公務員カップルがタワマン購入で直面する現実…高年収世帯が陥る悲劇
Finasee / 2023年3月31日 11時0分
Finasee(フィナシー)
不動産は、居住用、投資用、相続・節税用とさまざまな目的で取り引きされていますが、多額の借金(ローン)を伴うことがほとんどであること、頻繁に経験するものではないこと、情報の非対称性の問題が大きいことから、「こんなはずではなかった」というケースが後を絶ちません。
この連載では、不動産にまつわる数々の相談に乗ってきた不動産鑑定士の福田伸二さんが、皆さんの「不動産リテラシー向上」に役立つ情報を事例と共にお届けしていきます。
不動産鑑定士・福田伸二さん
*** 「アパート経営で一切を失った」…なぜこんなことが起こる?弊社には不動産投資を希望する方から、相続のご相談の方、新規のマイホーム購入を検討する方まで、さまざまなお客さまがご相談にいらっしゃいます。そういった方々にはまずはマーケットのご説明をさせていただいています。この連載でもマーケットの説明をしながら、個別の事例を紹介していきたいと思います。
直近でいえば、首都圏の不動産の価格は高騰し続けています。特に東京23区内では、すでに普通のサラリーマンでは手が出せないほど過熱しているのですが、買いたいあまり背伸びし過ぎているような方も多く見受けられます。
先日も公務員のご夫婦が新築マンション購入のご相談にいらっしゃいました。ご主人が年収600万円、奥さまが年収500万円。購入を検討している物件を見せていただいたら、1億1千万円なのです。確かに、世帯年収の属性からすれば、ローン審査は通ります。しかし、普通の人がこのクラスの物件を買ってしまったら、その後の10年、20年はローンを支払うだけの人生になってしまいます。不動産価格が上がり続ける中、「来年は買えないかもしれない」という焦りが、消費者のマインドを高嶺の花に向かわせています。
また、こういったケースもあります。どうしても先祖代々の土地を守りたいという方に不動産業者から「あなたの土地にアパートを建てると評価額がグッと下がり、資産がマイナスになって相続税がかかりませんよ」というシナリオを提案されます。そして、知識もノウハウもないまま、銀行から借り入れをしてアパートを建ててしまう。「こんなところでアパート経営なんて成り立つわけがない」という土地にも、アパートが建っている状況です。結果、経営がうまくいかなくなって、土地も建物も手放してしまう。子どもに土地を残すどころか、借金だけが残ってしまいます。こういう事例は、とても多いです。
銀行は担保があるので、お金を喜んで貸してくれます。しかし、不動産業者の利益分はもちろん、借り入れのお金も返さなくていけませんし、そこには金利も乗っています。そのお金をアパート経営しながら返していかなくてはいけないというのは、なかなか大変なことなのです。
不動産はプロと一般の人が非対称な業界なぜこういったことが起こるのでしょうか。問題は、不動産では不動産業者と一般の方の持つ情報やリテラシーに大きな「非対称性」があるということです。十分な知識や情報がある上で、お客さまがリスクを取るのは構わないのです。しかし、不動産に関する基本的な知識や情報を相手に周知せず取引が行われているケースが、あまりに多過ぎると感じます。
不動産市場は金融市場と違い、相対取引なので、価格が決まっていないのも特徴です。買いたい人が「この値段で買いたい」と言ったら、そこに誰かが口を挟むことはなかなか難しいですし、不公平な取引も規制しにくいのです。
また、借入を前提として取得することが多い資産であることも大きいですね。例えば株式投資であれば、基本的に自己資金での取引になります。でも、マイホームの購入や不動産投資はドンと借り入れをしてから行うので、うまくいかないとマイナスを大きく抱える可能性が十分あります。最悪の場合は自己破産も……。ですから、実はかなり慎重に考えていただきたい投資であり、資産であるということです。
弊社に来ていただいたお客さまにまずマーケットのお話をするのは、「不動産価格は変動する」という基本的なことを知っておいていただきたいからです。しかも、この変動にはサイクルがあります。不動産の価格は上がったら下がるということを繰り返しているのです。
10年続いた不動産の好況に調整局面が来る!?実は近年、このサイクルが壊れてしまっています。日本の不動産価格はこの10年間上がりっ放しです。ですから、不動産価格は下がることもあるという当たり前のことを皆さんが忘れてしまっているのではないかと思います。特に不動産投資をされている方は、ここ10年は損をした経験がないのではないでしょうか。
書店に行けば、不動産投資の本がたくさん並んでいますよね。本が書かれた日付を注意して見てみてください。著者の方は、価格が安い時に買って、価格が上がってから売っているはずです。ここ10年は右肩上がりの市場が続いている訳ですから、大きく失敗する人も少なく、不動産投資に興味を持つ人が増えたのも当然です。不動産投資はブームになり、将来に不安をもつサラリーマンも参入する時代が来ています。
ただし、これから不動産を買おうとしている人は、注意が必要です。過熱した市場には必ず調整が入るからです。そのタイミングはいつか。ひとつには、4月の日銀総裁の交代が節目になる可能性は高いと思います。政治的なイベントは、不動産サイクル変動のシグナルになることが多いのです。個人的には、今は不動産投資のタイミングとしては難しいと考えています。
●なぜ今“難しい”タイミングなのか? その理由と、それでもチャンスがある人はどんな人なのか…… 後編【いま不動産購入には慎重になるべきこれだけの理由…“損する人”が知らないこと】でデータを交えてお伝えします。
福田 伸二/不動産鑑定士
POLUSグループを経て、大和不動産鑑定株式会社に入社し、東京本社鑑定部課長、鑑定証券化部次長を最後に退社。その後、売買仲介・コンサルティング業務に従事し、J-REIT上場のアドバンス・レジデンス投資法人の運用会社で外部委員も務める。毎年100件以上にわたる収益物件の鑑定評価書の発行や、東京都税事務所のアドバイザーとして相続税路線価のアドバイス業務に従事。2020年にファイナンシャルスタンダード入社。
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