武田薬品「史上最高額」の大企業買収で株価急落…統合は成功だった?
Finasee / 2023年5月8日 7時0分
![武田薬品「史上最高額」の大企業買収で株価急落…統合は成功だった?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/finasee/finasee_12006_0-small.jpg)
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事業が成熟した大企業は成長スピードが低下する一方、資金力に優れる傾向にあります。これらの要因から、成長戦略にM&Aを据える大企業は少なくありません。M&Aとは、他社の事業や他社そのものを買収することなどを指します。
日本の大企業が仕掛けたM&Aでこれまで最大規模だったものが、武田薬品工業によるシャイアー買収です。2018年5月8日、武田薬品工業が約460億ポンド(約6.8兆円)でシャイアーの全株式を取得することで両社が合意しました。
武田はなぜシャイアーを買収した?武田薬品工業は、1781年創業の歴史ある製薬会社です。もともと国内ではトップクラスの売り上げを誇っていたものの、アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソンやスイスのロシュといった世界的なメーカーとは大きな差がありました。これらの企業はM&Aによってシェアを拡大しており、グローバル展開に遅れれば競争に敗れるという危機感が武田薬品工業にあったとみられます。
そこで、武田薬品工業はアイルランドのシャイアーの買収を計画します。同社は武田薬品工業の主要ラインアップにない希少疾患の治療薬に強みを持つ一方、武田薬品工業が強みを持つオンコロジー(がん)分野で遅れており、両社を統合することで弱みを補い合うことが期待されました。またシャイアーがアメリカ市場で一定のシェアを持つことも、より本格的に海外に進出したい武田薬品工業の興味を誘ったとみられています。
しかしシャイアーは武田薬品工業と同等の規模を持つ大企業で、買収には高額な費用がかかることは明らかでした。この買収計画は2018年3月下旬ごろから報道されますが、巨額な買収費用が嫌気され、武田薬品工業株式は大きく値下がりします。
【武田薬品工業の株価(2018年)】
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拡大画像表示巨額買収で業績はどうなった?
当初は厳しい評価が目立ちましたが、現在では買収の効果が表れ始めています。シャイアーの基盤を手にした武田薬品工業は、アメリカを中心に海外の売上収益が大きく増加しました。武田薬品工業が目指した海外展開の強化は、この買収で大きく進んだようです。
【主な地域別の売上収益】
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出所:武田薬品工業 決算短信
収益力も向上が見られます。本業のもうけを示す営業利益は、買収後に買収関連費用などから減少しますが、現在では買収前を大きく上回っています。もっとも、営業利益率は買収前とほぼ同水準であり、統合によるシナジーの発現はまだ道半ばといえるかもしれません。
【武田薬品工業の業績推移】
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シャイアー買収では特に財務の悪化が懸念されましたが、現在は回復傾向にあります。武田薬品工業は買収のために資金調達を実施したことから負債が積み上がり、自己資本比率は一時30%台にまで落ち込みます。しかし、借入金の返済や発行した社債の償還が進んだこと、また円安や利益剰余金で自己資本が増加したことなどから、2021年3月期に40%台を回復しました。
【武田薬品工業の財務推移】
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買収から5年たちますが、武田薬品工業によるシャイアー買収の成否を語るには時期尚早といえるでしょう。しかし、少なくとも現時点ではおおむねうまくいっているようです。
下落局面で注目したい「ディフェンシブ銘柄」とは武田薬品工業株式のような医薬品銘柄は、一般に「ディフェンシブ銘柄」に分類されます。これは業績が景気の変動の影響を受けにくいとされる企業の株式のことを指します。医薬品のほか、食品や電力・ガス、鉄道など生活に欠かせない商品やサービスを手掛ける企業の株式が代表的です。
ディフェンシブ銘柄はその特徴から、下落局面に強いとされています。例えば2020年2月に起こったコロナショックでは、市場平均より比較的小さな下落幅にとどまりました。
【コロナショック時のTOPIXと業種別ETF(2020年1月末=100)】
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2022以降は株式市場の下落が目立つようになっています。不安定な相場をディフェンシブ銘柄で乗り切るという戦略もよいかもしれません。
もちろん、景気変動とは別の要因で下落することも往々にしてあるため、投資の際は個別に分析することが望ましいです。例えば医薬品銘柄は、主力製品の特許切れや新薬開発の進捗などが株価変動の材料となりやすいと考えられます。
ちなみに、ディフェンシブ銘柄と反対に、景気によって業績が大きく左右される企業の株式を「景気敏感株」といいます。鉄鋼や化学、また紙パルプのように、別の製品に用いられる素材を扱っている企業の株式などが該当します。景気が悪化するとこれらが用いられる最終財の消費が減少し、結果的に素材メーカーにもその影響が波及する構図です。
景気敏感株は値動きが大きい傾向にあるため、投資の際はやはり慎重に検討してください。
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
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