「レバナス」で有名になったレバレッジ、本当に資産形成には適さない?
Finasee / 2023年3月28日 17時0分
Finasee(フィナシー)
2022年の株式暴落までは、若者を中心に「レバナス」と呼ばれるようなレバレッジ(借り入れ)をして投資元本を膨らませて米国株式(NASDAQ指数)に投資をする、レバレッジ型の投資信託を活用する動きがみられていました。2021年は株式市場が暴騰したため、大きな利益を獲得できたと思われますが、2022年に入るとインフレの高進やFRBの利上げなどの影響を受けて株式市場は大きく下落し、レバナスのような投資信託は大きなマイナスとなりました。その影響もあって、最近はこのような商品に対するニーズは一段落しているようにみえます。
また、2024年からスタートする新NISAにおいては、リスクが高いため長期投資には向かないとの理由から、レバレッジを活用している商品は対象外になる予定です。
でも、本当にレバレッジ型の投資信託はリスクが高いのでしょうか? 結論から言うと、私は使い方次第だと考えています。例えばレバレッジを使ったとしても、通常の株式投資よりもリスクが低ければ「レバレッジ=ハイリスク」には該当しないと思います。
単にレバレッジをかけて株式に投資する場合であっても、それが若者には適した投資だという考え方もあります。レバレッジと聞くとそれだけでリスクが高い、怖いというアレルギーを持っている人が多いと思いますが、うまく活用すれば健全な資産運用に資することができるのです。
そこで今回は、このレバレッジの活用方法について詳しく説明します。
そもそもレバレッジとはどんな手法?レバレッジとはお金を借りてきて、投資元本を増やしてから投資することを意味します。でも、実際にはお金を借りるのではなく、先物取引を利用して同様の投資をするケースがほとんどです。先物取引においては、わずかな証拠金を証券会社に差し入れるだけで、本来の2倍、3倍といった投資が比較的簡単にできるのです。
ただし大事な点は、実際に借り入れはしないものの、先物価格には借入金利が反映されているということ。つまり株式の上昇分をフルで得られるわけではない点に注意が必要です。もちろん、証拠金や余剰資金を短期金利で運用すれば、その差をある程度は埋めることができますが、それでも差が生じることは理解しておくべきでしょう。
また、レバレッジ型の投資信託は構造上、レバレッジの調整を行うために「上がったら買い増し、下がったら売る」といった投資行動をするのですが、一般的にはこのような売買行動はマイナスに寄与することが多いのです(特に市場がボックス圏で推移する場合)。
このように借入金利分、および構造的に生じるモメンタム的な売買行動によって、元となる指数を単純に2倍、3倍したものとは完全に連動しない傾向があります。レバレッジ型の投資信託を活用する前に、この点を十分理解しておく必要があると思います。
リスクを抑えた賢いレバレッジの使い方もあるここまでは株式を用いてレバレッジの説明をしましたが、何もレバレッジの対象は株式だけではありません。レバナスが有名になったことで、レバレッジと言えば株式のイメージを持っている人も多いかもしれませんが、安全資産の1つである国債などにも当然レバレッジをかけることはできます。国債に2倍、3倍のレバレッジをかけても、当然のことながら株式よりもリスクは低く、これをリスクが高い投資だと思う人はほとんどいないでしょう。
では、同様の考え方で投資効率(リスク当たりリターン)が最も高いバランス型のポートフォリオにレバレッジをかけた場合はどうでしょうか。一般的に、株式や債券のみへの投資よりも、株式と債券に分散投資をしたバランス型のポートフォリオの投資効率は高い傾向にあります。このような投資効率の高いバランス型のポートフォリオにレバレッジをかけて株式と同等、もしくはそれよりも低いリスク水準に管理する商品は、レバレッジをかけているからと言って株式よりもリスクが高いかと言えば、そうではないと思います。これは現代ポートフォリオ理論に基づく効率的なリスク・テイクの手法であり、決して否定されるリスクの取り方ではないと私は思います。
単なる株式のレバレッジは資産形成に向かないのか?一方、レバナスではもともとリスクの高い株式にレバレッジをかけて投資しますから、リスクは相当高くなります。したがって、これが新NISAの対象にはならないのは合理的だと思う人もいますし、普通に考えればそのような結論になるのでしょう。でも、この商品単体ではなく、ライフサイクル投資の観点からみると、別の結論も出てきます。具体的にはどういうことか、説明したいと思います。
まず、ライフサイクル投資のカギとなるコンセプトは「人的資本」です。この人的資本とは投資家が将来稼ぐ力を意味しており、正確には引退するまでに獲得する給料の割引現在価値と定義されます。したがって、引退するまでに長い期間のある若い人は、人的資本を多く有していることになります。
また、日本人の給料は比較的安定しているため、人的資本は長期の債券に近い特性があると言えます。つまり、多くの若い人が有する金融資産は少額かもしれませんが、人的資本という多額の債券をすでに有していることになります。
このような状況においては、金融資産で多少リスクをとって運用しても、人的資本を含めた資産全体に与える影響は軽微です(全体ではあまりリスクは増えない)。そのため若い人であれば、金融資産の全額を株式に投資しても問題ないと結論づけることができ、この結論は多く人が納得できるものだと思います。
でも、ちょっと待ってください。おそらく皆さんは無意識のうちに「ある制約」をつけて考えています。それは「投資金額の合計は投資元本の100%までとする(レバレッジをかけてまで投資をしない)」という制約です。ところが、100%までとする制約を外して(つまりレバレッジをOKとして)リスク当たりのリターンが最大となる最適資産配分を求めると、若い時にはレバレッジをかけてでも株式投資をしたほうがよいとの結論が導き出されるのです。これを単なる机上の空論と思う人もいるかもしれませんが、計算上はそうなるわけで、この計算に基づく最適解は無視できないのではないでしょうか。
冒頭でも申し上げましたが、新NISAではレバレッジのかかっているレバレッジ型の投資信託は対象外になる予定です。しかし、ここまでお読みいただいた読者であれば、少なくともレバレッジ型の投資信託は、活用次第で資産形成の害にならない点をご理解いただけたのではないかと思います。
株式市場には長期でみると右肩上がりの傾向がありますから、株式のショート(空売り)を行う投資信託が長期投資に不適切なのはその通りかもしれませんが、レバレッジ型の投資信託には一定の合理性があるはずです。もちろん、無制限にレバレッジ水準を上げるのは適切ではありません。何らかの上限を設定すべきですが、上記のようにバックグラウンドがしっかりしている場合には、レバレッジを資産形成に活用できるような道を残すことも必要なのではないでしょうか。
後藤 順一郎/アライアンス・バーンスタイン AB未来総研所長
慶應義塾大学理工学部 非常勤講師、投資信託協会 客員研究員。1997年慶應義塾大学理工学部卒業。富士銀行(現みずほ銀行)に入社し、法人向け融資業務などに従事。2000年からはみずほ総合研究所で、主として企業年金向けの資産運用/年金制度設計コンサルティングに携わる。06年一橋大学大学院国際企業戦略研究科にてMBA取得。同年4月アライアンス・バーンスタインに入社。現在はマルチアセット戦略のプロダクト担当。また、DC・NISAビジネスの推進及びAB未来総研にて顧客向けソリューション/リサーチ業務も兼務している。共著書に『年金基金の資産運用-最新の手法と課題のガイドブック-』(東洋経済新報社)などがある。
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