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「新NISAの対象商品は国のお墨付き」の考えが危険と言える“これだけの理由”

Finasee / 2023年4月6日 17時0分

「新NISAの対象商品は国のお墨付き」の考えが危険と言える“これだけの理由”

Finasee(フィナシー)

2024年にスタートする新しいNISAに関心が集まる中、金融庁が定める対象商品のスクリーニング基準が話題になっています。この基準について、個人の投資家はどのような点を理解しておくべきなのでしょうか?

投資初心者がやりがちな「誤解」

「新しいNISA『成長投資枠』公募投信3分の2対象外」というのは、3月26日付の日本経済新聞の朝刊に掲載された見出しです。新しいNISAが「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つに分かれることは、既にさまざまなところで言及されているので、ご存じの方も多いでしょう。

つみたて投資枠は現在のつみたてNISAの延長線にある仕組みであり、対象商品は金融庁によって決められたスクリーニング基準に沿った、各投資信託会社が申請したものに限定されています。

2023年2月時点の公募投資信託全体の本数は5882本ですが、スクリーニング基準による絞り込みが行われるため、2023年4月時点でのつみたてNISAの対象本数は225本になっています。

ここで注意したいのは、つみたてNISAの対象ファンドについて、「金融庁がお墨付きを与えた……」などという記事がよく掲載されていますが、これはちょっと誤解を招く言い方だということです。

初めて投資信託で資産形成に取り組もうとしている人は、ほとんど知識を持たない状態だと思われるので、恐らくこのような記事を見ると、「そうか! つみたてNISAの対象ファンドは金融庁がお墨付きを与えてくれているから、きっと損をしないんだな」などと勘違いする恐れが大です。

しかし、このスクリーニング基準には、購入時手数料の有無や信託報酬率、信託期間、資金流出入状況などに考慮されているものの、「運用能力の良し悪し」という点は含まれていないのです。

金融庁がスクリーニング基準に含めたのは、あくまでも「長期の資産形成をするうえで適しているかどうか」という点のみ。ここは誤解がないように注意してほしいと思います。

金融庁基準が「投資家の選択肢を狭める」は本当か

さて、金融庁が定めた基準への注意点を確認したところで、公募投資信託全体のうち3分の2が成長投資枠の対象外になるという点について考えてみます。

この点については、「運用会社から『個人投資家の選択肢を狭める』と批判の声が上がっている」という意見も見られます。

しかしながら、そもそも今運用されている5882本の公募投資信託のうち、そもそも「購入するのに値するファンド」が何本あるのかを実際に数えてみましょう。ここでは単純に、現在の純資産総額ベースで足切りをします。

ちなみに、金融庁は、成長投資枠で購入できる投資信託について、

●高レバレッジ
●毎月分配
●信託期間20年未満

のいずれかに該当するものを対象外にする方針を打ち出しているそうです。

しかし、本稿ではひとまず金融庁が対象外にするファンドも含め、公募投資信託全体のうち純資産総額をランキングして低いものを足切りにします。

また、その結果を出す前に、まずは投資信託の純資産総額が何なのかについて簡単に触れておきます。

投資信託の純資産総額とは、ファンドに組み入れられている株式や債券など有価証券の時価総額です。その変数は2つあります。

1つは組入有価証券の価格変動です。株式や債券の価格が上昇すれば純資産総額は増え、値下がりすれば減ります。もう1つの変数は資金の流出入です。新規資金が入ってくれば、それで株式や債券などを買い付けるため純資産総額は増え、逆に解約が生じると組入有価証券を売却するため、純資産総額は目減りします。

つまり、純資産総額は「組入有価証券の価格変動×資金の流出入」という掛け算によって、日々増減を繰り返しているのです。

基本的にファンドの規模を見る上で大事なのは、資金流出入状況と純資産総額の規模感です。上記の計算式でも分かるように、純資産総額は資金の流出入だけでなく組入有価証券の価格変動によっても左右されるため、単純に純資産総額の増減だけを見て「資金が流入している」あるいは「流出している」と決めつけることはできません。

資金の流出入状況は公表されていないため自分で計算しなければならないのですが、本稿では資金の流出入状況について考えるものではないので、ひとまず省略します。

ただ、1つ言えるのは、純資産総額の規模が50億円に満たないような投資信託は、運用の持続性という面でいささか疑義があるということです。なぜなら投資信託には「繰上償還条項」というのがあり、これが「受益権口数が30億口を下回った場合」などというように約款で決められているからです。

30億口ということは、運用当初の基準価額が1万口あたり1万円でのスタートだとすると、30億円がこれに該当します。また、基準価額が1万6700円程度まで上昇した場合、受益権口数が30億口で純資産総額が50億円程度になります。

これらの数字から見て純資産総額が50億円程度あれば、当面は繰上償還に引っ掛からないだろうという大ざっぱな話です。

長期投資に向かないファンドの割合

では、純資産総額が50億円に満たない投資信託は、公募投資信託全体の本数のうちどの程度を占めるのでしょうか。なんと、2023年1月時点で約5600本ある追加型公募投資信託のうち、純資産総額が50億円に満たない本数は実に約3600本もあるのです。

金融庁が成長投資枠については、①高レバレッジ、②毎月分配、③信託期間20年未満、のいずれかに該当するものを対象外にする方針を打ち出しているということですが、このような条件を当てはめずとも、純資産総額で足切りをした段階で、既に3分の2に近いファンドは長期投資に不適格と言ってもよいのかもしれません。

さらに言うと、追加型公募投資信託全体のうち約1800本のファンドは、純資産総額が10億円にも満たない状態にあります。ここまで小さくなると、もはや本当に運用されているのかどうかさえ怪しいというのは、言い過ぎでしょうか。

純資産総額による足切りでさえこのような状況ですから、前述した「金融庁が成長投資枠での購入に不適格と考えている条件」を加味したら、成長投資枠で購入できる追加型公募投資信託の本数はさらに減るかもしれません。

***
 

こうした現状を見ると、世の中の記事に書かれているように、運用会社が「個人投資家の選択肢を狭める」などと批判の声を上げているというのは本当なのか、という疑問が浮かびます。

そもそも純資産総額が極めて小さいファンドなどは運用しているだけで赤字になるため、投資信託会社としては繰上償還させたいと考えているはずです。それができないのは、代行手数料が得られなくなる販売金融機関の反対が多いからではないかと考えられます。

販売金融機関からすれば、たとえ純資産総額の規模が小さく、1本あたりから得られる代行手数料が少額でも、本数が増えればそれなりの収益になるものです。

あくまでも推察に過ぎませんが、実は「個人投資家の選択肢を狭める」などと言っているのは、繰上償還によって販売しているファンドの本数が減ると困る販売金融機関なのかもしれません。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。

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