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「60歳で定年して、企業年金をもらう」は過去の話に…令和の年金受給戦略は“WPP”

Finasee / 2023年4月11日 11時0分

「60歳で定年して、企業年金をもらう」は過去の話に…令和の年金受給戦略は“WPP”

Finasee(フィナシー)

今注目の書籍の一部を公開して読みどころを紹介するシリーズ。今回は公的年金・私的年金等の受取方法および税制などの「出口戦略」について解説した谷内陽一氏の『WPP シン・年金受給戦略』の第1章を特別に公開します(全3回/本記事は第2回)。

●第1回(なぜ私たちは「老後」を恐れるのか? 不安を引き起こす“3大要因”とは)を読む

※本記事は谷内陽一著『WPP シン・年金受給戦略』(中央経済社)から一部を抜粋・再編集したものです。

これがWPPモデルだ

(1)WPP(継投型)モデルとは

WPPモデルによる継投策の基本形は、先発、中継ぎ、抑えの3つの柱から成り立ちます。そして、この3つそれぞれに対応するのが、「就労延長(Work Longer)」、「私的年金等(Private pensions)」、「公的年金(Public pensions)」です。

・先発(スターター):   就労延長(Work longer)
・中継ぎ(セットアップ):
 私的年金等(Private pensions)
・抑え(クローザー):   公的年金(Public pensions)

【先発(スターター)】就労延長(Work longer)

就労延長とは、文字どおり「就労する期間を延ばすこと」であり、働けるうちはなるべく長く働くというものです。わが国では現在、「生涯現役社会」を実現するべく、雇用・労働法制の改正が相次いで行われています。高齢者が年齢にかかわらず意欲と能力に応じて働ける環境が整備されつつあることは、就労延長を行ううえでは大きな追い風となっています。

【中継ぎ(セットアップ)】私的年金等(Private pensions)

次に、私的年金等が野球における「中継ぎ」、それも勝ちパターンで登板する「セットアップ」として、就労引退から公的年金の受給開始までの間をつなぐ役割を担います。

なお、WPPモデルにおける私的年金等は、企業保障(退職一時金・企業年金などの退職給付制度)や個人保障(貯蓄・個人年金などの自助努力手段)など、さまざまな制度・金融商品を総動員します。これは、野球における「中継ぎ」も、1人の投手だけでなく複数の投手(中継ぎ陣)を起用することと同じです。

【抑え(クローザー)】公的年金(Public pensions)

最後に、公的年金が野球における抑えの切り札(クローザー)として、人生の終盤を締めくくる役割を担います。

公的年金の最大の機能は終身給付(終身年金)、すなわち、一度受け取り始めたら亡くなるまで受け取ることができる点にあります。これは、人生という「いつ終わるかわからない試合」の終盤を任せるリリーフエースにとっては欠かせない機能です。

また、わが国の公的年金には、受給開始年齢を65歳よりも遅らせることで年金額が増加する「繰下げ受給」というしくみがあり、これを活用することで終身給付の厚みをさらに増すことができます。ます。受給開始時期を柔軟に選ぶことができ、かつ増額された年金額を終身にわたり受け取ることができる繰下げ受給は、いわゆる「人生100年時代」では実に有効な選択肢です。

(2)WPP(継投型)モデルがもたらす効果

WPPモデルの考え方自体は、実は特段目新しいものではありません。わが国では、退職から公的年金の受給開始までの間に私的年金を活用することを「つなぎ年金」と称しますし、同様の主張は過去にもさまざまな研究者が提唱してきました。

しかし、WPPは、私的年金等による中継ぎに「就労延長」と「公的年金の繰下げ受給」を組み合わせることで、私たちの老後生活をより盤石なものにする効果があります。その効果とは、次の4つです。

①就労延長の効果 ~さまざまな面で老後収入の増加に寄与~

就労延長のメリットとして、資産運用とは異なり収入が確実に得られることがまず挙げられます。就労延長により引退時期を1年先延ばしにすると、引退後に向けた準備期間が1年長くなり、かつ引退後の期間も1年短くなります。就労延長は、老後資金準備にとって二重の意味でプラス(準備期間の延長&取崩し期間の短縮)になります。

さらに、会社員として就労する場合、勤務先が厚生年金保険の適用事業所あるいは企業年金の実施事業所であれば、そこでの勤続期間は公的年金の被保険者期間や企業年金の加入者期間に算入されるため、将来の公的年金・企業年金の増加が期待できます。

