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投資は素人だった元常務理事が「にわか勉強術」を伝授

Finasee / 2023年3月27日 15時0分

投資は素人だった元常務理事が「にわか勉強術」を伝授

Finasee(フィナシー)

今回は少し趣向を変えたお話をします。

経済記者として金融や証券、情報通信などの分野で一定の取材経験はありました。しかし年金運用は全く素人でした。そんな私が企業年金基金の常務理事として、どのように勉強してプロたちを相手にキャッチアップ(できたかどうか分かりませんが)したのか。また、企業年金を退いた後も、この分野で少しずつ知見を広げながら記事を書いています。今回は、自分なりの「勉強術」の一部をご紹介したいと思います。

お伝えしたいポイントは3つです。

 1 勉強は幅広く。食わず嫌いをしない

 2 特定の分野について、そのジャンルの入門書をできれば3種類読む。
   普段は複数の新聞や番組を比較しながら読む、見る

 3 無料のセミナーやYouTubeなどを積極的に利用する

全く関心のないテーマにも触れてみる

つい先日、都内で機関投資家向けの「森林・農地投資」に関するセミナーに出席しました。日本の運用会社が、グローバルに森林や農地に投資するオーストラリアの会社のトップ(CEO)を招いたものです。

実は私自身、企業年金基金にいたときは、この森林・農地投資というものがピンときていませんでした。米国カリフォルニア州などで頻発する山火事のニュースなどを見るにつけ、収益はともかく損失をしっかり管理できるのだろうかと懐疑的になってしまいます。また、こうしたジャンルのファンドがよく「ESGに貢献できる」と強調しているのも、「企業年金は運用成績がすべて」と考えている私としては「関係ないな、うちには」という気持ちでした。

ただ今回は、企業年金を主な取材対象としている者として、それこそ「食わず嫌い」しないで最新の動向を知っておこうと、あまり期待せず会場に足を運んだわけです。

結果的には意外な収穫がありました。

まず驚いたのは、このファンドが2005年の創設以来、リーマン・ショック(2008年)、コロナ禍を含めて一度も運用成績がマイナスになっていないこと。2009年の4%が最低リターンで、2020年も約10%。平均すると12%前後の運用成績とのことでした。

また山火事への対応として ①火災保険でしっかりカバーする ②投資先の森林の密度を減らす ③ドローンで森林をパトロールし、初期消火の態勢を強化する――といった方策をとっているそうです。

そもそも、このファンドの地元ともいえるオーストラリアのタスマニア州やニュージーランドは湿度が高く山火事は起こりづらい、と説明されました。

会場から「国土の75%が森林の日本は投資対象にならないのか」という質問があったのに対しては、「日本は森林への道路が未整備の場合が多く、投資するか検討中」というのがCEOの答えでした。

なるほど。知らないことばかり。いずれ、どこかで役に立ちそうな内容でした(現に今、こうして記事のネタにしています)。

大学1年で出会った立花隆の「勉強術」

今回のテーマは、門外漢だった私が企業年金の運用をどのように勉強したのか、ということですが、振り返ってみると新聞記者という職種自体、あらゆる取材テーマに関して「門外漢」なわけです。

多くの一般紙の場合、最初に配属された地方支局で警察取材からスタートします。事件・事故の発生から、容疑者の逮捕、起訴、そして裁判。警察や検察の専門用語や司法手続きなど、相当突っ込んだ内容を専門書や六法全書を斜めに読みながら、怖い刑事やダンマリ検事に恐る恐る話を聞かなければなりません。「そんなことも知らないで記者をやっているのか」と罵倒されながらです。「にわか専門家」の極致です。

そんなつらい時代に思い出したのが、大学1年生の時に読んだ1つの記事でした。ジャーナリストでノンフィクション作家だった立花隆さん(2021年逝去)が、『法学セミナー』という雑誌で大学の新入生向けに専門分野の勉強の仕方を開陳したものです。

立花さんは『田中角栄研究』を書いて首相退陣のきっかけを作り、その後も『脳死』や『宇宙からの帰還』といった専門的で深い内容の著作で知られています。

その立花さんが、難しいテーマや専門家と対峙する際のノウハウを以下のように披露していました。

 ■まず、そのテーマやジャンルについての入門書を3冊探して読む

 ■同じテーマでも著者によって切り口や内容が異なるので、
  3冊読み終わると全体の構造が何となく見えてくる

 ■そうすると、本格的な専門書の選び方や読み方が分かるようになる

――という趣旨だったと記憶しています。

新聞記者時代の私は、最初の警察担当を離れて市役所や県庁も取材。経済部に移ってからも多くの分野を担当しましたが、そのたびに、「立花隆の流儀」を踏襲しました。

新聞5紙を毎日読んだ日々

私は「整理部」という部署にも在籍しました。記事を取捨選択し、見出しをつけ、レイアウトなどの編集作業を朝刊、夕刊ごとに行います。このときは他紙も精読する必要があり、朝日、毎日、読売、日経、産経の5紙の朝夕刊を、文字通り隅から隅まで読んでいました。

取材や編集の現場を離れてからも、5紙を比較して読む習慣は続きました。さすがに現在は朝日と日経の2紙だけですが、「首相退陣」といった大きなテーマになるとコンビニで残り3紙を買い、読み比べてしまいます。

時間もお金もかかるし、迂遠なように映るかもしれません。でも、こうした作業をすると、全く別のテーマが何かのきっかけで有機的につながり、一網打尽に理解しやすくなる。そういった経験則があって、続いているのだと思います。

セミナーやYouTubeは情報の宝庫

私はジャズを聴いたり見たりするのが好きで、10年以上前からYouTubeの相当なヘビーユーザーです。コロナ禍以降、リアルなセミナーなどが開かれなくなって困っていたら、いつの間にかYouTubeで株式や為替、金利などに関する各種セミナーが数多くアップされているのを知りました。

これらは主に個人投資家向けで、企業年金など機関投資家目線とは異なる部分もありますが、バックグラウンドとなる経済環境や市場動向などについては共通した要素であり、大いに参考になりました。

こういったセミナーも、「立花隆流」に同様のテーマのチャンネルを複数視聴することで、理解が立体的に深まります。最近では対面でのセミナーも復活しつつありますね。新聞の広告欄などをチェックしていると、タイムリーな内容のものが結構あります。1つの会場に人が集まり、その反応を見ながら進められる講演や討論は、聴く側への浸透度がオンラインとは大きく違うと痛感しています。

投資というのは、ジャンルが異なっても背景が共通であったり、意外な部分でつながっていたりします。どうか「食わず嫌い」せず、無料のセミナーなどを活用して、広い範囲での知見の収集に励んでみてください。

 

阿部 圭介/経済ジャーナリスト

1980年、朝日新聞社に入社。金沢、大津両支局を経て整理部で紙面編集を担当。その後、経済部記者として金融、証券、情報通信や運輸省(現在の国土交通省)などを取材。経営企画室長、大阪本社編集局長、不動産子会社の朝日ビルディング社長を経て2022年3月まで朝日新聞企業年金基金常務理事。札幌市出身。

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