日本の相続税って高い!? 約17億円まで税はかからない、驚きの米国相続事情
Finasee / 2023年3月28日 11時0分
Finasee(フィナシー)
日本と逆…アメリカの贈与・相続は財産を“残す側”が納税
今日は、アメリカの贈与税・相続税に関して取り上げてみようと思います。日本と比べると、アメリカは贈与や相続に関してずいぶんと寛大で、かなりのお金持ちでない限り、贈与税・相続税は心配する必要がありません。
まずは定義から見てみましょう。面白いことに、誰がこれらの税金を払うかは日本とアメリカで“真逆”です。贈与の場合には、納税や報告義務は日本では贈与を受けた人にあり、アメリカでは贈与をする人にあります。父から息子にお金を贈与した場合、日本では息子に納税・報告義務があり、アメリカでは父親にある……といった具合です。
また、相続税も同じです。納税や報告義務は日本では相続をした(遺産をもらった)人にあり、アメリカでは亡くなった人、つまり遺産を残した人(実際には本人は亡くなっているので、本人に代わって処理を行う代理人がとり行う)にあります。アメリカでは、この意味で正式には相続税ではなく「遺産税」と言います(ただ、本稿では以降もあえて「相続税」と呼びます)。
こんな背景から、アメリカでは贈与する側、財産を残す側が、自分のファイナンシャルプラニングの一部として積極的に贈与・遺産プラニングをするのが普及していて、これを「エステートプラニング」と呼びます。
日本では「親にどうやって相続税対策を持ちかけるか」などという話題もあるようですが、これはアメリカではあまり聞きません。本人が自身の生涯プランの一部としてエステートプラニングを行うからです。そのためアメリカでは、生前贈与も広く行われています。日本では年間110万円までなら贈与税なしで贈与できると聞きました※1。
※1編集部注:暦年贈与の場合。
アメリカにも似たような制度があり、年間$17,000(日本円に換算して230万円程度。2023年の数字。インフレ調整あり)までの贈与に関しては、全く課税対象から外れ、報告の義務もありません。1人から何人にでもこの額を贈与することができます。ただ、日本では死亡前7年間の贈与に関しては、それらが相続財産に持ち戻されることになったと聞きました※2。アメリカではそのようなことはなく、この制度を使った贈与は未来永劫、税金はかかりません。
※2 編集部注:令和5年度の税制改正によるもの。暦年課税の場合、従来は贈与者の死亡日以前の3年間の贈与が相続財産への持ち戻しの対象でしたが、2024年の贈与から7年に延長されることになりました。贈与者死亡日以前の3年間の贈与の扱いは従来通りですが、死亡日4~7年前の4年間分は、100万円を控除した金額を相続財産に持ち戻します。
アメリカの相続税の基礎控除額、その衝撃的な大きさまた、この除外額$17,000を超えた贈与については、すぐに課税が始まるかというとそんなことはありません。除外額を超えた贈与については、税務署に報告義務が発生しますが、報告した額は年々累積されていって、トータル額が一定(基礎控除額)以上になって初めて課税が始まります。
アメリカでは、この税金のかからないトータル額の限度額(基礎控除額)が“べらぼう”に大きいです。その額は、なんと$12.92ミリオン(約17億6000万円/2023年の金額)です。この基礎控除額は、相続額と贈与額のトータルに対して適用されます。
具体的には、年間$17,000を超えた額をトータルした生前贈与が、この基礎控除額を超えると贈与税が発生します。死亡したときには、年間$17,000を超えた額の贈与税の累積額と相続財産がトータルされ、基礎控除額を超えた部分に課税されます。税率は18~40%の範囲です。
とはいえ、基礎控除が非常に高いので、かなりの富裕層でない限りは贈与税も相続税も気に掛ける必要はありません(これは連邦税の話で、州の贈与・相続税があるところはありますので、そこは要考慮ですが)。
ただし、いろいろドラスティックな変化があるのがアメリカでして、この$12.92ミリオン(約17億6000万円)という控除額はガクンと減る可能性もあります。今のところ2025年まで有効なもので新たに法的延長がない限り、2026年に基礎控除額が半分に下がる可能性があるのです。
