評価の芳しくないものもある。また、作品の幅が広がるにつれ、スタジオの特色が薄まっているのも確かだ。数年前にあった「あの24が手掛けた」というインパクトは、興行の成功と引き換えに、小さくなっていることは否めない。

さらに、2021年にはスタジオをアップル社に売却するのではないか?というニュースが流れた。実際にはアップルによる具体的な買収の発表はなかったが、今後大手の傘下に入らないとも限らない。その場合は、インディペンデントなスタジオの色をどれくらい残せるか?が、課題となってきそうだ。

とはいえ、現在のところ、A24がアメリカの映画界で最も勢いのあるスタジオであることは確実だ。A24自体は未上場の会社だが、個人投資家としては今後タッグを組む大手のテック企業やエンターテインメント企業に目配せをしておきたいところだ。

吉田 直子/ライター・編集者

フリーライター、フリー編集者。広告代理店、編集プロダクション勤務ののち、独立。編著に『ゲーム・マエストロ』(毎日コミュニケーションズ)等。現在は『教育資料』(教育公論社)等、教育専門誌を中心に活動。教育のほか、映画、ドラマ、TV番組取材等エンターテインメント系の執筆も行う。

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