②公的年金の効果 ~終身給付は公的年金保険が最も効率的~

先ほど「公的年金の最大の機能は終身給付(終身年金)である」と述べましたが、じつは、終身給付は私的年金よりも公的年金で提供するほうが効率的なのです。

終身給付は、「不幸にして早期に亡くなった方」の給付原資を「想定以上に長生きしている方」へ移転するという加入集団内でのリスク移転を行う前提で制度が設計されています。そのため、長生きする自信のある方がこぞって加入してくる可能性の高い私的年金よりも、長生きする方もそうでない方もまとめて強制加入させる公的年金のほうが、効率的(同じ年金額なら保険料が低額 or 同じ保険料なら年金額が高額)な終身給付の提供が可能なのです。終身給付という機能を有する公的年金は、老後のための単なる貯蓄ではなく、国民全体で長生きリスクに備える「保険」なのです。

これは、貯蓄や資産運用では逆立ちしても真似できない機能です。

余談ですが、「長生きリスク」という言葉を使うと「長生きはめでたいことなのにリスクとは何事か!」とご立腹する方を稀に見かけます。もちろんそのような意図はなく、長生きすること自体は非常に喜ばしいことです。本書では、長生きすることで生活資金が枯渇してしまうかもしれないリスクという意味で長生きリスクという言葉を用いますので、ご承知おきください。

③私的年金等の効果 ~自助努力の「目標」が明確になる~

WPPモデルでは、「先発」の役割を就労延長が、「抑え」の役割を公的年金がそれぞれ担うため、私的年金等による自助努力の範囲や目標が明確化するのも大きなメリットです。

自助努力による資産運用や資産形成が喧伝されるようになって久しいですが、自助努力で老後に備えるうえでの最大のハードルは、老後になって自分が「いつ死ぬか」あるいは「いつまで生きるか」を正確に予見するのが困難なため、いくら準備すればよいのかが不明な点にあります。「老後生活に数千万円が必要」と言われてもその金額の高さに意気消沈するだけですし、仮に数千万円を準備できたとしてもそれで事足りる保証はありません。

しかし、自助努力で備えるべき範囲が就労引退から公的年金を受給開始するまで(5~10年程度)と明確になれば、具体的に準備すべき金額が見えてくるため、目標意識を持った備えが可能となります。さらに、5~10年程度の備えであれば、有期(確定)給付あるいは一時金が主体となっているわが国の私的年金でも対応が容易になります。

④WPPの効果 ~柔軟かつ多種多様な「継投」が可能~

WPPモデルは野球の「継投」に例えられますが、野球の継投策にはワンポイント(1人の打者だけに投げること)やロングリリーフ(長いイニングを投げること)などさまざまな手法があるように、WPPモデルも、就労・私的年金等・公的年金の組合せは多種多様なパターンが考えられます。

また、WPPのうち真ん中のP、すなわち私的年金等の「中継ぎ陣」も、企業年金・個人年金・退職金・貯蓄・NISAなど、退職給付制度や金融商品の組合せも多種多様です。詳細は第2章で解説します。

そして、野球の継投策がイニング数・球数や相手打者の状況を見ながら投手交代のタイミングを決定できるように、WPPモデルも個々人のライフプランに応じて継投の順番・組合せ・タイミングを自由に決定できるという柔軟性の高いしくみとなっています。

●WPPモデルにも課題はある!? 第3回(「何千万円貯めても不安」から脱却できる! 老後生活設計”勝利の方程式” )へ。

***

谷内陽一著『WPP シン・年金受給戦略』(中央経済社)

谷内 陽一/社会保険労務士・第一生命保険株式会社 団体年金事業部 年金推進室 副部長

1997年明治大学卒業後、厚生年金基金連合会(現:企業年金連合会)入職、約10年にわたり記録管理・数理・資産運用などの業務に従事。りそな銀行などを経て、2019年第一生命入社、2022年より現職。日本年金学会副代表幹事、埼玉学園大学経済経営学部非常勤講師、社会保障審議会臨時委員(企業年金・個人年金部会委員)を兼任。社会保険労務士、証券アナリスト(CMA)、DCアドバイザー、1級DCプランナー。著書に『WPP シン・年金受給戦略』(中央経済社)、『人生100年時代の年金制度:歴史的考察と改革への視座』(共著・法律文化社)など。

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