まあ、それでも$6ミリオン(8億円以上)ですから、小型富裕層は心配がないものの、中型富裕層だと影響を受けます。心配がある人は、先ほどの$17,000の生前贈与を駆使して、資産減らしに励むことになります。
相続を通して、キャピタルゲイン税から逃れられる!?控除額の大きさもすごいですが、他にもアメリカには「相続で資産を増やしていく」ためのしくみがあります。そのうちの最も威力があるものに、資産の「取得費の書き換え」というのがあります。
どういうことかというと、死亡した人が生前に支払った資産の取得費が、相続が行われた時点でその時の市場価格に書き換えが行われるのです。
たとえば、死亡した人が15年前に$100,000で購入した株が$300,000に値上がりしていたとしましょう。死亡する前にその人がその株を売却すれば、売却額の$300,000から取得費$100,000を差し引いた$200,000がキャピタルゲインとなります。一方で、死亡後、息子が相続したとすると、その株の取得費が$100,000から相続時の市場価格$300,000に書き換えられ、相続後すぐに息子が株を売却するとキャピタルゲインはゼロになるという魔法のようなしくみです。
この取得費の書き換えは、株式だけでなく、投資ファンド、不動産などなど様々な相続資産に適用されます。うまく利用すれば大きく投資効果を出した資産を相続し、キャピタルゲイン税を全く払わないで売ることが可能なのです。このあたりの、生前贈与すべきか、相続させて取得費書き換えを利用するかなどの考察も、パーソナルファイナンシャルプラニングでトータルに考察することになります。
老後を日本で過ごす場合、アメリカに残した資産も日本の相続税にさらされる…と、ここまではアメリカ側の話ですが、アメリカで暮らした人が日本に帰国することになると少し大変なことになります。日本の厳しい相続税にさらされることになるからです。
日本での相続非課税枠はご存じのとおり、3000万円+600万円×法定相続人の数です。よくあるケースで、父が亡くなって、その妻、子二人が相続人と言う場合は、4800万円のみが非課税枠です。まずはアメリカの17億円という基礎控除と日本の数千万円という非課税額のギャップにあ然とします。
一生懸命アメリカで働いて蓄えた、アメリカにある資産だから、日本の相続税の対象にはならないだろう……と思いきやそんな甘さはありません。
死亡した人かあるいは相続する人のどちらかが、相続の10年以内に日本に住所があったら、日本だけでなくアメリカの資産(アメリカだけでなく全世界資産)にも日本の相続税がかかります。リタイヤして老後はふるさと日本で過ごしたいと考える人は多いのですが※3、日本に住んだ瞬間に、アメリカに残してきた家や金融資産をアメリカに住む子どもに残すのにも日本の相続税がかかるわけです。
※3 バックナンバー『円安「格安日本から出稼ぎ」報道の裏で…「老後は日本に帰りたい」在米日本人が増加中!?』にて詳しく解説しています。
この「10年以内に日本に住所があったら」という縛りは、日本の富裕層が「亡くなる前に海外移住をして日本の相続税から逃れる」ことが行われていたために作られたと聞きました。日本から出るにも、日本に帰るにも、日本の相続税を避けるのはかなり難しいということでしょう。
岩崎 淳子/ファイナンシャルプランナー
「Smart & Responsible」代表。 マーケティング戦略やアナリスト業務を経験した後、2000年に夫の転職を機に米バージニア州へ移住。子育てをしながら米国公認会計士、パーソナル・ファイナンシャル・スぺシャリトに合格。日本と全く異なるアメリカのシステムに戸惑った経験をベースに、個人向けファイナンシャルプラニングの情報提供サイトを立ち上げる。大金持ちでないからこそのプラニング・バランスのとれた家計システム・人任せにせず自分で考える姿勢をモットーにプラニングサービスを提供中。聖書をこよなく愛するクリスチャン。現在は米カリフォルニア州在住。著書に『お金が勝手に貯まってしまう 最高の家計』(ダイヤモンド社)。
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