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「意外と知らない」親の資産運用、早めの状況把握が“相続対策”に

Finasee / 2023年5月1日 11時0分

「意外と知らない」親の資産運用、早めの状況把握が“相続対策”に

Finasee(フィナシー)

前回(「住まない自宅」放置で近隣紛争も…家族で決めたい“我が家の最期”)は、家族の財産を守り継承していく40~60歳代のミドル世代が、親亡き後の自宅の行方をどうするのか、親の生前に家族で話し合う必要性について解説しました。

今回は、親が保有する金融商品の管理と相続への対策について説明します。

高齢者が金融商品を管理することの難しさ

高齢になった親が金融商品を保有している場合、今後、親が自分だけで管理をしていくことは難しくなってきます。その原因は2つあり、1つは年とともに親自身の判断能力が衰えること、そしてもう1つは、親が高齢になると証券会社の取引時に制限がかかることです。

1.親自身の判断能力の低下

高齢になると誰しも判断する力が衰えていきます。全員が認知症になるわけではありませんが、2035年には65歳以上の3分の1が認知症患者になる可能性があると言われています。

親が認知症になってしまうと、以後、親が所有する金融商品の売却やポートフォリオの銘柄の入れ替えができなくなります。生活や療養のために金融商品を売却しなければならない時は、法定後見制度の利用が必要になるかもしれません。

筆者の元に相談に来られたお客様の中にも、急激に判断能力が衰えてしまった方がいました。判断能力の衰えが始まる年齢には個人差があるものの、親が一定の年齢、例えば80歳に達した時には、親が自分で金融商品を管理することは難しくなっていくと考え、金融商品の管理方法を子から相談し始めてください。

2.証券会社の取引時の制限

日本証券業協会では、『高齢顧客への勧誘による販売に係るガイドライン』を制定しています。このガイドラインでは、高齢顧客を定義し(※)、高齢顧客への勧誘による販売商品、勧誘を行う場所・方法、約定後の確認、モニタリングの5点について、会員の証券会社に社内規則を制定することを求めたものです。
※75歳以上を高齢顧客とし、80歳以上はより慎重な勧誘を行うべき顧客として区分

証券会社の営業社員は75歳、80歳を超えた顧客には社内規定に即した対応をしなければなりません。ですから、判断能力に問題がない方でも、高齢顧客として区分された顧客の取引には制限がかかってしまうのです。

高齢者にも資産運用は必要!

親が仕事を引退していて定期的な収入がない場合、生活資金が年金で補えなければ、所有する金融資産を取り崩して生活していくことになってしまいます。

そのため、リスクをとって価格変動の大きな金融商品を購入することは控えるべきですが、リスクが限定されて一定の金利や配当収入が得られるような金融商品の運用は、資産の取り崩し期間を長くして資産寿命を延ばすことにつながるので、「高齢者の金融資産の運用」という点については十分検討の余地があると考えています。

しかし、前述のように、親が認知症になる、または判断能力が大きく低下してきている場合は、親本人が取引するのは難しくなってしまうため、子は自分が代わりに取引ができる仕組みをあらかじめ検討しておくことが必要です。まずは、親に所有する資産の状況やリスク許容度を確認することから準備しましょう。

親の金融商品、子はどう管理すればいい?

では、子が親の代わりに金融商品を管理する場合、どのような方法があるのでしょうか? 2つの方法を紹介します。

1.代理人制度の活用

判断能力は低下してきているものの、自分の資産管理を子に任せて(委任して)いるという親の意識のもとでは、口座名義人である親に代わって子が取引する「代理人制度」を利用することができます。

代理人が取引をするためには、事前に証券会社に届出が必要です。証券会社で所定の書類を入手して、その書類に本人と代理人が住所・氏名を自署、届出印を押印して証券会社に提出します。証券会社は、本人と代理人の意思と代理内容を確認した後、代理人による取引が可能になります。

