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実は「リーマンショック直後」より不況…華々しい百貨店業界が抱える“ほの暗い”実態

Finasee / 2023年3月6日 17時0分

実は「リーマンショック直後」より不況…華々しい百貨店業界が抱える“ほの暗い”実態

Finasee(フィナシー)

2023年1月の全国百貨店売上高概況が発表されました。この経済統計は日本百貨店協会が毎月定期的に集計・発表しているもので、調査対象は全国71社185店です。地区別の売上高や商品別売上高も発表されています。

好調に見える百貨店、その実態は…?

今回発表された数字によると、売上高の前年同月比は15.1%増となり、11カ月連続のプラスとなりました。また入店客数も前年同月比で14.4%増となっています。

地区別では、全地区で前年実績を超え、特にインバウンド効果のあった都市部では18.4%もの大幅増加となりました。また地方も6.2%増となり、3カ月ぶりにプラスに転じているとのことです。

また商品別では、衣料品、身のまわり品、雑貨、家庭用品、食料品という主要5品目がすべて前年同月比プラスになりました。

背景として、「外出機会の増加や気温低下で好調だった防寒商材と、引き続き需要の強い高付加価値な特選商材が牽引した。衣料品ではコートなど重衣料の他、オケージョンアイテムも動いた。身のまわり品や、美術・宝飾・貴金属など高額品は、ラグジュアリーブランドのバッグや時計を中心に増勢が続いており、価格改定前の駆け込みも見られた」といった理由があるようです。

これらのデータ、あるいは解説文章を読む限りでは、百貨店の状況は好調に回復基調をたどっているかのように見えます。では、実態はどうでしょうか。

実態を正しく把握するには

実は新聞記事やテレビのニュースなどで報じられる経済統計に関する情報は、表面的な数字に過ぎません。というより、それらの情報を聞いて現状を瞬時に把握できるのは、常日頃から経済統計をウォッチしている人だけでしょう。

多くの人は、たまたま新聞のページをめくって「1月の全国百貨店売上高は前年同月比で14.4%増」という見出しが目に飛び込んできたとき、恐らく「百貨店業界は好調なんだな」と思うのではないでしょうか。

ですが、それだけでは実態を正しく把握できているとは言えません。

前年同月比では大幅な伸びを見せている全国百貨店売上高ですが、業界が好調か否かは「実数はどうなっているか」という視点からも数字を見ていく必要があるでしょう。

複数の視点から見る売上高の実情

過去の全国百貨店売上高概況の前年同月比を見ると、2022年3月にプラスに転じて以来、2023年1月まで11カ月連続で前年同月比を上回っています。さらに、2022年4月、5月、6月、8月、9月、10月、そして2023年1月は2桁の伸びで、2022年5月に至っては前年同月比57.48%という非常に高い伸び率を見せました。

 「全国百貨店売上高概況」のデータをもとに著者作成

しかし、上記のように2017年1月からの実数を棒グラフにしてその推移を見ると、2020年1月を境に、売上高に断層があることが見て取れます。

つまり2017年1月から2019年12月までの売上高に比べて、2020年1月以降の売上高は一段低いのです。これは言うまでもなくパンデミックによる経済活動の低迷による影響です。

過去にパンデミックが理由で行われた行動制限を並べると、

<緊急事態宣言>
第1回目=2020年4月7日~5月25日
第2回目=2021年1月8日~3月21日
第3回目=2021年4月25日~6月20日
第4回目=2021年7月12日~9月30日

<まん延防止等重点措置>
第1回目=2021年4月5日~9月30日
第2回目=2022年1月9日~3月21日

という時系列になります。

つまり、特に行動制限がなかった2022年3月21日以降は、人々が日常を取り戻しつつあった時期であり、百貨店売上の前年同月比もそれを反映した数字になっています。

しかし、実はそれでも全国百貨店の売上高は、コロナ前と同じレベルにまでは戻っていないというのが実情です。

百貨店の抱える2つの課題

では、行動制限が無くなったにもかかわらず、売上高が戻らないのはなぜでしょうか。理由はいくつか考えられそうです。

1.客層の課題

まず1つは、百貨店の客層の問題です。

百貨店の店頭に行き、そこで品定めをして商品を購入するという購買行動をとる客層は高齢者が中心と思われますが、現状は高齢者を中心に外出自粛の傾向が続いています。

高齢者の外出が減れば、その分消費が低迷します。日本国内においては、世帯主の年齢が60歳以上の高齢者層が個人消費の半分を占めると言われています。

ですので、高齢者層の外出自粛ムードが解けない限り、百貨店の売上がコロナ前と同じレベルに回復するのは難しいと考えられます。

2.構造的な課題

もうひとつの要因は、百貨店の構造的な問題です。

2022年1~12月の全国百貨店売上高を、2009年1~12月のそれと増減率を比較してみました。以下に示す増減率は、2022年の各月の全国百貨店売上高が、2009年の各月のそれに比べてどのくらい増減したかを計算した数値です。

2022年1月=▲38.82%
2022年2月=▲32.44%
2022年3月=▲25.65%
2022年4月=▲26.56%
2022年5月=▲24.06%
2022年6月=▲22.11%
2022年7月=▲29.01%
2022年8月=▲23.51%
2022年9月=▲19.93%
2022年10月=▲16.63%
2022年11月=▲16.73%
2022年12月=▲17.12%

さて、比較対象とした2009年がどういう年だったかは、覚えている方も多いと思います。まさに、2008年9月に米国の歴史ある投資銀行のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破綻して世界的に金融不安が高まった「リーマンショック」の直後です。

日本では日経平均株価がバブル崩壊後の最安値を更新したのも、2009年の出来事でした。日本の国内景気は過去最悪の状態まで冷え込んでいたのです。

2022年1月以降、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための行動制限がほとんど行われなくなったにもかかわらず、全国百貨店売上高の実数は、リーマンショックの直後よりも、さらに20~30%も落ち込んでいるのです。

この事実は、売上低迷はもはや新型コロナウイルスの後遺症という説明で済まされる状態ではなく、全国の百貨店が構造不況に陥っていることを示しています。

***
 

経済統計を読む場合、直近のデータだけでは何も分からないことが多々あります。正確な実態を掴むために大事なことは、過去に遡ってデータの推移を知ることです。

今回、事例として取り上げた全国百貨店売上高に関しても、直近の数字だけを見れば。「百貨店業界は新型コロナウイルスの苦境からようやく立ち直ってきて絶好調だ」と見えますが、2009年からの時系列データをチェックすると、「リーマンショック直後の売上にさえ達していない、未曾有の危機」であることが分かります。

こうして見ると、データの見方を知っているかどうかで得られる情報の違いは、非常に大きいと言わざるを得ません。

一見、無味乾燥に思える経済統計の数字も、このようにさまざまな角度から見ると、面白い発見があります。基本的に統計の数字は嘘をつきません。この手の数字に親しんでデータを読み取れると、経済や投資が少しずつ面白く感じられるはずです。

Finasee編集部

金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。

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