就任わずか45日で辞任表明…「英国病」脱却したサッチャーとの明暗
Finasee / 2023年5月4日 11時0分
![就任わずか45日で辞任表明…「英国病」脱却したサッチャーとの明暗](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_11993_0-small.jpg)
Finasee(フィナシー)
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近年、イギリスでは女性首相が立て続けに誕生しています。しかしブレグジット(イギリスのEU離脱)を巡る混乱などから、いずれも短命政権に終わりました。史上2人目の女性首相であるメイ氏は就任から約3年、3人目のトラス氏は就任からわずか45日で辞任を表明しています。
その点、最初のイギリス女性首相であるマーガレット・サッチャー氏は、長期政権を築きました。就任は1979年5月4日で、1990年11月28日まで約11年半もの間、首相を務めあげます。
「英国病」からの脱却を導いた“鉄の女”サッチャー氏が就任した当時のイギリスは、「英国病」とも呼ばれる経済の停滞を迎えていました。サッチャー氏は、政府による手厚い保護が労働意欲を減退させ、生産性の低下を招いたために英国病に至ったと考えます。
【イギリス経済における1960年代と1970年代の比較(前年比値の平均)】
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出所:内閣府 世界経済の潮流(2010年 II)
首相に就任したサッチャー氏は、それまでの保護的な政策を転換し、労働組合の解散や規制の緩和などを実施し、市場に徹底した競争原理を持ち込みます。経済は次第に改善に向かい、1人あたりGDPの上昇や高止まりしていたインフレ率の低下が見られました。
大きな方針の転換は失業率の上昇といった痛みも伴ったため、サッチャー氏は批判にさらされます。しかしサッチャー氏は改革を断行し、強いイギリス経済を取り戻しました。サッチャー氏が“鉄の女”と呼ばれることとなった由来には諸説ありますが、批判に負けない姿勢はその愛称にぴったりといえるでしょう。
【サッチャー政権下のイギリス経済の状況(1980年~1990年)】
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拡大画像表示「大きい政府」と「小さい政府」はどっちがいい?
イギリスは第2次世界大戦後、政府が需要を喚起する総需要管理政策や、“ゆりかごから墓場まで”とも称される手厚い福祉政策を実施しました。このように、市場に積極的に介入するような政府を「大きな政府」といいます。サッチャー政権では反対に、市場への介入を抑制する「小さな政府」を目指すこととなりました。
「大きな政府と小さな政府のどちらを選択すべきか」は、選挙にも深く関わってくるテーマです。それぞれどのような特徴があるのか、経済学の観点から簡単に考えてみましょう。
大きな政府は市場に積極的に介入するため、一般に課税を実施し財源を確保します。課税は取引量の低下や価格の上昇などを招き、政府の収入を加味しても社会全体で利益の総量が減るとされています。
この課税によって社会から失われた利益を「死荷重(しかじゅう)」と呼び、他に取引量の規制や参入規制などでも死荷重が発生すると考えられています。このことから、「政府はやみくもに市場に介入すべきではない」としばしば指摘されます。
ただし「市場の失敗」を考慮すれば、自由競争もまた完全ではありません。市場の失敗とは、市場参加者の自由な取引に任せた結果、かえって社会全体の利益が小さくなってしまう現象をいいます。例えば公共財のように社会に重要なものの利益の出しにくいものが十分に供給されないケースや、売り手が商品やサービスを独占し競争が進まなくなってしまうケースなどが代表的です。
また自由経済では政府が介入しないため、租税と還元を通じた所得の再分配には期待できません。従って、小さな政府では経済格差の拡大が進むことが予想されます。
このように、大きな政府と小さな政府には一長一短があり、どちらがよいか断定することは簡単ではありません。また、これらの考え方は完全競争経済を前提としていることも多く、直ちに実際の経済に当てはまるとも限らない点には注意してください。
G7で唯一のマイナス成長…イギリス経済に何がIMF(国際通貨基金)は2023年1月、世界経済の改訂見通しを公表しました。その中で、イギリスは2023年の経済成長率がG7で唯一のマイナスとなる予測が示されます。イギリスは、2022年10月の発表時では0.3%のプラス成長が見込まれていました。
【G7各国の2023年成長率の予測】
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出所:IMF 世界経済見通し
イギリスのマイナス成長が予測される原因として、2022年に4.1%と比較的高い成長を見せたこと、エネルギー価格が高騰していること、また液化天然ガスへの依存度が高いことなどが指摘されています。
もっとも、2024年の成長率の予測は、前回(2022年10月)の発表より0.3ポイント引き上げられました。またイギリスでインフレ率の低下が進めば、より大きな成長が期待できるともIMFは述べています。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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