代理人制度は、本人が代理人に取引を委任していることの意思を、証券会社が定期的に確認するため、親が判断能力を欠いた状況になってしまうと、それ以後は代理人制度を利用することができなくなることに注意が必要です。

2.家族信託(民事信託)の活用                                  

「将来的に代理人制度が利用できなくなるかもしれない」という懸念に対しては、家族信託(民事信託)の利用を検討するのもよいでしょう。

信託の仕組みは、信託を引き受ける(受託者となる)子に親の金融商品を移転して、子が管理するというものです。代理人制度は親が判断能力を欠いてしまった時点で終了しますが、信託は親が亡くなるまで、受託者である子が親の資産を管理できます。

ただし、現時点では証券会社の中に家族信託に対応している会社・していない会社がありますので、親の口座がある証券会社に確認してみるとよいでしょう。

信託は難しい仕組みでもあるため、親の判断能力がしっかりしているうちから検討しましょう。

準備せぬまま相続発生…何が問題?

親世代の中には、複数の金融機関や証券会社に金融商品を保有している方もいるかもしれません。そうした方が遺言を作成しないままに亡くなってしまうと、相続人同士でどの金融商品を相続するか、遺産分割協議をして相続する金融商品を決めることになります。

遺産分割協議が終われば、金融機関や証券会社などそれぞれの会社で相続手続きをする必要があります。また、金融機関や証券会社ごとに、被相続人(亡くなった親)の口座から相続人口座へ、金融商品の移管手続きも行わなければいけません。

ここで大変なのは、金融機関や証券会社ごとに相続手続きが異なるため、親が複数の口座を持っている場合、相続人である子の手続きの手間が増えてしまうことです。

さらに、親がどの金融機関や証券会社と取引をしていたのか、子が把握できていないケースもあります。中には、「相続後しばらくしてから親の金融商品の取引があったことを知った」という方もいるようです。

筆者の経験から言えば、株式投資を積極的に行うほとんどの方は、複数の証券会社に口座を持っています。ですから、親が高齢になったら親の判断能力がまだ残っていたとしても、どの金融機関や証券会社と取引しているのか把握が必要です。あわせて、保有する金融商品の内容と取引先を整理しておけると安心です。

遺言を作成しただけでは解決できないことも!

親世代の方の中には、相続人の遺産分割が速やかに行えるように遺言を作成した方も多いと思います。しかし、遺言の内容によっては、相続時に改めて相続人間で話し合う必要が生じることや、親が意図した遺産分割とならないこともあるので、注意が必要です。

例えば、親が遺言に「◯◯株式会社の株式の全部を長男に相続させる」と書いていたとします。しかし、遺言作成してから亡くなるまでの間に、◯◯株式会社の株式が売却され、新たな銘柄や投資信託に買い替えられていることもあります。その場合、長男と他の相続人の相続する額が、遺言を作成した時に親が意図したものと異なってしまう事態が生じます。

上記の例の他にも、遺言作成時には想定していなかった手間がかかるケースは多々あります。財産に金融商品が含まれる場合は、「遺言を作成したから大丈夫」と安心せず、定期的に内容を見直して更新していくことが必要です。

石脇 俊司/継志舎 代表取締役

日本証券アナリスト協会検定会員・CFP・宅地建物取引士。外資系生命保険会社、日系証券会社、外資系金融機関、信託会社を経て、株式会社継志舎を2016年に設立。 金融機関での経験を活かし、企業オーナーや資産家の資産承継対策の家族信託組成とその後のサポートに取り組む。 不動産会社、生命保険会社、証券会社へ相続・事業承継に関する業務推進のコンサルティング業務も行っている。 家族信託の組成を支援するコンサルティングプラットフォーム『信託の羅針盤トラコム(r)』の開発責任者。 著書に『中小企業オーナー・地主が 信託を活用するための基本と応用』(大蔵財務協会)、『税理士が提案できる家族信託 検討・設計・運営の実務』(税務経理協 会)、『信託を活用した ケース別 相続・贈与・事業承継対策』(日本法令)などがある。

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