「物価高いつまで…?」今こそ知りたい“インフレ時代”の資産の守り方
Finasee / 2023年3月13日 17時0分
Finasee(フィナシー)
三井住友トラスト・アセット・マネジメントが定期的に刊行している「投資INSIDE-OUT」の235号では、「日本の家計資産の多くを占める『現金・預金』の落とし穴」と題して、日本の家計部門が保有している金融資産のうち、現金と預金の占める比率が高いこと、それに伴う問題点が指摘されています。
日米の金融資産の割合2022年8月に日本銀行調査統計局の「資金循環の日米欧比較」に掲載された家計の金融資産構成を見ると、日本は全体の54.3%が現金・預金であるのに対して、米国は13.7%、ユーロエリアは34.5%です。
元となったデータは2022年3月末時点と少し古い数字にはなりますが、確かに日本の家計金融資産は現金・預金の比率が高いことが分かります。
では、13.7%しか現金・預金を持たない米国は、他にどのような金融資産を多く持っているのでしょうか。具体的に数字を挙げてみましょう。かっこ内は日本の数字で、「債務証券」は債券を指しています。
現金・預金・・・・・・13.7%(54.3%)
債務証券・・・・・・2.6%(1.3%)
投資信託・・・・・・12.6%(4.5%)
株式等・・・・・・39.8%(10.2%)
保険・年金・定型保証・・・・・・28.6%(26.9%)
その他・・・・・・2.8%(2.8%)
日米を比較すると、投資信託と株式等の2項目に大きな違いが確認できます。米国の場合、現金・預金の比率が圧倒的に低い反面、投資信託や株式等の比率が高いのです。なぜ、日本はここまで現金・預金の占める比率が高いのでしょうか。
どうして日本人の現金・預金比率は高いのか?日本の家計部門が保有している金融資産のうち、現金・預金の比率が高い理由は、これまで大勢の人がさまざまな意見を述べてきました。
例えば、「戦後、日本を立て直すのに必要なお金を効率よく集めるために、『銀行が安全だからお金を預けましょう』というプロバガンダをやった」というのは、その典型でしょう。現在の金融広報中央委員会の前身である貯蓄広報中央委員会は、まさにそれを目的にして設立された組織であると言われています。
あるいは、「投資をしなくても戦後の高度経済成長によって給料が増え、持ち家政策で不動産価格が上がったため、別段投資を考えなくて済んだ」という意見もあります。中には、「農耕民族だから投資には向いていない」という、本当か嘘か分からないような意見まで……。
いずれの説も一理あるのでしょうが、これらに加えて考えられるのは、「日本人がこれまで積極的に資産運用を考えずに済んでいたから」ではないでしょうか。
資産運用を考えずに済んだ理由そもそも、資産運用が必要な理由はインフレリスクを回避するためです。インフレとはモノの値段が上がることですが、モノの値段が上昇すると相対的にお金の価値が下がります。
そのリスクを軽減させるために、インフレに強いとされる資産クラスに資金を分散させ、得られる運用収益でお金の価値が目減りした分をカバーする、というのが資産運用の1番の目的です。
過去を振り返ると、日本人はインフレに勝つための資産運用を真剣に考えなくても、大きな支障をきたすことなく日常生活を送れていたのかもしれません。
インフレによる痛手が深刻でなかった背景終戦直後のハイパーインフレは例外として、その後日本の物価が大きく上昇したのは第一次オイルショックの時でした。
内閣府の「令和4年度 年次経済財政報告」によると、日本の消費者物価指数の上昇率(2020年基準)は、オイルショック前の1972年が4.9%でしたが、1973年は11.7%、1974年は23.2%、1975年は11.7%と2桁の伸びとなったのです。
しかし、当時は預貯金の利率が高いことに加え、給料の伸び率が物価上昇率を上回っていました。たとえば、当時郵便局が扱っていた定額貯金(10年物)の利率は、1970年代の半ばまで年10%超でしたし、そもそも給与の伸び率が高かったのです。
厚生労働省「平成21年版 労働経済の分析」によると、1970年から1975年までの消費者物価上昇率が年11.4%だったのに対し、現金給与総額の伸び率は年18.7%でした。また、1975年から1980年までを見ても、消費者物価指数の上昇率が年6.7%だったのに対し、現金給与総額の上昇率は年7.9%にまで上がったのです。
確かに2度のオイルショックによって日本の物価は大きく上昇しましたが、給料の伸び率が物価の上昇率を上回り、かつ預金利率も10%を超えていたため、インフレによる痛みをそれほど実感せずに済んでいたという訳です。
一方で、バブル経済が崩壊してからは、日本は深刻なデフレ経済に悩まされました。デフレ経済とは、インフレとは逆に、モノの値段が継続的に下落していく現象です。
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、日本人の平均給料はバブル経済が崩壊した1991年以降もしばらく伸び続けていました。そして1996年に472.1万円でピークを迎えた後、2018年は433.3万円へと目減りしています。
日本人は平成の30年間を通じて、給与の面では豊さを実感できない期間を過ごしましたが、それでも生活が維持できたのは、ひとえにデフレ経済が続いたおかげです。
デフレ経済による影響2015年基準の消費者物価指数(総合)の数字を見ると、1989年度の89.3に対し、2018年度は101.4です。平成の30年間における成長率は113.5%なので、年平均で見ると、0.42%ずつしか上昇しなかったことになります。
しかも、デフレ経済は物価の下落を通じて相対的に現金の価値を高める効果があるので、現金のままで保有する、もしくは超低金利でも預金しておくだけで、物価見合いによるお金の価値は上がります。
既にお分かりの通り、このような状況下では、特にインフレリスクを回避するための資産運用を考える必要はありません。日本人は戦後の高度経済成長期から現在まで、少なくともインフレリスクを回避するための資産運用については、真剣に考えずに済んだのです。
日本人の金融資産が現在でも現金や預金に偏在しているのは、こうした事情も考えられます。
今後考えるべき「インフレ対策」とは?しかしながら、今後はインフレ対策の一環として、資産運用を真剣に考えなければならない時代になっているかもしれません。日米ともにインフレ率は落ち着き始めているものの、インフレ要因が無くなった訳ではないからです。
ウクライナとロシアの紛争は資源・エネルギー価格の上昇要因ですし、米国を中心とする資本主義社会では、これまで世界的にデフレを輸出してきた中国をサプライチェーンから外そうという思惑が生じています。
今すぐではないにしても、この思惑が現実になれば、安い労働力で世界中に製品を輸出していた中国に頼れなくなる分、物価が上昇するかもしれません。さらに、円安が進めば輸入物価の上昇を通じて、物価上昇に弾みがつくことも想定できます。
このように考えると、これからの時代は、現金と預金に金融資産を集中させ続けると、インフレによって資産価値が目減りするリスクに直面する恐れがあります。だからこそ、これからの時代は日本人も真剣に資産運用を考えていく必要があると言えるのです。
Finasee編集部
金融事情・現場に精通するスタッフ陣が、目に見えない「金融」を見える化し、わかりやすく伝える記事を発信します。
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