iDeCoの口座管理、DX促進で負担軽減に期待
Finasee / 2023年3月24日 11時0分
Finasee(フィナシー)
iDeCoは、手数料がかかります。加入時に2829円、その後毎月の口座管理料と投資信託の信託報酬、そして受け取る際に約400円の給付手数料がかかります。よく、「NISAには口座管理料なんてないのに、iDeCoは費用がかかるから損だ」と言われます。今回は、加入後残高がある間ずっと負担する、その口座管理料に焦点を当てて引き下げ余地はないのか考えてみたいと思います。
口座管理料は、3つの機関がそれぞれの業務に対して提示している費用の総合計です。1つ目は国民年金基金連合会の加入者手数料、加入者ごとの拠出上限に見合った掛金収納の費用として月額105円がかかります。次に、全体の財産管理をしている信託銀行が資産管理手数料として(ほとんどの信託銀行が)月額66円、そして3つ目は運営管理機関、つまりみなさんが契約相手としている銀行や証券会社に支払う手数料です。制度や商品の情報提供、ひとり一人のiDeCo口座の細かい管理、問い合わせ対応等を担う対価として支払う手数料になります。
国民年金基金連合会や信託銀行の手数料は制度開始以来上がったことはあっても下がったことはありませんが、これまで多くの運営管理機関が、顧客獲得のために手数料の引き下げを行ってきました。現在運営管理機関として厚生労働省に登録しているのは157社(「iDeCoの制度概況(令和4年3月末現在)」)あるのですが、そのうち17社が自らの手数料部分については0円に設定しています。
この口座管理料の値下げ合戦は2017年1月に公務員や専業主婦もiDeCoに加入できるようになった時に端を発しています。それまでは競争でやや下がりつつあったものの、口座管理料の平均値は月額600円、年間では7200円ぐらいでした。今考えると随分高かった印象です。
口座管理の負担軽減に必要なのは…では、その当時運営管理機関が儲かっていたかというと、そうでもありません。収入の大半は運営管理機関の収入になるのではなく、口座管理の業務を委託している記録関連運営管理機関(RK)への委託料として支払われていました。RKは加入者の数十年にわたる毎月の買い付けの記録管理だけでなく、前職の企業型確定拠出年金から持ち込んだ資産に付随する情報などもすべて管理・保存しています。
その膨大なデータに加え、増え続ける商品のデータ、さらには制度改正に伴って一人一人に付随して管理すべき項目も増えています。そんなこともあってか、加入者数がこの5年で10倍近くになったにもかかわらず、委託手数料単価が大幅に下がったという話は聞こえてきません。
結果、先述の0円手数料を掲げているネット証券をはじめとする大手運営管理機関では、毎月大幅赤字を積み上げつつ、その顧客がiDeCo以外で手数料を落としてくれることを前提にビジネスを展開しているものと思われます。
ただ、iDeCo以外で高い手数料の金融商品を売りつけられるのは加入者である顧客にとって本意ではありませんし、金融機関側にも顧客本位の業務運営が問われる中、この状態は好ましいものではないと思います。加入者にとっても、取り扱っている銀行・証券、そして記録関連運営管理機関にとってもサスティナブルな三方良し、を目指すべき時期に来ていると思います。そのために急ぎ取り組むべきは、口座管理の負担を下げる手続き面の簡素化、デジタル化です。
証券総合口座無料化の裏に株券の電子化若い方はご存じないと思いますが、かつて証券会社の口座を持つには、口座管理料として年間3000円ぐらいの費用が掛かかりました。この費用がなくなった背景には、「株券の電子化」というデジタル化が大きく寄与したといわれます。昔は「株式」は紙で、各証券会社は顧客の株券を預かるために巨大な金庫を持っていました。野村証券は確か日本橋本店の地下に体育館並みの金庫があり、口座番号を入力するとお預かりしている株券が出てくる大型配送センターのような設備も兼ね備えたものだったそうです。
紙の株券は株主と証券会社にとって保管・管理、名義書き換えなどの手続きといった負担、さらには盗難や紛失のリスクがありました。外国人株主の外圧もあって1990年代に法整備が行われ、株券の電子化が推し進められました。2009年1月5日に、紙に印刷されたすべての上場株券が無効となり、証券会社の株券・保管コストは大幅に下がったのです。
