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岸田政権が進める“転職の後押し”のための政策「失業給付の見直し」に潜む懸念点とは?

Finasee / 2023年3月29日 11時0分

岸田政権が進める“転職の後押し”のための政策「失業給付の見直し」に潜む懸念点とは?

Finasee(フィナシー)

2023年2月15日に開催された「新しい資本主義実現会議」で、岸田総理は「自己都合での離職に対する失業給付のあり方を見直す」と発言した。以前から同会議で議論されてきた、労働移動の円滑化に向けた動きと見られている。

このような発言が出された背景には、どのような狙いがあり、今後、雇用保険制度がどう変わっていくと考えられるのだろうか。

この記事では、現在の雇用保険制度の内容と失業給付見直しによってどのような影響が予測されるかについて解説していく。

雇用保険制度は離職理由により差がある

まずは、雇用保険について解説する。雇用保険は、失業者の再就職支援を目的とした制度だ。雇用保険の加入対象となる従業員を雇用している企業は、必ず加入しなければならない。

失業者が再就職するまでの期間に安定した生活を送れるよう、失業給付金で支援を行う。給付を受けるためには、失業者が雇用保険に所定期間加入しており、かつ労働意欲を持つという条件を満たしていなければならない。

離職の理由が「自己都合」か「会社都合」かによって受けられる支援内容に違いがあることは、多くの人がご存知だろう。

給付対象者は、離職理由によって異なる区分に分類される。自己都合離職の失業者は「一般受給資格者」、会社都合の離職者は「特定受給資格者」とされ、特定受給資格者のほうが支援内容が手厚い。

また、労働契約期間満了による失業や、労働を継続できない正当な理由によって失業した人は「特定理由離職者」とされ、特定受給資格者と同等の諸条件で支援を受けられる。

失業給付金の金額は、雇用保険の被保険者であった期間、年齢、過去半年間の給与額により決定されるが、給付を受けられる期間の長さは区分によって異なる。一般受給資格者の給付期間は90日〜150日間。一方で、特定受給資格者の給付期間は90日〜330日となっており、両者の差は大きい。

給付に必要な被保険者期間についても、一般受給資格者は離職日以前の2年間で通算満12ヵ月必要だが、特定受給資格者は離職前の1年間に被保険者であった期間が満6ヵ月あれば受給可能となっている。

さらに、特定受給資格者には、給付制限期間がないという点も大きな相違点だ。特定受給資格者は、ハローワークで雇用保険手続きを行って受給資格を認められた後、7日経過した日の翌日から給付が開始される。

一方、一般受給資格者の場合は、最初の7日間に加えて2ヵ月間の給付制限期間が定められている。これにより給付開始までに2ヵ月と7日間、待たなければならないのが自己都合離職の現状だ。

ちなみに、雇用保険は「失業保険」という名称で呼ばれることも多い。呼び方は違えど、どちらも同じ制度を表す言葉だ。

もともと日本には、被保険者が失業した際に失業保険金を支給する「失業保険法」という法律が1947年に施行されている。しかし、国内を取り巻く経済状況が時代とともに変遷していくに連れ、制度の見直しが必要となっていった。結果として、1975年に失業保険法は廃止されたが、同年に代わりとなる法律として、現行の「雇用保険法」が施行されている。

かつての失業保険法時代の名残があるため、現在でも失業保険という呼び名が存在しているのだ。

失業給付の見直しは「構造的な賃上げ」が目的

岸田首相が冒頭の発言をした新しい資本主義実現会議は、2021年の第1回から数を重ね、2023年2月で14回目の開催となった。

同会議は「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした岸田政権の経済政策「新しい資本主義」実現を目的として開催されている。

岸田政権は、新しい資本主義における総合経済対策として、賃上げが継続的に拡大しつづけていく「構造的な賃上げ」を最優先で目指す意向だ。そのためには「賃上げ」「労働移動の円滑化」「人への投資」の3つの改革が必要だという。

