会社員の「退職金」狙い撃ち? お得な儲け話に潜む“不都合な真実”
Finasee / 2023年3月16日 17時0分
Finasee(フィナシー)
長い会社勤めを終え、退職とともに受け取る「退職金」。その大切なお金をできるだけ有効活用したいと考えるのは当然のことでしょう。しかし、世の中には退職金を目当てにした、投資家にメリットが少ない投資プランも存在しています。
退職金プランとは?銀行のホームページを見ると、「退職金運用プラン」というタブをよく目にします。定年を迎え、退職金の運用をどうするか悩む方が少なくないのでしょう。
退職金での投資を検討する方にとって、退職金運用プランは、銀行に預けておくだけで退職金の管理ができ、高い預金金利まで得られる便利なサービスに映るかもしれません。
しかし、本当にそうでしょうか? 退職金運用プランとはどういうものなのか、2つの特徴を説明します。
1.定期預金と投資信託(orファンドラップ)の組み合わせ退職金運用プランの最大の特徴は、定期預金と投資信託、あるいはファンドラップとの組み合わせになっていることです。
ちなみに、某大手銀行のホームページを見ると、総資産に対して定期預金が50%、投資信託などが50%という資産配分で運用することになっていました。
2.定期預金の特別金利定期預金の金利は年2%と、現在の金利水準と照らし合わせるとかなり高めの利率です。これはいわゆる「特別金利」と呼ばれるものです。
普通に定期預金にお金を預けた場合、適用される利率は預入金額の多寡や預入期間の長短に関係なく、メガバンクでも年0.002%ですから、定期預金で年2%の利率はとても有利です。
退職金プランに潜む罠しかし、この手のうまい話には往々にして「裏」があるものです。決して、ホームページに掲載されている表向きの数字をうのみにして、だまされてはいけません。
特別金利は「初めの3カ月間のみ」表向きの数字に惑わされないために、実際に計算して考えてみましょう。
まず、退職金運用プランの定期預金が年2%の利率だとしても、これは大体の場合3カ月物の「初回特別金利」と表示されています。つまり、運用で年2%の特別金利が適用されるのは、「初めの3カ月間」のみです。
例えば退職金が1000万円で、それをこの退職金運用プランに預けたとしましょう。ホームページの通りに、定期預金と投資信託(もしくはファンドラップ)の比率を50%対50%にします。
ファンドラップにすると、複数の投資信託の組み合わせになり、手数料計算がややこしくなるので、便宜上、投資信託で運用することを前提にしています。
この場合、定期預金に500万円、投資信託に500万円というポートフォリオになります。では、500万円を3カ月間、年換算2%の利率で運用した場合、3カ月間で得られる利息はいくらになるのでしょうか。
ざっくりした計算ですが、税引き前で2万円になります。ちなみに税引後だと、1万5937円です。通常の定期預金だと利率が年0.002%で、税引き後の手取り利息は20円ですから、3カ月間の特別金利で1万5917円の経済的メリットを得られたことになります。
ただし、特別金利の適用は当初3カ月間のみで、それ以降は通常金利になると明記されていますから、その後は年0.002%で計算された利息しか得られません。今後、金利水準が大幅に上昇すれば話は別ですが、現在の金利水準が続くなら、定期預金に預けた500万円はほとんど増えないことになります。
投資信託の購入手数料で、定期預金の利息が帳消しになるだからこそ、本プランで組み合わせたもう一方の投資信託で増やすことが狙いだと思いますが、ここにもちょっとした「だまし」が潜んでいます。
わずか3カ月間であっても、定期預金に年2%の利率が適用されることで有利に運用できた印象を受けますが、1000万の退職金のうち、もう半分の500万円で投資信託を購入すると、どうなるでしょうか。
投資信託を購入する際には購入時手数料が取られます。ざっと金融機関が扱っている購入時手数料を見ると、購入金額に対して2.2%~3.3%となっています。仮に2.2%で計算するとしましょう。2.2%の購入時手数料がかかる投資信託を500万円分購入すると、購入時手数料は11万円です。
もうお気付きかと思いますが、いくら頑張って年2%もの特別金利を適用したとしても、投資信託の購入時手数料で帳消しになってしまうのです。特別金利で1万5917円の利息が3カ月間で得られたとしても、投資信託の購入時手数料で11万円も持っていかれてしまいます。
「購入時手数料が2.2%でも、定期預金の利率が2%だから、それほど差はないでしょう」というのは、大きな勘違いです。年2%の定期預金利率は3カ月間しか適用されないので、現実にはその4分の1程度の収益にしかなりません。
一方、投資信託の購入時手数料は、投資信託を購入した時点で2.2%を払わされるので、表面的な数字はほぼ同じでも、トータルの収支で考えると、これは圧倒的に支払い超過なのです。
手数料無料の投資信託にも、信託報酬があるしたがって、この手の退職金運用プランを活用して運用するのであれば、投資信託は購入時手数料を取られない、「ノーロード型」を選ぶべきなのです。しかし、残念ながらノーロード型投資信託は扱いが非常に少なく、選択の余地が狭いのが現状です。
それに、たとえ運よくノーロード型投資信託に良い商品があり購入したとしても、投資信託には信託報酬というコストが日々かかります。
信託報酬は年率で決まっていて、投資信託の保有期間に応じて、日割りで信託財産から差し引かれていくものです。つまり、投資信託を保有しているだけで、自動的にコストが差し引かれていくこの料率が、年2%前後かかります。
つまり定期預金の特別金利から得られる経済的なメリットは、投資信託を保有しているうちに無くなってしまうのです。
***このように考えると、「退職金運用プランの特別金利って、一体何なのだろうか」とさえ思えてきます。
購入時手数料がかかる投資信託を選んだら、特別金利よりもはるかに高い購入時手数料が取られ、かといってノーロード型投資信託を選べても、投資信託を保有している間に特別金利の経済的メリットは失われてしまいます。
「特別金利」などという、いかにも特別感を全面に打ち出したような言葉を用いていますが、これには全く何の経済的メリットも見いだせないことが、お分かりいただけたのではないかと思います。
長年勤めて得た退職金。大切なお金ですから、表面的な数字に惑わされず、しっかり検討した上で有効活用していくことが必要と言えるでしょう。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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