このように、デジタル化することは費用と手間の逓減につながるのに、iDeCoではいまだ紙が多いのはなぜなのでしょうか。いろいろ理由はあると思うのですが、根底にはこれまでの手法を変えることで起きるかもしれないリスクを取れない金融機関ならではの慎重さ、言い方を買えれば臆病さがあると思います。金融機関はお金という信用を扱う生業なので、何事もなくて当たり前、何か問題が起きた場合には徹底的に非難されます。「変えた」ことが直接の原因でないとしても、その関連で起きうるトラブルでも非難を浴びることでしょう。
iDeCoも、菅政権が推し進めた「脱ハンコ」や、厚生労働省のリーダーシップのもと、加入手続きのWEB完結化など2021年1月以降少しずつ変わってはいるのですが、加入者数が300万人を超えた今、口座の管理や手続きのデジタル化について、本格的にスピードを上げて議論すべき時期に来ていると思います。
例えば、加入者情報や商品購入などの履歴情報の中で保管データの対象を絞り、保存年限の短縮などを法によって環境整備できれば、金融機関も安心して取り組めます。記録関連運営管理機関の運営コストが下がることは、加入者が一人増えるごとに赤字が増えている運営管理機関の逆ザヤ解消に役立ち、加入者へのサービスの向上・改善につながります。
噂では、記録関連運営管理機関のシステムの中には'80年代まで盛んに使われていたプログラム言語「COBOL」で書かれたものもあるとか。使いこなすことができるエンジニアも限られ、コストも拡張性も乏しいこのシステムは早晩、大幅に変えなければなりません。新しいシステムの検討が始まる前に未来につながる要件定義を急ぐべきだと思います。
併せて、記録関連運営管理機関だけでなく、国民年金基金連合会の加入資格の確認等の業務も、頻度とスピードをアップするような合理化・デジタル化を進めていただき、「信じられないほど時間がかかるiDeCoの手続き」という汚名を返上すべく努力していただきたいと思います。
加入者も意識の改革が必要 消費者が変わればコストも下がる最後に、私たち加入者・利用者も手続きや管理がデジタルになっていくことに合わせて、自発的な行動が求められます。投資信託は、一般に購入する際は、目論見書でその概要を理解したかを必ず確認されます。これは、購入者をトラブルから守るためです。「お金を投じる投資信託の特性や目減りする可能性、負担するコストなどを理解していますよね?」ということを確認されているわけです。
ネットで購入する際も、確認欄に「はい」とチェックを入れないと購入できない仕組みになっています。「はい」をクリックするということは、「理解した上で購入しています」ということですから、わからないのであればコールセンターやチャットなどで確認する、またはそのことについて調べて納得するという能動的な行動を消費者は求められていることになります。残念ながら、消費者にとってネットで口座開設ができ、運用指図ができるということは、負担軽減ばかりではありません。
iDeCoでも残高通知を書面でなく、メールでの通知に切り替えたとすれば、郵便物で届いていたら見る、という受け身の行動だったものを、自ら能動的に見に行く必要があります。年1回見に行くというようなことはなかなか現実的ではありませんから、マネーフォワードのような金融資産を一元管理できるアプリに紐づけして手間なく確認できるようにしておくことも必要になります。
このようにデジタル化は 加入者も、運営管理機関もこれまでと変わること、つまり、ちょっとした脱皮を求められることになるのですが、その先には、お互いにとって望ましいサービス環境が続くという、明るい未来が待っていると思います。地味な話ですが、手続きのデジタル化、本気でオープンに急ぎ議論が開始されることを期待しています。
大江 加代/確定拠出年金アナリスト
オフィス・リベルタス取締役。大手証券会社にて22年間勤務、一貫して「サラリーマンの資産形成ビジネス」に携わる。確定拠出年金には制度スタート前から関わり、25万人の投資教育も主導。確定拠出年金教育協会の理事として、月間20万人以上が利用するサイト「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及・活用のための活動も行っている。
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