「新NISAはなぜ生まれた?」国がここまで本気で投資を促す“納得の理由”
Finasee / 2023年5月9日 11時0分
Finasee(フィナシー)
2022年12⽉23⽇、⾦融庁のホームページに「2024年以降のNISA制度」に関する情報が掲載されました。新NISAの全容が明らかになると、ニュースサイトのコメント欄などでは、「すごい改正だ」「ぜひ利⽤したい」といった声が多く⾒られました。
その一方で、金融庁が掲載した情報で制度を完全に理解できたのは、投資に対する知識や高い感度を持っていた⽅だけでしょう。おそらく、「そもそもNISAってどんな制度?」「結局、何がどう変わるの?」という感想を持った⽅も多かったのではないでしょうか。
そこで本連載では、2024年の新制度の開始に備えて、現行の「つみたて・一般・ジュニアNISA」(以下、総称して「旧NISA」)をよく知らない投資初心者の方、旧NISAを使っているけれど、新NISA制度をばっちり理解しているとは言えない投資経験者の方に向けて、極限まで分かりやすい表現で「新NISAのすべて」をお伝えしていきます。
国が投資を勧めるのはなぜ?新NISAの成り立ちを理解するためにも、まずは投資に対する⾦融庁の考えをご覧ください。
“「貯蓄から投資へ」の流れを加速し、中間層を中⼼とする層が、幅広く資本市場に参加することを通じて成⻑の果実を享受できる環境を整備することが極めて重要である。”
出所: ⾦融庁HP「令和5(2023)年度税制改正について」(2022年12⽉)
やや堅い表現でスッと頭に入ってこないので、この説明をもう少しフラットに解釈してみます。
<分かりやすくすると…>
投資をすることで、リターン(お⾦)が得られる。しかし、投資でお⾦を稼ぐほど、税⾦もたくさんかかってしまう。
例えば、株式投資で100万円儲けたとすると、大体20万円ぐらいは税⾦で取られることになる。そうすると、「結局いくら稼いでも、お⾦を取られるのか……」と国⺠が感じてしまい、政府が推奨している「貯蓄から投資へ」がなかなか進まない。
国民が安全を求めて貯⾦に走る気持ちも分かるけれど、政府としては国⺠にはどんどん投資してもらい、経済を潤わせてほしい。そして豊かになってもらいたい。だからこそ、投資をもっと当たり前にしたい。
その思いから政府が作ったものが、「国民が投資で儲けても税⾦は取らない」というNISA制度である。
このように解釈すると、「国は国民に豊かになってほしい」という思いから投資を勧めていることが分かります。
旧NISA制度の課題はどこにあった?前述した「国民に豊かになってもらい、経済を回す」という考え方は、以前からありました。その考えを制度化したものが、2014年にスタートした一般NISAです。
その後、2016年には子どもの教育資金をつくる「ジュニアNISA」、2018年にはもっと長期間かつ少額からの投資を支援する「つみたてNISA」がスタートしています。
これらの3つのNISA制度(旧NISA)の誕生により、いわゆる「中間層」が投資するハードルは格段に下がった一方で、課題も多くありました。例えば、以下のようなものが挙げられます。
<旧NISAの課題①>
●非課税期間
→つみたてNISAは20年間まで投資できるが、一般NISAは5年間と短い
●非課税投資枠
→一般NISAは年間120万円まで投資できるが、つみたてNISAは年間40万円と少額
せっかく中間層が非課税で投資できる制度ができたにもかからわらず、あちらを立てればこちらが立たぬと言いたくなるような、非常にもどかしい点があったのです。さらに細かい部分では、次のような使いづらさ・分かりづらさもありました。
<旧NISAの課題②>
●一般NISAとつみたてNISAは併用できない
→ジュニアNISAは子ども名義なので別枠になる
●一般NISAで、非課税期間の5年間を超えて投資した時の扱いが分かりにくい
→ロールオーバー(※)という、ややこしい手続きが発生する
※投資枠を使って、非課税期間を延長できる制度。例えば、2015年に一般NISAで投資した商品は2019年末まで非課税だが、「2020年の投資枠」を使うことで非課税期間を5年間延長できる
●ジュニアNISAで投資した資金は、親が自由に使うことができない
→ジュニアNISAで投資したお金は「子どもへの贈与」扱いのため、教育資金などにしか使えない(※)
※参考:日本証券業協会「ジュニアNISAに関するよくある質問」
上記のような課題もあり、このままでは国が目指す「貯蓄から投資へ」の流れがうまく進まない、と打ち出されたのが、昨今話題となっている「資産所得倍増プラン」です。
「資産所得倍増プラン」とは?2022年11月25日、内閣官房のホームページに「資産所得倍増プラン(案)」が掲載されました。そこで示された基本的な考え⽅は、以下の通りです。
