「お金を大きく増やす」は二の次―老後の資産運用で考えるべき“ある戦略”
Finasee / 2023年4月10日 17時0分
Finasee(フィナシー)
資産運用は若い層だけではなく、収入が限られている高齢者にとっても重要なものです。NISAの利用者の割合を年代別で見ながら、個人投資家は「高齢になった時の資産運用」をどう考えるべきかを解説していきます。
「投資から資産形成へ」その成果とはMUFG資産形成研究所から、3月28日に「若年層の投資に対するイメージとその向上に向けた取組み」というレポートが発表されました。三菱UFJ信託銀行が運営しているMUFG資産形成研究所は、現役時代から退職後の時代までを対象に、資産形成・資産運用に関する調査・研究、レポート作成を行う、2018年に設立された研究機関です。
今回、同研究所が発表したレポートは、若年層の資産形成に対するイメージなどについて分析したものです。特に近年では、つみたてNISAを中心にして20代、30代の若年層における口座開設が増えており、その意識の変化を読み取ることを狙いとしたレポートになっています。
政府は以前から「貯蓄から資産形成へ」という掛け声のもと、個人の資産形成を促すための政策を打ち出し続けてきました。この「貯蓄から資産形成へ」のスローガンができたのは、2001年6月に打ち出された「貯蓄から投資へ」のスローガンがなかなか受け入れられず、その理由を投資という言葉が敬遠される理由の1つだと考えたためです。
しかし、結果として「貯蓄から投資へ」というお金の流れは、全くと言っていいほど起こりませんでした。それは、次に説明する数字を比較すれば分かりやすいでしょう。
まず2000年12月の個人金融資産は1409兆円で、それに占める現金・預金の比率は53.9%でした。次に、2022年12月の個人金融資産を見ると、総額は2023兆円、現金・預金の比率は55.2%でした。
ちなみに、2000年12月時点の個人金融資産における株式の比率は8.6%で、投資信託は2.4%です。それが2022年12月時点での比率は、株式9.9%、投資信託4.3%ですから、両者とも若干上昇はしたものの、相変わらず現金・預金の比率が高く、この22年間において「貯蓄から投資(資産形成)へ」のスローガンは、ほとんどの人に響かなかったことが分かります。
NISAを使ってない人は“こんなに”いるまた、同レポートでは「各世代の人口に占めるNISA口座数割合」をグラフで示していますが、これを見ても、まだまだNISAが広く浸透していないことが分かります。NISAがスタートしたのは2014年1月のことで、かれこれ9年の歳月が経過していますが、それでも各世代にわたり、口座未開設の割合が非常に高くなっています。
ちなみに同レポートでグラフ化されている、口座未開設者の比率を年齢別に列挙すると、次の通りです。
<口座未開設者の比率(年齢別)>
20歳代・・・・・・86.0%
30歳代・・・・・・77.9%
40歳代・・・・・・81.2%
50歳代・・・・・・82.3%
60歳代・・・・・・81.7%
70歳代・・・・・・85.2%
80歳以上・・・・・90.0%
この数字が高いほど、口座未開設者が多いことになるので、各年齢層において、まだ80%近い人たちがNISAの口座を開設していないことになります。
つみたてNISAを使っている人の割合一般NISAとつみたてNISAでは、年齢層が上がるほど一般NISAを利用する人の比率が高まる傾向が見られます。
2024年1月からは「新しいNISA」へと制度が移行するため、現状の数字はあくまでも現行NISAにおける一般NISAとつみたてNISAのものになるのですが、つみたてNISAの比率を年齢層別に見ると、以下のようになります。
<つみたてNISA利用者の比率(年齢別)>
20歳代・・・・・・10.8%
30歳代・・・・・・14.4%
40歳代・・・・・・9.7%
50歳代・・・・・・6.6%
60歳代・・・・・・3.3%
70歳代・・・・・・1.0%
80歳以上・・・・・0.2%
つみたてNISAは長期的な資産形成を目的にした仕組みなので、80歳以上の年齢層になると、これを利用するのは合理的ではありません。普及率が0.2%というのも当然のことでしょう。
「人生100年時代」などと言われていますが、「健康寿命」といって、日常生活が病気やケガによって制限を受けずに過ごせる年齢は、日本人男性が72.68歳、女性が75.38歳です。
その年齢までは何とか自分自身が働くことで収入を得られるものの、健康寿命を過ぎると病気やケガをすることが増えるため、それまで蓄積してきた金融資産の一部を取り崩して、病院代や薬代、場合によっては施設に入居するための費用を捻出しなければならないのです。
そういった意味で、本当の意味でお金が必要になるのは健康寿命を過ぎてからと言えます。もちろん、80歳になってから、「私は100歳まで生きるんだ!」という思いで積立投資を始めるのはよいのですが、現実に目を向ければ、80歳以上になって積立投資を始めるのが正しい判断だとは言い難いのも事実です。ですから、つみたてNISAを利用している80代が0.2%なのは当然のことだと言えるのです。
高齢になってからの「資産運用」どう考える?そして、この数字を見て思うのは、高齢者になってからの資産運用を私たちはどう考えればいいのか、ということです。昨今の資産運用関連の本、あるいは記事などで言われている方法は、あくまでも資産形成層向けの内容が中心で、すべての層に当てはまる訳ではありません。
「長期・積立・分散投資」と金科玉条のごとく言われていますが、果たして70歳代、80歳代になった時、我々はどのような資産運用をすればいいのでしょうか。いつかは誰もが年齢を重ね、高齢者になるので、その時手元にある資産をどのように運用すべきか、今のうちからじっくりと考えていく必要があるように思えます。
先ほどのつみたてNISAの話でも分かるように、70歳代、80歳代の人にとっては、長期で資産を積み上げていくような運用は、決して合理的ではありません。なぜなら、残された時間が非常に短いからです。
かといって、短期売買が正しいとも言えません。株式やFXの短期売買は、基本的に投機に近い性質ですし、投資信託は短期で購入・解約を繰り返すような商品性を、そもそも持ち合わせていないからです。
投機的な取引で保有資産の大半を失うようなことにでもなれば、残された短い時間とはいえ、「今後の人生どうすればいいんだろう……」と頭を悩ませながら、人生設計そのものを大きく見直さざるを得なくなってしまいます。
そうしたことを踏まえると、高齢者にとってよい資産運用の方法なのではないかと思えるのは、やはり「継続的にキャッシュフローが得られる商品」でしょう。
利息、分配金、配当金のどれでも構わないのですが、安定したキャッシュフローが定期的に得られて、それが相応に大きな金額であれば、保有資産を大きく取り崩すこともなく、老後の生活に必要な資金を確保できます。
高齢になってからの資産運用は、「いかに投資した資金を大きく増やすか」よりも、「継続的・安定的にキャッシュフローが得られるか」という点を重視して、戦略を建てる必要があると言えるでしょう。
鈴木 雅光/金融ジャーナリスト
有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。
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