「増収減益」と「減収増益」はどっちがよいの? 決算書でわかる“決定的な違い”
Finasee / 2023年4月19日 11時0分
Finasee(フィナシー)
企業の業績や財務状況を把握し、今後の成長性や安定性を吟味するために必要なデータが詰まっている決算書。それを読み解く知識は投資家のみならず、ビジネスパーソンにも必須。
いまさら聞けない「決算書」について学びたい! そんな声に話題の書籍『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』が優しく寄り添います。約30年間にわたり、銀行員やコンサルタント、M&Aアドバイザーとして多面的な実務経験を通じて決算書を読みつづけた前田忠志氏が、決算書のエッセンスを見極めるために確立した手法を解説。今回は特別に、本書の「はじめに」と、第1章「大きい取引ができるのは、社長か?課長か?―会社の大きさを読む 損益計算書(PL)1」の一部を公開します。(全4回)
●第3回「会社の規模から従業員数まで丸わかり!? 仕事と「売上高」の意外な関係とは」
※本稿は前田忠志著『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
売上と利益、どっちが大事?次に、利益について見てみます。
PLは、上から「売上高、売上原価、売上総利益、販売費及び一般管理費……」という順で並んでいますが、このように一番上から一行ずつ読むのではありません。途中は飛ばして、一番下の「親会社株主に帰属する当期純利益」を見てみましょう。
自分の給与明細を見るときに、一番上から、基本給、残業手当、何とか手当……と、ひとつひとつ項目を見ることはありませんよね。一番下の手取り額、それが結論というか、最終的にどうなったかという数字ですので、一番下を見ることが多いでしょう。
PLも同じです。売上高からはじまって、いろいろ引いたり足したりします。それで、最終的にどうなったかというのが一番下の「親会社株主に帰属する当期純利益」ですので、そこを見ます。実務では、「純利益」とか「最終利益」ということもあります。
このように、決算書を見るコツは、重要なところから見るということです。これは、慣れるまでは細かいことは気にせずに重要なところだけ見ましょう、というのではありません。決算書を読むプロも、重要なところから見ていきます。重要なところだけを拾い読みできるようになるのがプロの読み方です。
なお、連結PLの一番下は「親会社株主に帰属する当期純利益」ですが、個別PLの一番下は単に「当期純利益」です。
ニトリの純利益は92,114です。単位は百万円です。921億1400万円ですね。売上高は7000億円。そこから、材料費とか、給料とか、家賃といったいろいろな費用がかかって、残ったのが900億円ということです。
会社が利益をあげることはとても大切です。会社には出資者である株主がいます。会社は、株主が出資した資金を使って利益をあげるものです。
株主は、会社の実質的な所有者であり、会社が利益をあげることを期待しているのです。売上と利益の関係では、売上が手段で利益が目的です。株主が期待しているのは利益であり、売上より利益が大切です。
売上や利益は、過去の数字とくらべることで、会社の成長性がわかります。
増収増益とは?前期とくらべて、売上が増えることを増収といい、利益が増えることを増益といいます。売上、利益がともに増えるのが「増収増益」です。売上が増えることで、利益が増えており、会社として望ましい状態です。
増収ということはお客さんの支持が増えているということであり、増益ということは株主にとってもうれしいことです。成長市場で競争力をもちながら事業展開をする会社は、増収増益を続けることがよくあります。
ニトリは、2021年2月期で34期連続の増収増益でした。34期連続は、上場企業で最長といわれています。
増収減益とは?私たちは、給料を受け取ると、そのなかから生活費を使って、残った金額を貯金にまわします。給料が増えると、貯金にまわせる金額も増えるのが普通です。でも、給料が増えても、増えた給料以上に生活費を増やしてしまうと、貯金にまわせる金額は減ってしまいます。
会社も同じで、売上が増えても、それ以上に費用が増えてしまうと、利益が減ってしまいます。これは「増収減益」です。
社員を増やしたり、仕入れの値段があがるなど、費用が増える原因はさまざまです。増収増益だった会社も、競合が増えて値下げせざるを得なくなったりすると、増収減益になってしまうことがあります。
株主にとっては、売上より利益が大切ですから、通常は、望ましい状態ではありません。
会社は、売上を経営目標にすることもよくあります。売上を増やすことで利益も増えれば健全ですが、もし、会社の競争力が落ちているなかで、利益を軽視して無理に売上を伸ばして増収減益になったとしたら、それは本末転倒です。
ただ、将来の利益を増やすために、増収減益となることもあります。たとえば、新商品を出して広告宣伝費を使ったり、営業所を増やして人件費や家賃などの費用を増やしたりした場合です。長期的に見て利益が増えるのは望ましいことです。
減収減益とは?売上が減ると、通常は利益も減ってしまいます。「減収減益」です。売上が減っているということは、お客さんからの支持が減っているということであり、利益が減っているということは、株主としてもよいことではありません。
成長市場で増収を続けていた会社も、市場が成熟すると減収になってしまうことがあります。また、競合にお客さんが流れてしまったり、製造や販売などの力が落ちたりして減収になることもあります。
会社としてはよくない状態ですので、売上や利益を増やすことを考える必要がある状態です。
減収増益とは?売上が減ると、通常は利益も減りますが、売上が減った以上に費用を減らせば、利益は増えます。これは「減収増益」です。
たとえば、いくつかの事業や店舗をもっている会社が、そのなかで、赤字の事業や店舗をやめると、減収増益になります。
売上は、利益をあげるための手段ですから、減っても構わないわけではありません。残った事業や、新たにはじめる事業で、売上を増やせるかどうかが重要です。
また、必要な費用を削って減収増益になる場合もあります。費用のなかには、研究開発費など、必ずしもすぐに利益に結び付かなくても、将来の利益につながるものもあります。
こういった費用を削って増益になることもありますが、将来の利益を犠牲にした増益は、望ましいとはいえません。
『「会社の数字」がみるみるわかる! 決算書のトリセツ』前田忠志 著
発行所 実務教育出版
定価 1,540円(税込)
前田 忠志/公認会計士
東京大学経済学部在学中に公認会計士試験に合格。卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。融資業務、主計業務、統合業務に従事した後、コンサルティング会社を経て独立。“脳の取扱説明書”ともいわれるコミュニケーション心理学にも精通。「心と数字のわかるコンサルタント」として活躍。
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