“(前略)家計に眠る現預⾦を投資につなげ、家計の勤労所得に加え⾦融資産所得も増やしていくことが重要である。(中略)従来は、株式や投資信託への投資は、⼀部の富裕層が⾏うものというイメージがあった。しかし、(中略)20歳代から30歳代の若年層の利⽤が急拡⼤している。また、デジタル化により、アプリ上での簡単な資産の管理や、低廉な⼿数料での豊富な⾦融商品へのアクセスも可能になっており、投資経験の浅い⽅も含めて、幅広く資産形成に参加できる仕組みを整備し、中間層の資産所得を⼤きく拡⼤することが可能である。”
出所:内閣官房HP「第3回資産所得倍増分科会配布資料【資産所得倍増プラン(案)】」
これも堅い表現なので、私なりに解釈してくだけた文章にします。
<分かりやすくすると…>
●国⺠のサイフには「投資にまわっていない、ただ存在するだけのお⾦」が眠っている
●その眠っているお⾦を投資に回し、もっと国⺠を豊かにしたい
●これまでは「投資=⾦持ちがやるもの」というイメージだったが、今はそういうわけではない
●今は少額からでもネットで簡単に投資できる。お⾦持ちじゃなくても、若者でも、誰でも投資できる新時代だ
では、上記の2つ目にある、眠っているお⾦を投資に回すためにはどうすればいいか。それが「資産所得倍増プラン」のメインです。これも内容を要約すると次のような内容になります。
<分かりやすくすると…>
●資産所得倍増プランの⽬標は「NISAの利⽤者・国⺠が投資する⾦額」を5年間で倍にすること
●ターゲットはお⾦持ちでなく「中間層」。この層の資産を増やし、豊かにしていきたい
⾔ってみれば、資産所得倍増プランとは、国が総⼒を挙げて行う「資産を増やそう⼤キャンペーン」のようなものだとイメージしてみると分かりやすいでしょう。
新NISAはなぜ生まれた?先ほど、「資産所得倍増プラン=国による『資産を増やそう⼤キャンペーン』」という例えをお伝えしました。そのキャンペーンで全員もらえるプレゼントとして考えられたのが、「投資で儲かっても税⾦は取りません」という制度。つまり、新NISAなのです。
新NISAは、旧NISAにあった課題をいくつもクリアしています。特に注目したい大きなポイントは2つです。
1.非課税期間の無期限化まず1つ目のポイントは、非課税期間の無期限化です。
旧NISAの非課税期間は、一般NISAで5年、つみたてNISAで20年、ジュニアNISAで子どもが18歳になるまでの期間と、どれも制限がありました。したがって、旧NISAを使うことと「非課税期間が終わったらどうしようか?」という悩みは、切っても切れない関係にあったのです。
一方、新NISAではこの「非課税期間」が完全撤廃。何年、何十年投資しようが、ずっと非課税メリットを得られます。極端な話、投資の出口(買った株や投資信託をいつ売るか)を深く考えなくても、思い切った長期投資が可能になるのです。
2.非課税投資枠の大幅拡充そしてもう1つのポイントは、非課税投資枠の大幅拡充です。
旧NISAの年間の投資枠は一般NISAで120万円、つみたてNISAで40万円、ジュニアNISAで80万円と、そこまで大きくありませんでした。
しかし新NISAでは、“一生に1800万円まで投資できる”という「総枠」の考え方が重要になります。なお、新NISAでは「年間で投資できる額は360万円まで」というルールもあります。ルールについての詳細はここでは割愛しますが、次回以降の記事で解説します。
***もちろん投資にはリスクが伴いますので、実際に投資するかしないかはさまざまな情報を調べて、最後は自分自身で判断をする必要があります。しかし、新NISAは旧NISAのいくつもの課題がクリアされ、格段に使いやすく生まれ変わりました。まさに国がターゲットとする中間層である私は、「これに乗っからない⼿はない」と考え、制度をフル活⽤していく考えです。
今後もいち個人投資家としての立場から、新NISAに関する情報を分かりやすくお伝えしていきますので、ぜひこれからの連載記事にも注目してください!
●新NISAの開始に向けて、2023年中にしておくべき準備とは……? 詳しくは「新NISAは「前準備」が超重要! 知れば得する2023年の動き方」(本サイト記事)で紹介します。
浅見 陽輔/銀行員・証券アナリスト
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科を卒業後、2013年に銀行に就職。10年のキャリアで、投資運用、リスク管理、法人・個人向け融資、システム部門を経験。証券アナリスト、FP2級、簿記2級、税務上級など20種類の金融系資格を保有。趣味は優待株投資と筋トレ。本業の傍ら、Kindle(電子書籍)作家としても活動中。代表作に『図解 新NISA』『トクする株主優待の選び方』『最後のジュニアNISA』『絶対に続く筋トレ』などがある。
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