今回の会議でも、岸田総理は「構造的な賃上げの実現には労働移動の円滑化が必要」と発言。自己都合離職の場合の失業給付の見直しは、その目的達成への施策と位置付けられている。

雇用保険の見直しは、円滑な労働移動にどのようにして貢献するのだろうか。

例えば、労働者がキャリアアップや転職を希望していても、就職したままでは時間が取れず実現に向けた活動をすることが困難な場合もあるだろう。しかし、転職活動やスキルアップのために離職する場合、通常、自己都合での離職となるため、一般受給資格者として受給開始まで2ヵ月以上待たなければならない。

スムーズに転職先が見つかれば問題ないが、そうでない場合、ある程度の貯蓄がない人には大きなリスクが伴う。今回の失業給付の見直しは、このリスクを軽減させる内容になると考えられる。

仮に、失業給付の見直しによって一般受給資格者の給付制限期間が撤廃や短縮されるのであれば、自己都合による離職であっても、素早く給付を受けられるようになる。そのためキャリアアップや転職を希望する人への後押しとなるだろう。

岸田政権の狙いは、IT・デジタルやグリーンなどの成長産業で働く人材の増加を促すことにある。また、従来の日本企業に見られた終身雇用と年功序列の文化に変化をもたらしたいという思惑もあるようだ。

今後は欧米社会で広く見られる、特定の職種への専門スキルや経験を活かして働く「ジョブ型雇用」を日本でも進めていくと表明している。ジョブ型雇用では、勤続年数にかかわらず実力や成果によって報酬がアップするため、専門分野における高い能力を持つ人材の賃上げが見込まれるだろう。その実現のためにも、労働移動の活性化は押さえておきたいポイントだ。

このような政権が掲げる展望を考えれば、雇用保険の見直しによって自己都合離職者の失業給付までの期間短縮が実施される可能性は高い。

企業による自己都合退職強要が懸念点

雇用保険の見直しによって、成長産業への人材流入活性化が期待される半面、企業による自己都合退職の強要増加を懸念する声もある。

会社都合による解雇を行う場合、従業員に支払う退職金が割り増しされるといった制度を規定している企業は多い。そのような企業にとって会社都合での解雇は、自社都合の離職と比べて負担が大きくなってしまう。

また、新しい従業員の採用や従業員育成を目的とする雇用関連の助成金は、会社都合による解雇を不支給の要件としているものが多い。助成金の支給を受けている企業が解雇を行うと、助成金の返還が必要となることもあるだろう。

このような理由から、企業側から解雇する意向を示していても、従業員に対して「一身上の都合」として退職願の作成を進めるなど、企業が自己都合扱いの離職を促すケースは少なくないという。

前述の通り、現行の制度では自己都合の離職に給付制限期間が設けられている。そのため、解雇された際に「できるだけ早く失業給付を受けたい」と考える失業者の場合、企業から自己都合退職を押し付けられたとしても実際に切り替える人は多くないだろう。

しかし、雇用保険の見直しによって、自己都合離職に対する給付制限期間が短縮されるとなると状況は一変する。失業者が会社都合で解雇されたとしても、自己都合での離職に切り替える心理的ハードルが低下し、企業による自己都合離職の押し付けが横行するのでは、と懸念されている。

そもそも自己都合による給付制限期間の設定があるのは、意図的に就職と離職を繰り返して受給する行為を防ぐためだ。また、労働者が安易に転職を図ることを防止することも目的としている。制限期間を変更して抑止力がなくなった場合、労働市場にどのような影響を及ぼすかは計り知れないだろう。

今後の見直しにより制度がどのように変更されるかは、現状ではまだ不透明だ。本来の制度の意図と異なる使われ方が横行することがないような設計に期待したい。

田中 雅大/編集者

ペロンパワークス・プロダクション代表。編集プロダクション、出版社勤務、『MONOQLO』『日経ビジネスアソシエ』『サイゾー』等の編集記者、Webメディア運用を経て、ペロンパワークス・プロダクション設立。編集記者時代のフィールドは金融とデジタル製品。AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士。

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